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導きの女神と転生の話1

 導きの女神フェルシエラは自分で作り上げた水晶型の魔導具で異世界ーー地球という名の日本という国を覗いていた。この世界ーーローディスノアにて人間たちが異世界召喚するという夢を見たのでその下見だ。


 まぁ、下見をしたところで無駄になるかもしれないともフェルシエラは考えているのだが。

 この世界には他の世界との時間の進みを調整する「時の神」がいない。すなわち、この世界で過ごした1日が向こうの世界の1年になったり、この世界の100年が向こうの世界の1年になったりするようで、時間の進みが変則的なのだ。

 だから、この世界で召喚を行うとき、向こうの世界は何年進んでいるのか掴めないのだ。


 水晶に映る光景を見ながら、異世界と繋ぐと俯瞰するだけでも魔力が持って行かれるな、と頭を搔いていたフェルシエラは目を見開き、詠唱した。

「 "運命よ 導かれよ" 」


 この世界でいう神という存在は、世界から直接力を授けられた存在だ。女神フェルシエラはもともとエルフ族だったのだが、その力が世界に認められて女神となった。彼女に授けられた能力は「運命を導き変える」能力と「未来を見る」能力だ。


 とはいっても、彼女に授けられた能力はそこまで強くない。

 運命を変える能力といっても、「神気」という力を消費しなければならず1日に一度くらいしか使えない。しかも、絶対に運命を変えられるというわけでもないから使い勝手も悪い。


 未来を見る能力は運命を変えられる能力とは違い、自分の好きなときに見られるわけではなく、寝ているときやボーとしているときに稀に見られる程度だ。こちらは神気を使わなくてもいいという利点もあるが。


 今、一日に一度の運命を変える能力をフェルシエラが使った理由。それは目の前の水晶が映し出す光景にあった。大きな鉄の箱に轢かれそうになっている人物。彼は夢の中で異世界に召喚されていた人の一人だったからだ。

(彼はここで死ぬ運命もあるのか…)


 フェルシエラの未来を見る力はあくまでも「可能性の高めな未来」なため100%こうなるというものでもない。しかし、この世界に来る可能性の高い人物が死にそうになっていたので、咄嗟に助けてしまったのだ。

(あまり神が直接干渉するのはよくないことだが、助けてしまったものは仕方がない。それに、私のライバルも死にそうな人がいたら迷わず手を差し伸べるだろう…)


 うんうんと頷いていたフェルシエラだったが、水晶を再び見るとーー

「…お、お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!なんで死んでいるぅぅーーーーーーっっっっっっっっっ!!!!」

 赤く血塗られた男が倒れていた。

 彼女は思わず大声を上げた。


 体の感覚が再び戻ってくる。

「…ぅぅ…」

 目を開けると辺りは白一面の空間。どこを見ても壁がなく紡には気味の悪い空間に思えた。自分の体を確認すると衣服には血がべったりとくっついているが怪我はなく、体の調子もいい。


(…ここはどこ?)

 紡はパニックになることなく、そう考える。むしろ状況が追いつけなくて逆に冷静になれているのかもしれないが。


(僕は轢かれてここにいるってことはここは地獄かな…)

 "どこをどう見たらこの空間が地獄に見えるんだ…!"


「…!誰かいるの…?」

 紡が呟く。

 ーードサっ!

「えっ!」

 すると20歳くらいの見た目の女性が空中から落ちてきた。落ちた瞬間に地面が沈み衝撃を逃しているようだった。

 "ア"ァ"だるい"

 彼女の言葉が紡の頭に響く。紡の知らない言語で話されたそれは。聞こえた瞬間に言っていることが分かる。落ちてきた女性は自身の腕を支えに体制を整えようと奮闘したが、結局崩れ落ち立てなかった。


「…あの、大丈夫ですか!?手を貸しましょうか?」

 "大丈夫だ!べっ、べつに座ろうとしていないからな!"

「そうですか…」

(手を貸すって余計なお世話だったかな…?)

 紡がそう考えるとそれに答える声があった。

 "…べつに余計なお世話じゃあない。仕方ない!手を貸りてやる…!"


 フェルシエラはゆっくりと手を紡の方にさしだたした。そして、紡はフェルシエラの手を取り引き上げる。すると彼女は座ることが出来た。その光景は見るものがいれば、介護される老人と介護する少年を思い浮かべるだろう。フェルシエラの髪色が鮮やかな金色なのでそのような誤解は生まれないとはおもうが。


(結局、座ろうとしていたってことかな…?)

 紡が首をかしげる。

 :"さ、さあどうだろうかね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ一つ、私はお前にいいたいことがある。……………支えてくれて…………アリガト………"

 フェルシエラはそういうとそっぽを向く。


(…あれ、考えてること読まれてる…?)

