初老騎士
魔獣を倒したスライ、そこへ騎士達が近づいて行く。
「よし、戻るか。」
「そう、だね···」
魔獣を倒したスライ達の間に、気まずい雰囲気が流れる。
前までは気にしていなかった数十cmを、ついつい意識してしまう。
だが、それから意識を逸らそうと二人はあたふたとどうでもいいような事を確認していく。すると、遠くからガシャガシャとした金属の擦れる音が聴こえて来た。
あれは···鎧の擦れる音、しかもかなり大勢いるな。
そう言えば町の奴が近々王国騎士達が魔獣を討伐しにやって来るとか言ってたな、すっかり忘れていた。
スライはようやく意識を切り替え、どうするかを考える。
魔獣は俺が倒してしまったからな、隠すのは無理がある、ここはこちらから出向いてやったほうがいいか。
「ルリア、俺は、一足遅かった騎士達に挨拶してくる。その間に気持ちの整理をつけといてくれ。」
「う、うん。」
ルリアの顔が少し赤い、だがそれにスライは気付かず茂みをかき分け音のする方へ進んでいった。
500m程歩くと、そこには予想通り鎧姿の集団が山道を歩く姿が見えた。
スライは細胞で補強していた衣服の戦った跡を表し、茂みから姿を現す。
急に現れたスライに驚く騎士達、だがその手はすでに剣を握っており、熟練者の風格を漂わせている。
「驚かせてしまったのなら謝ろう。」
スライは一際力強そうな馬に乗る恐らく指揮官であろう人物に問いかけた。
すると男は馬から降り、ニカッと笑う。
「いや、この隊にその程度の事で気を害するような小心者はおらんよ。ところで儂らはこの近くに棲むと言う魔を討伐しに来たのじゃが、それは奴にやられたものか?」
シワの目立つ白髪の男、恐らく60歳位だろうが、その全身の隆起した筋肉は他の騎士に比べても群を抜いていた。
まさに歴戦の戦士と言う感じだな。
「ああ、それについて少し言いたい事があって来たんだ、騎士殿。」
「衣服を破られていると言うのに落ち着いておるのぉ。」
フォッフォッフォッと笑ってはいるが、目はどんな嘘をも見逃さないと言っている。
あの愚王の騎士なのが信じられない位惜しい奴だ、もし魔族だったら真っ先に潰すか取り入れたいタイプだな。
騎士の独り言を無視し、告げる。
「実はその魔獣なんだが···俺が先に倒してしまった、申し訳ない。」
「なっ···に···」
だが俺の言葉は予想外だったようで、鋭かった目が大きく見開かれている。
周りの騎士達もポカンと口を開け、フリーズする。
王国騎士が本当に驚く位強い魔獣があれとは···本当にガッカリだ。
「そっそそそんな冗談は止さぬか旅人よ、さすがに驚いたぞ。」
「事実だ。」
「······」
騎士は腕を組み、こちらをじっと見つめ、一言だけ呟いた。
「連れてけ。」
最近なにかと疲れやすいなー、って感じます。
やっぱり人間は時に勝てないんですかね。