表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

妊娠と出産

先にお伝えしておきますが、私の子どもは心臓の発育が不十分なまま産まれてきました。

そのため、心臓に関する気がかりな描写がありますが、生後3ヶ月を過ぎてからは病的な不安はほぼ無くなりましたので、ご安心ください。



 『〇〇って、良いお母さんになりそうだよね』(←〇〇は私の名前です)


 中学生の頃、クラスの友達にそう言われたことを覚えている。

 小柄だし、決してお母さんにイメージされるような体型ではなかったのに、どうしてそう言われたのかはわからない。

 そんなこと言われても、当時は実感が沸かなかった。

 それが今じゃ、自然にお母さんになって、決して良いお母さんとは言えないお母さんをやっている。


 今、家には普通に、既に私の身長を抜いた子どもと大きな子ども(←夫)がいる。

 狭い家なのに、ふたりは私がどこにいるのか常に把握していたいらしい。

 何かとすぐに呼ばれる。

「ママ!」と、顔を見ればすぐ抱きついてくる子ども。

「ママは、どこいったの?」と、用も無いのになぜかいちいち確認してくる大きな子ども。

 この3人で暮らしている。



♢♢♢♢♢♢


 私が妊娠したのは結婚して3年目だった。


 子どもは欲しかったのだが、なかなか妊娠しなかった。

 仕事が忙しくて余裕がないからじゃないかと母に言われ、仕事を減らした。

 そして、基礎体温を測ってもうまくいかなかったので、排卵日予測検査薬を試すことにした。これも妊娠検査薬と同じような使い方をするスティック状のものだ。

 これを試すと共に、子宮がん検診のときに、それとなく産婦人科の先生に相談した。

 見た所、妊娠しにくい身体ではないらしいとのこと。

 産婦人科の先生からのアドバイスは、検査薬の陽性反応が出たら、なるべく早く行為をするようにとのことだった。

 

 先生のアドバイス通りにした結果、2〜3箱かの使用でめでたく妊娠した。

 こんなことなら、早く検査薬を使えば良かった。でも、これ、結構お高いんで、まずは自力でとのんびり構えていたら、妊娠まで2年半もかかってしまった。


 最初、妊娠したかもと思ったのは、生理でもないのに胸が痛くなったからだった。

 たまに生理の時、胸が痛いときはあった。でも、この時の痛みは、急に敏感肌になったかのような痛さだった。調べてみると、妊娠するとそのような場合があるとのことだった。

 

 それで、妊娠検査薬で確認したところ、陽性反応!

 すぐに産婦人科を受診した。


『検査薬で陽性なら、ほぼ妊娠は間違いないでしょう』

 

 先生からそんな言葉が発せられた。

 初めてのエコー写真。暗い中に白い丸が映っていた。


 これが赤ちゃん! 