 "やっと気付いたか…。"

 紡が疑問符を浮かべて考えるとフェルシエラが答えた。

 "ここは私の作った空間だ。お前の考えてることくらい手に取るようにわかるのさ"


 そう言ってフェルシエラは得意げに笑った。

「…質問いいですか?」

"ああ。いいぞ。そのためにお前の前に現れたのだからな"

「あの…あなたは誰ですか…?神様なんですか?あと僕は死ねたのでしょうか?」

 紡が疑問に思っていることを矢継ぎ早に聞く。

"まあまあ、そう焦るな。…一つずつ答えるぞ。私の名前はフェルシエラ-ルーナという。神様かと聞かれると神様になった、という方が正しいか。最後の質問だがお前は死んではいない。…死にそうにはなっていたがな"

「それでは僕は死んではいないんですね…。ましろーー白い猫も無事ですか?」

" ああ無事だ。…というかおまえが助けなくとも無事だったかもしれないけどな。あの乗り物の高さ的に"


 トラックは確かに車高が高かった。

 紡は自分が投げ飛ばしたことでもしかしたらましろが傷ついたのではと思い顔を俯けた。

"そう落ち込むな。自慢じゃないが私の予想は外れることが暫しある。助けなかったら死んでいた確率も確かにあるんだ。ただ何かを救おうとして自分を犠牲にすることは褒められたことじゃないけどな。お前が死んだら嫌だというやつもいるだろう"

「そうですね…」

(確かに迷惑をかけてしまう。僕をおいてくれている人達に…)


 紡はましろを救えたことが嬉しいと轢かれるとき思っていたが、それだと迷惑をかけてしまうとフェルシエラの言葉に気付けた。

"………私が言っているのはそういう意味じゃない…"

 頭に語りかけるフェルシエラの声が小さくて紡にはよく聞き取れなかった。

(…?あ、あのトラックの運転手さんは無事なんですか?)

 トラックは民家の塀に追突していた。幸いその民家は空き家だったのだが。紡はトラックの運転手の安否が気になった。

"…ああ無事だ"

(そっか、よかった)

"お前は他のヤツのことばっかで、自分のことは気にしないんだな"


 そういえば体に傷がないと思い出す。

 紡は指を開いては閉じたりしたあと、腕を回し体の調子を確かめた。至って良好だった。

(さっきの話で死にかけていたといっていたけど、女神様が治してくれたのだろうか…?)

"そうだ。私が治したんだ。体の調子はどうだ?"

「轢かれる前のときより軽いくらいです」

"まあ私の回復魔法はそこそこ強力だからな"

(魔法…?)


 紡は首をかしげる。魔法というのはほうきにのって空を飛んだり、呪文を唱えて摩訶不思議な現象を起こしたりするもののことだろう。しかし、回復魔法。文字通り見たら傷を癒せる呪文を唱えるのだろうか。と考える。致命傷も癒せると考えると現代の医療レベルを超えているのではないだろうか。


(致命傷を治せる魔法。呪文は"ちちんぷいぷい。痛いの、痛いの、飛んでけー"とかかな…?)

"ん…?ち、ちちんぷいぷい?なんだそれ…?"

「僕の住んでいる国にあった子供が怪我をしたときに、唱えるまじないみたいなもの…ですかね」

"ほう…。地球の日本には魔術を使えるものなどいないと聞いていたが、私は欺かれたということか…"

 ムムッと顔を顰め、アイツ絶対赦さない、などブツブツ言っているフェルシエラ。


「いえ、瞬時に傷を治せるものではなく怪我した子供を宥めるくらいの効果しかありません。…どちらかというと暗示みたいなものだと思います」

"暗示…………一種の洗脳みたいなものか"

(それはちがうんじゃないかな…)

"…違うか?痛みを感じているのに、とんでけーとか言っただけで宥める効果があるんだろ。本当に飛んでいくものでもあるまいし、痛みは飛んでいったからお前が痛いはずはない。というトンデモ理論を相手の脳裏に刻み込む。ほうら、一時の洗脳みたいだろ?"

(なるほど…)

 紡はフェルシエラの面白い見解に頷く。


"まあ、この話はとりあえずおいといて、本題に入りたい"

 フェルシエラが真剣な表情になり、続ける。

"お前には、異世界に転生してもらう"

「異世界に…?どうしてですか?」

(それに傷を治したのに転生?)

 紡には疑問だった。なぜ唐突に「異世界」なんて 出てきたのか分からなかったからだ。これはフェルシエラの説明不足によるもので、彼女は自分が神だ、とは言ったが異世界のなんて一言も言っていない。なので、紡は魔法か神的なエネルギーで日本にもどされるのでは…、と考えていた。しかも、もっと気がかりなのが転生させるということ。せっかく傷を治したのに赤ちゃんからスタートだと、傷を治した意味がないんじゃないかと思ったのだ。


"ああ、私は神と言ったがお前の世界の神ではない。お前の世界からいうところの異世界というものの神だ。傷を癒したのはお前の魂が霧散しないようにだ。…また、お前はこの世界線に存在する可能性がある奴だからだ"

「…この世界線に存在する可能性…ですか…?」

"ああ、一応私は導きの女神と呼ばれている。私の能力に未来が見えるというものがあるのだが、この世界でどうやら異世界召喚。お前がいた地域の人間達の何人かが召喚されるんだ。その見た未来にお前も共に召喚されていたんだ"

(…。どうしてわざわざ異世界の人を呼び寄せるのだろうか?)


 紡は疑問に思った。

"…実は以前にも異世界召喚が行われたことがあるのだが、異世界に送りこまれるやつを不憫に思った神数人が、加護を与えたんだ。異世界召喚された理由は当時の人間たちの国に魔族が攻め入ったから、魔族というのはこの世界にいる一部の亜人の総称だ。…まあ、人間たちはそのとき行使した魔法は特別な存在を召喚するものだと勘違いしていたようだが、結局神の与えた加護のお陰で変に強い力をもってしまった彼らを見て、召喚したやつらは成功したと思い込んでいるらしいがな"


(それで召喚を…じゃあ今も異世界に危機が迫っているってこと?)

 紡は導きの女神に尋ねた。

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