血が奏でる足音
ぜひお楽しみください。
僕は目覚めたとき、鼻につく悪臭とアルコールの匂いを感じた。それは前者はとても強く鼻にこたえ、後者はわずかだが確かに存在を主張していて、何だか不思議に感じた。それがどこか懐かしくそしてとても安心する匂いだったから。
目覚めたといったが、実際には意識が戻ったというべきで、僕は目を開けないでいた。意識が戻った時に開かなかったのは、少し目を開くと猛烈な光が網膜を刺激したからだ。僕は瞼から透ける少しの光に目をならしつつ、今の状況を考えた。しばらく、考えた後だいたい理解したので慣れたと思われる光を我慢しながら目を開いた。
「...目の前に一つの死体。床に広がる大量の血。そして、遠くに見えるのは檻か。部屋の形状は半円。大きな扉が一つ、と。」
僕はひとまずてに入れた情報を声に出して理解した。白衣をきた約二十代の若さに見える男性が血を流して死んでいて、それのせいかは分からないが床に血が広がっており、髪の長い女にみえる人間を入れた檻が男性の死体より約十メートル先にある。部屋の形はドーム型で、まるでゲームのダンジョンに出てきそうな禍々しい扉が一つある。と、いったところだろうか。かなり非現実な光景だが、僕はまず白衣の男の手に挟まっていた紙を取り出した。
「俺の友達を助けてあげてほしい。どうするかは、君の自由だ、か。となると、僕をここに連れてきたのはこいつか。」
白衣の男は答えることなく倒れたままだ。もし自分が死ぬことがわかっていて僕をここに連れてきたのならかなりタチが悪い。しかも残した情報はこの紙だけ。他にあるとしても、この血だらけの床をあるかなければ手に入らないのだ。
「仕方ないか。気にしても、ここに突っ立ったままはできないからなぁ。」
僕は血を踏んだ。これはこの人生の中ではじめてと思われる経験だが気持ちいいものではない。僕は徐々に血に対しての興味を無くしつつ檻の方へ向かった。
檻は普通の鉄のようだったが、何か変なものを感じた。それが何なのかは分からないが。
檻の中の人間は少女と思われた。服は汚れたワンピース一枚と随分ずさんだ。おまけに少女は目が虚ろで独り言をひたすら呟いている。どうやら僕の存在にも気づいていない。話しかけてみても、まるで意識はどこか別にあるのかのように反応がない。
「...まぁいいや。とりあえずこの子は連れていこう。持てるかな?」
檻は以外と軽かった。細身な方の僕だが、以外と筋肉があったのか頭の上に掲げるぐらいまでには持ち上げられた。
僕は今さらながらこの部屋を照らしていたのは、天井にある太陽のようなシャンデリアだと分かった。檻は光を受けてその光沢を大きくし始めた。僕は少し考え事をして、何故ここに来たのかを思いだそうとしたが思い出せない。甚だ文句を言いたくなる状況だが、僕は思い出すのはやめてここを出ることを優先に考えた。
しばらく考えると、この部屋には何もないと思ったので扉の向こうに行くことにした。檻の少女は変わらずに独り言マシーンで、死体の処理もしていない、むしろ出来ないのだがそのままにすることにした。
「この扉の向こうは部屋の続きだろうか。それとも出口だろうか。出口だったらいいんだけど。」
僕は扉の目の前にたった。近くでみるとこれまた細かい所まで装飾が施されている。描かれているのは全て鬼や悪魔、閻魔などと思われたが、これではまるで地獄の扉だと言いたくなる。
もしかするとこの扉の向こうは部屋でもなく出口でもなく、地獄なのかもしれない。そう考えると、 扉を開けるのも億劫になりそうだ。だが、ここは進まなくてはいけないので、僕は扉を開けた。
扉は徐々に動いていった。少しずつ音をたてて、ゆっくりと開いていった。この時の音もまた、甲高い何かの叫びのように感じて、雰囲気を増した。
少しだけ力を込めて扉を押すと、遂に向こうの景色をみた。
向こう側の部屋は、先ほどと同じドーム型。左右に今開けた扉と同じものが四つあり、正面には他の二倍ほどある扉があった。それよりも僕の目を引いたのは、部屋の真ん中に刺さる銀色の剣。その剣は、遠くから見ても分かるほど匠なもので、僕は近寄らずともその剣がどういうものか分かった。
『その剣は生きている。』
不定期投稿ですので続きが気になる方は気長にお待ちを。