 嬉しくて、病院から夫の実家と自分の実家に電話した。

 それほどせっつかれてはいなかったが、どちらもとても喜んでくれた。

 夫は長男だし。うちは初孫だし。


 産婦人科は、友達のすすめで小児科のある総合病院を選んだ。

 赤ちゃんは産まれた瞬間から、小児科の扱いとなると聞いていた。

 何か異常があった場合、対応が早いし近くにいられる。

 友達の赤ちゃんは超未熟児で、帝王切開したあと、赤ちゃんだけすぐに別の小児科のある病院に移された。

 毎回母乳を届けるのも大変だったらしい。

 そのアドバイスは最もだと思った。

 職場から歩いて行ける所に、産科の評判も良く、小児科もある総合病院があったので、そこを選んだ。

 自宅からも車で25分くらいなので、そう遠くもなかった。

 出産予定日は5月、まだ空いていたので受け入れてもらえた。


 夫にはいつ報告したとか、告げたときどんな反応だったか覚えていない。でも、毎日寝る前にお腹を撫でてもらって嬉しかったのは覚えている。


 さて、妊娠中は思ったより順調で、聞いていたつわりもあまり酷くなかったと思う。

 覚悟していたのに体質なのか、つわりでウっとなったことも、吐いたこともなかった。

 つわりが酷すぎて食事がとれなくなり長く入院していたという友達には、とても羨ましがられた。

 私の場合は出産するまで、口の中が苦かった。

 妊娠中は、苦味が感じないくらい濃い味付けにしていたかもしれない。

 そんな中、お菓子のラムネにはまった。口の中が、ひとときだけでもスッキリするのだ。お気に入りのラムネは<アンパン○ンラムネ>で、常に持ち歩いていた。

 程よい酸味と硬さと甘さが、私の好みだった。

 妊婦の皆さまにも、ラムネをオススメしたい。


 さて、妊娠中に男の子か女の子かを教えて貰うかどうかだか、私は準備の都合上、エコーでわかった段階で先生から先に性別を教えてもらった。

 私の子どもは女の子だった。

 無事に産まれてくれさえすれば、どちらでも良かったが、早く名前を考えたかった。


 子どもがお腹の中にいるときは、響きが可愛いと思って<なっちゃん>という仮の名前で呼んでいた。

 でも子どもの名前は、結局<なっちゃん>にはしなかった。

 なぜかというと、その年の女の子の赤ちゃんの人気の名前ランキングで1位だったからだ。

 ちまたに多い名前は、いろいろ苦労があるかと思い、やめた。

 別に新しく夫とふたりで考えた名前は、私の両親にはなぜか不評だった。


『その名前、公園とかで恥ずかしくて呼べない』と言われた時は、少しカチンときた。

 そんな恥ずかしい名前ではない。

 この名前は偶然だが、その年の人気ランキング10位なのだから。

 ちなみに私の名前は漢字の画数を間違えたので失敗したという話を、両親から何度も聞かされていたので、子どもの名前の画数は用心して十分調べた。

 子どもの名前は夫が決め、漢字は私が良い画数を調べて決めた。あまり運勢は信じてはいないけれど、悪いよりは良い方がいいに決まっている。



 夫が仕事の都合で、数ヶ月だけ県外へ行くことになったので、私は実家へ戻った。

 夫は隔週末様子を見に新幹線で帰って来るという生活になった。


 実家では、赤ちゃん用品を揃えながら、のんびり過ごさせてもらった。

 仕事量は減らしていたので、出産予定日のほぼ1ヶ月前まで働けた。

 検診でも母子共に順調で、特に異常はなかった。

 エコーの写真も、だんだんと人間らしくなってくる。


 最後のほうの検診で、椅子に座ってお腹の赤ちゃんの心音をチェックしていた時、他の赤ちゃんと比べてうちの子の脈拍が明らかに早く感じた。

 早すぎないかと少し不安になったのを覚えている。

 でも、その時は何も先生からは言われなかった。

 


 そして、予定日の5日前、夜中から陣痛が起こり始めた。

 陣痛の波の間隔も短くなってきていた。

 隣で寝ていた母を何度も起こしてしまい、申し訳なかった。

 夜中は我慢して、朝に病院に電話したが、『まだ』と言われ、そのまま実家で待機していたが、お昼あたりから、さらに痛みの間隔が短くなってきた。

 そろそろかと思い病院へ電話したら、今度は許可されたので、両親に付き添ってもらってタクシーで病院へ行った。


 すぐに先生の診察があって、


『6センチ開いてるね。立派立派! 頭見えてる』


と褒められた? ようだった。


 なにが立派なんだろう? 頭見えてるって……!?


 そのまま陣痛室へ入った。

 単身赴任中だった夫に出産に立ち会ってもらえるように連絡していたので、夫が病院へ駆けつけてくれた。

 来てくれた夫の両親、付き添ってくれていた私の両親には、夫が来たので大丈夫だと告げて、帰ってもらった。待っててもらえるような場所も全くない病院だったし、いつ産まれるかもわからないのに、待たせるのも申し訳ない。特に母は、前日から私の陣痛に付き合わされて寝不足だから、家でゆっくり休んでもらいたかった。

 

 どこの病院も同じだと思うが、夫立ち合い出産の場合、予め申し込んでおく必要がある。

 病院によってなのかはわからないが、この病院は立ち合い出産費用が万単位で別途かかった。でも、ふたりの赤ちゃんなので、産まれ出る瞬間もふたりで共有したかった。それに、自分の娘の誕生を見れば、父親としての自覚を持って、心構えもしてもらえるかと思った。


 陣痛室では腰の下あたりがすごく痛くて、夫にさすってもらった。

 夜の6時過ぎ、病院の夕食の時間になって、陣痛室で起き上がって椅子に座って夫と病院食を食べていた時のことだった。

 食べる余裕がまだあったのが不思議だ。


 そして、それは突然来た。

 ぶちっと何か感じた途端、バシャーっと突然音がして、下から透明な水が一気に流れ出た。

 最初は何が起こったかわからなかった。


 破水!? と気が付く。


 陣痛室の床が水浸し。

 こんなに羊水って量が多いんだ、と驚いている間に、腰の痛みが途轍もなく酷くなってきた。


 産まれる!?


