王様はやっぱりクズでした
遂に、雷の本当の姿が明らかに
「私に御用があると伺ったのですが」
片手を胸に当て、頭を下げる。
世界が違うとは言え相手は王だ、かしこまって損は無いだろう。
「うむ、頭を上げよ」
それにしてもほんっとに威厳の欠片も無い王だな。
「ひとまず、この度の不祥事、誠に申し訳ない。この国の王として謝罪しよう」
だったらまずそのヘラヘラした顔と腹を引っ込めろよ。
何故だかこの王を見ていると無性にイライラしてくる。
「だが貴様を返す事は出来無い。あの魔法陣は世界と世界を繋ぐ事は出来ても、無数にある世界の中から特定の世界と繋がる事は出来ん」
・・・まあ、予想はしていたことだ。
それに、魔王様のいないあの世界に未練など無い。
「だからな、最初は貴様を保護する予定だったのだが、良い案が浮かんでのう。ところで、今回の勇者は魔族を殺す事に抵抗があるように見える」
「・・・私共の世界、少なくとも国では生物を殺す事は嫌忌されていますから」
こいつ、何する気だ?
俺は静かに臨戦態勢をとる。
「そうか、戦場では一瞬の隙が命とりと言う。何か、魔族に強い恨みでもあればいいのだがな。そう、手違いで来た友人が殺されるとかのぉ」
王が笑いながらそう言った瞬間、数十本の放たれた矢が俺を取り囲んだ。
「クックックッ、フハハハハハハ」
矢が肉に突き刺さる音は止み、王の笑い声だけが聞こえる。
「どうじゃ、我が国が誇る近衛三銃士が一人『神駿なる射手』の千の矢の味は」
王が笑いながらら雷だったものに近づこうとして、いつの間にか横にいた弓を持つ騎士に止められる。
「お待ちください···こやつ、まだ息がありますぞ」
「何?お前の千の矢を受け、まだ息があるだと?」
王は信じられないと言う顔で矢の山を見つめる。
すると、その中から微かに笑い声が聞こえて来た。
「クックク、そうか···思い出した。」
「なっ···!?」
王は聞こえて来た声に震え上がった。
「王よ、あんたには何故だか苛つくと思っていたんだか、今解った。あの時の人族の軍師に似ているんだ」
俺が魔王軍の将だった頃、一度だけ戦った男。
最初こそ威勢は良かったが、段々こちらが有利になると急にどんな悪列な手段だろうと兵の事も考えず実行し、最終的には戦争を放り出して一人で逃げたクズ。
そいつと笑い方がそっくりだ。
「あーあ、もう人間のフリは無理か」
突き刺さった矢が振動し、どんどん深くへ入り込んで行く。
人の形に止めていた身体をゆっくりと肥大化させ、人と同じ色をさせていた身体を原色に戻す。
身体の中に入り込んだ矢は溶かし、細胞へと変化させる。
「あ···ああ······」
王は腰を抜かし四つん這いの状態で逃げて行く、実に滑稽だ。
「···その形を持たぬ身体、貴様スライムか」
騎士の方は弓を構えてこちらに向けている。
王とは違い流石騎士と言った風貌だ。
「たかがスライムごときが驚かせおって、貴様らの弱点など分かりきっておる。中のコアを破壊すれば一発だ」
「ああそうだな、それが普通のスライムならな」
さっきとは比べものにならないほと巨大化し、ダークパープルの輝きを放つ雷は言い放った。
「全てを喰らい、全てを溶かす事がスライムの力だ。コアなど、当の昔に食べちまったよ」
昔、不死身の魔将と呼ばれた魔王軍総指令将の種族は、どこにでもいる最弱の種族『スライム』だった。
···一文、絶対噛むんじゃないかってところがある。と言うか噛んだ。