導きの女神と転生の話2
(それで召喚を…じゃあ今も異世界に危機が迫っているってこと?)
紡は導きの女神に尋ねた。
"…………………さあ……?"
フェルシエラは腕を組み首をかしげる。
"確かに魔物の数は増加傾向にあるが、取り立てて大きな問題はないな"
「………ないんですか…?」
紡が念を押して聞くとフェルシエラは快活に笑う。
"いやーどうも私はローディスノアに住んでいたが、最近の世界情勢に疎いんだよなあ。…あ、ローディスノアって異世界のことな。ぶっちゃけてしまうと導きの女神だなんだって呼ばれているが、未来予知とか私より上の奴人間の中にもいるし、もう一つの私の能力の運命を変える力はちゃんと他に運命を司る神とかいるからそいつの下位互換なんだ"
この神様は力の弱い神様なのだろうか。と紡は考える。すると導きの女神は紡に指を指し反論する。
"おいっ!お前!確かに私は神の中では低めの能力で攻撃魔法とか使えないが、お前をこの空間に召喚したのはどこの誰でもないこのわ、た、し、だ!それにだな、お前を回復したのも私だ!確かに治癒を司る神もいてそいつの方が癒やす力は強いけどな!この空間に呼ぶのだって空間を司る神の方が効率よく呼べただろうがな!…………あれっ…。私って以外と無能……"
頭を抱えてう~、う~と唸っているフェルシエラ。しかし、紡は今の話を聞いて好意的に解釈をした。
「つまり、女神様は治癒を司る神や空間を司る神と比較出来るくらい強い能力をもっているんですね…」
微笑みながら紡が自分の意見をいうとフェルシエラは目を輝かせた。
"それだーーーーー!……じゃなくて、そうだ。そういうことだ!私は他の神3柱と比較を出来るくらいの能力を持っているんだ!"
これで私の威厳は保たれるだろう。とフェルシエラは指を3本立てニッと笑った。
「…そういえば前に召喚されたときは魔族に侵攻されていて、危機が迫っていたということですよね。そしてさっき異世界の人が特別な存在を召喚して地球の人を特別な存在だと勘違いしただとか、と云うことは召喚された人が魔族を殺した…ということですよね。その人たちはその…戦いに巻き込まれたんですか…?それとも自主的に戦ったのですか?」
紡が今、聞きたいと思っていることは3つ。
1つ、今の質問。以前の召喚に巻き込まれた人は戦闘に巻き込まれて戦わされたのか、自主的に戦いをしたのか、戦わされたのだとしたら次の召喚でも召喚された人になんらかの手段で戦わせる可能性が高い。それが気になったのだ。
2つ、転生することをキャンセルすることは可能なのか。紡は一度本当なら死んでいる。また、死にたくなくて死んでしまったならまだしも、もっと生きていたいとも思えない。
3つ、転生するとは言っていたけど、どのような形で産まれてくるのか。異世界の人の人生一つ潰して転生させられるとしたら、その人があまりにも可愛そうだと紡は思った。
フェルシエラは言いにくそうに返答した。
"…いや、召喚された奴の数は7人いたんだが実際に戦いに赴いたのは4人だ。…戦いに有利になる力を貰っていたのが2人で治癒の神の加護を持っている奴が1人、他はなにか物を作ると強い力を持つ物が出来る創作の神の加護を持つ奴とか鍛冶の加護を持つ奴、料理の神の加護を持つ奴、空間の神の加護を持つ奴がいた。…そして、創作と鍛冶と料理の加護をもらった奴を半ば人質のような形にして他の三人に戦わせていた…"
「…戦いに巻き込まれて誰か死んでしまったのですか…?」
そう紡が問いかけるとたちまちフェルシエラは顔を暗くする。
"…戦わされた3人は戦死した。…内1人は呼び出した国の奴に殺された"
自分勝手なものだが、召喚された国はだいぶ魔族を撃退してから強くなる一方の異世界人や、それに伴って高まっていく名声にいささか危機感を覚え、わざと無理な特攻をさせて二人を殺し、そうしたなかでも生き残ってしまった一人を殺した。残りの空間の神の加護を持つものは生き残ったようだった。