 看護師さん呼んできて!! と夫に頼んだ。

 すぐに看護師さんが来てくれたが、


『先にトイレに行ってね』の余裕の一言。


 え!? このひどい痛みなのに、これからトイレ? でもそうだ、下剤飲んでるし。


 痛みに耐えながら、トイレに行った。歩いたか車椅子だったか覚えていない。

 痛みでトイレの中で立てなくなり、恥ずかしかったがこの時初めてトイレの緊急スイッチを使った。

 破水したあとは、もうほとんどずっと痛かった。


 看護師さんと病院着を着た夫とともに、なんとか分娩室へ移動した。

 そして、高さのある分娩台にやっとあがる。でもそこからまだ苦しみは続く。

 すでに余裕は全くない。

 頭の方にいる夫に『頑張って』と言われたのだけは覚えている。

 分娩台には腰のあたりに段差があり、そのせいで腰の痛みに拍車がかかるようだった。

 そして、そんな状態で両足が持ち上げられ固定されると、ふくらはぎがつりそうになった。

 固定する位置が高すぎて腰が浮くのだ!

 身長150センチでおそらく人より足の短い私は、この分娩台のサイズに合っていないんだと悟る。

 足がつりやすい私は、焦った。足がつったら、お腹に力を入れることはできない。


 足つりそう!! 仰向け無理です~! 足、固定ダメ~!!! 


 なんと言ったかは、はっきりは覚えていないが、恐らくこんな感じで騒いだに違いない。

 すぐ、足の固定を外してもらって、仰向けだと腰が痛かったので、楽な横向きになる。

 この体勢が一番楽だと、主張した。

 すると、安産教室でお世話になったチャキチャキした助産師さんが、私の片足をその肩に担いでくれて、私は横向きのまま出産にのぞんだ。


 助産師さん、なんて力持ち!

 おかげで、体は楽になった。

 呼吸法は安産教室で習っていたが、そんなのは頭から飛んでいる。

 ふーっ、ふーっ、くらいしかできなかったと思う。

 早く出たいと赤ちゃんが思っていたのか、やたらとせかされている感じがした。

 とにかく、出そうで出したくて仕方がない感覚が続く。

 急がないで、待って待って! 助産師さんが声を掛けてくれた。


『頭出たよ!』


 助産師さんの声。

 頭より、肩が出にくいと聞いていた。

 恐らく、このあと会陰が裂けたか切られたに違いないが、痛みに麻痺しているので覚えていない。

 そのあと、ぬるっとした感覚がして、それを出しきると脱力。

 爽快感があってやたらとスッキリしたのを覚えている。


 破水してからおよそ3時間後、

 助産師さんに足を担がれたまま、横向きで無事初めての赤ちゃんを出産した。

 2642gの女の子だった。

 赤ちゃんの産声が遠くから聞こえたような気がした。

 助産師さんも看護師さんも皆さんしっかりしていて、安心して出産できた。


 特に助産師さん、偉大! ありがとうございました!

 

 朦朧とした意識の中、


『おめでとう、安産だったよ。あと2人はいけるね』


 助産師さんに、そう言われた。


 これでも安産だったんだ……!?



 綺麗になった赤ちゃんが戻ってきて、胸の上に載せられた。

 こんなに大きい子(←標準よりはずっと小さい)が、お腹の中にいたのが信じられなかった。

 夫にも私のお腹から思っていたより大きい赤ちゃんが出てきたので驚いた、と言われた。

 小柄な私のお腹の中では、さぞ狭くて苦しかっただろうと想像する。


 私の赤ちゃんは頭の髪の毛はあまり無いのに顔が毛深かった。

 何と言ったらいいか……。おサルさんぽい。

 額の産毛が濃いし、眉が立派でほぼ一文字につながっている。

 でも、胸に乗っかった温かい赤ちゃんは、世界一可愛いと思った。


 その後、下のあと処理をしますと言われ、分娩台にひとり取り残される。

 ふと気づく。そういえば、先生は?

 先生がいた記憶がない。

 いなくても良かったのだろうか?

 分娩台でまだ休んでいると、担当医ではなく会ったことのない若い女医さんがやってきて、診察し、会陰を縫ってくれた。どんな会話をしたかとか、縫うとき痛かったかとか、何も覚えていない。

 

 こんな痛い思いをして産んだのだ。

 子どもの名前は自分たちで決めた名前にする、とひとり分娩台の上で決意したのは覚えている。


かなり忘れていることが多かったです。

夫とのやりとりとか……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