"まあ、こっちの世界ではそんな出来事があってから500年近くたっているからな…。人間の命は短い。もう生きている奴はいないだろう"
「そうですか…今度のその召喚はキャンセル出来ないんですか…?そんな世界に召喚される人は不幸になってしまうと思います」
"……無理だ。私の神格は高くない。それに私を信仰しているものは少なく発言力もない。教徒に神託で止めるよう伝えることが出来ても、止められることは絶対に出来ない。…最悪なことに私より未来を見る力が優れている運命を司る神は召喚を推進してしまっているからな…"
フェルシエラはそこまで言って深いため息を吐く。彼女は自分をライバルだと言ってくれたアイツならきっとこんな問題も解決してしまうんだろうな、とらしくもなく干渉に浸る。
「…止めることは出来ないんですね…」
紡はこれから召喚されるであろうもののことを思い、胸を痛くした。
▽
白い空間にも慣れてきた紡は2つ目の質問をすることにした。
「女神様。僕の転生をキャンセルすることは可能で"無理だ"…すか……?」
紡の質問に食い気味に否定の言葉をするフェルシエラ。ここは彼女の作った空間。紡の考えはまるわかりなので、あらかじめ答えを決めていたのだろう。
紡はそのことを思い出しなぜなのかを問う。
「…どうしてですか?」
"この世界にいくらいる可能性を秘めた存在だろうと、地球の世界の魂を持ってきてしまった。そのことじたいに問題があるんだが、その魂を神が殺すことはもっと問題なんだ。…最悪の場合は地球の神と異世界の神との争いに発展しどちらかの世界が消滅するまで戦い合うことになりかねないからな"
フェルシエラは胸に手を当て力説する。
(この話…嘘だな……)
根拠はないが紡はこの話が嘘だと直感的に思った。そのことに当の紡本人が驚く。紡はどちらかというと人を疑わない人間で騙されやすい人間だと自分で思っている。例えば、雑誌の裏の方に書かれている胡散臭いアクセサリーを見て、「こんな効果があるのにこの値段。…安いな…」と一番はじめに見たときに呟いたりしていた。
そのくらい騙されやすい人間なのだ。
紡の心を読んだフェルシエラが目を見開く。
"どうして今の話が嘘だと思ったんだ!!!!!!!!!!"
今までの頭へ響く感じの声が強くなり思わず紡は頭を抑える。
"あ…。取り乱してしまって悪い……。………いや……まさか…な……"
フェルシエラがブツブツ何かを思案するようにつぶやくが、頭に響く声は小さく紡には聞こえなかった。
"まあ、今の話は嘘なんだが、本当は私の立場が悪くなるだけだ。ただの人に過度な干渉し、あまつさえ神界に止まらせる。バレれば面倒なことになるな。…お前に嘘を付いたのはああ言ったほうが素直に転生を受け入れてくれるだろうと思ったからだ。いろいろ人に迷惑をかけてしまうこと避けていたみたいだからな…"
フェルシエラは手を合わせ紡に頼み込む。
"だから、頼む!転生を受け入れてくれ!"
特別、紡に了承を取らなくても転生をさせてしまえばいいのではないかと思うだろうが、転生の魔法を受け入れるか受け入れないかで魔力の消費量がだいぶ変わってくる。
「あっ!あのやめてください!拝まないでください!」
紡は女神様にお祈りされるが如く手を合わせられ居心地悪く思った。手を合わせていたフェルシエラは言われるとやめた。
「あの、最後に一つ教えてください」
"ああ、転生させた先の人の人格がどうなるかか?それが心配なら転生ではなく単純にお前の体の時間を戻して赤ん坊のころに戻しどこかに転送させるという方法も提案できるがどうする?"
フェルシエラは転生ではなく、体の成長を戻して特定の場所に転送させる方法を提案する。
(その方がまだいいよね…)
「それでは、その方法でお願いします」
紡はそのほうが気分が幾分か楽なのでその方法でやってくれるようにフェルシエラに頼んだ。
"ああ、分かった。…お前と時間を話して潰している間に体のだるさも抜いていたから、お前を転送させられるくらいには回復できたな"
フェルシエラは口角を上げ笑いながらそういった。