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異世界で人生を紡ぎたい  作者: も~じゅー
村での生活
24/41

不安の種と仲直り

 次の日。

 昨日はエリスに本を読んで貰ったので、ツムギは今日は散歩に行くことになった。


 昨日の絵本の内容は、『勇者が魔王を倒してお姫様と幸せに暮らしました』一行で伝えるならば、そんな言葉で事足りた。


 しかし、途中ツムギは気になる記述があった。それは、勇者の仲間の一人が『神の元から呼んだ戦士』と書かれていたことだ。この話が実話を元にして作られたものならば、この人は召喚された人物なのでは? と女神の言ったことを思い出して、そう思ったのだ。


 しかし、『神の元から呼んだ』人はその人だけしか出ておらず、女神の話で召喚された人数は7人だったので、他の6人がどこにいったのか分からない。

 けれど、もしこれが『女神様の言った召喚された人』ならば、と考えるツムギは、歴史からも地球からも消された他の6人が不憫で、戦わされた絵本の中の戦士が報われる想像が出来なくて、言い様のない気味の悪さが心に燻った。


『ハッピーエンドの絵本に出てくる人達は、絶対に全ての人が幸せにはなれない。幸せの影には必ず不幸があるーー』この世界に来る前に、祖母が生きているときに放った言葉を、なんとなくツムギは思い出した。


 夏の暑さは段々となくなり、寒い日と少し暑い日が交互に来るような、最近の天候。今日は過ごしやすい気温だと家を出てツムギは思う。


 今は昼食が終わり、皿を洗って休憩した後だ。


「よし、いくぞー」

「はい」


 雲一つない晴天の下、レイドとツムギのリーン村の散歩が始まった。


 やっぱり外を歩くのは心地がいい。段々と移り変わる季節を体感出来てツムギは好きだ。外を舞う虫の種類の変化、渡り鳥だろうか日本では見かけない、最近になって見かけるようになった赤色の鳥。家の中からでも、目を凝らせば分かるものかも知れないが、近くで見る方がやはりいい。


「あの赤い鳥って、なんて名前ですか?」

「本に載ってた名前ならアカクイドリだ。体が赤くて嘴が杭みたいに長くて硬いからそう名付けられたみたいだな」

「そうなんですね。最近になって見かけたのですが、渡り鳥なんですか?」

「うーん、まあ渡り鳥といえば渡り鳥だな。虫なんかは食べず、果物を食べる。果物が成っている場所を求めて旅をするような鳥だ。だから、ここらの地域ではあの鳥のことを『果物泥棒』なんて言ったりするな」


 果物を求めて旅をする。そんな鳥だから、果物が季節関係なく沢山採れるこの村に居座るのか。そう納得したツムギだったが、はて? と疑問に思うことがあった。


「果物泥棒なんて言われる鳥なら、すぐに退治されると思うのですが……しないのですか?」

「ああ、それはな、あの鳥はこっちからなにもしなければ、襲いかかることはないが、攻撃をすると獰猛になって反撃するんだ。さっきいったように、嘴は杭のように硬くて危険だから、退治したくても手が出せないんだ」


 ーーまあ、この村で採れる果物の量は多いから、採られてもまだ大丈夫なんだろう。

 レイドはそう言ったがこのままだと、まずいことになるかもなと思った。


 果物を求めて各地を渡る鳥。果物の量が少ないなら次の場所へと渡っていく。けれどもし、常に果物が採れるとしたら……。


 アカクイドリがこの村で繁殖し始めてしまえば、いくら採ってもすぐに成る果実でも無くなってしまうだろう。

 ツムギと話してそう考えたレイドだったが、ツムギのことを悪く言って、自分達のことを無視するような村人達を助けようとは思えなかった。


 散歩は学習塾を避けて行われている。大人の人とはすれ違うとき睨まれたり、ヒソヒソとされたりするくらいだが、子どもは石を投げたり、攻撃をしてくる。当初の目的として、ツムギに親しい人を作り、黒髪黒眼でも危なくないと伝えるための散歩だったが、上手くはいってない。


 今はどちらかというと、ずっと家にいるツムギに気分転換させるため、みたいになってきている。

 散歩のとき、フードを被らされてたツムギだったが、意味はなかったようなので最近はしていない。


 今日も農作業をしている人に睨まれると思ったが、普段は農作業をしている人が、なぜだか全然いなかった。


 村の広場に近づいた。すると、たまにしか映さないテレビのような魔道具が作動されていた。映し出された場所は闘技場だった。そこでは二人の戦士が戦っている。実況の声と歓声がテレビの魔道具に取り付けられた大きな石から流れていた。


 黄色の魔石で光属性の魔力が込められているようだ。


(しまった……! 今日は建領祭か!)


 建領祭とは、この村を含む、セドリア伯爵領で一番栄えている街トレーフィーズにて開かれる祭りであり、その中で開かれる催し物のメインイベントが、今映し出されている闘技会だ。


 リーン村の人々はこの放送を楽しみにしている人が多い。

 なので、広場には沢山の人がいた。


 農作業をしている人がいなかった理由はこれだったのか。とレイドは納得したと同時に、どういう言葉でツムギに迂回する理由を言おうか迷った。


「今日は人が沢山いますね。何を放送しているのですか?」

「……。建領祭っていって、この領を治めるセドリア伯爵が主催する祭りがある。今やっているのは祭りのメインイベント、闘技会だ」


 ツムギの質問にレイドは言っていいものか迷ったが、言わないのも不自然なので説明した。


 見たいとねだられると困るが、もしそうねだられるなら、肩車でもして我慢してもらおう。そうレイドは思った。


「そういうものがあるのですね。……人混みは苦手なので、違う道を通りませんか?」


 しかし、ツムギは愛想笑いをして逆に引き返そうという。ツムギはわざわざ陰口や、悪口を聞きに行くのは面倒臭いし、何よりレイドが揶揄られるのは嫌だし、戦いはそんなに見たいとは思わない。


「そうか。それじゃ、一旦引き返そう」


 ーーもしかして、気を使われているのか?


 一歩引いたツムギの態度を見て、レイドはそう思った。


 引き返し別の道に入り歩く。民家なんかにはやはり人の姿はない。ほとんどの人は広場にいたのだろう。


 だが、前から赤髪の見覚えのある男が走っているのを見て、レイドは顔を顰める。見たところ近くに隠れられる場所はない。レイドは普段から彼を見つけたら隠れるようにしていた。


「はぁはぁ……全く、こんな日に仕事が入るなんて、嫌がらせとしか思えないな……。家族で闘技会、最初から見たかったのに……」


 ぶつぶつ何事かをいいながら走ってくる男、ネール。ツムギ後ろに隠し、気配を消してレイドはすれ違う。


「……! レイドじゃないかっ!!!」


 やはり、見つかってしまったようだ。


「どうしたんだい、こんなところで。……それと、話したいことがあるから時間取れないかい?」

「いや、もうすぐ雨が降りそうだから、家に戻ろうとしたところだ。ほらっ、空を見てみろ」

「どれどれ、って今度は騙されないからな!」


 前にやり過ごしたときのことを覚えていたのだろう。ネールにツムギを抱きかかえようとしていたところをレイドは見られる。


「その子供って……」


 といったところでレイドは魔力を体に纏い、身体強化して走る。オリンピックの短距離走で金メダルを取れるような速度だった。

 「待って!」とネールは焦った表情でそういうが、レイドは止まらない。ネールも今回はしつこく話をしようと体に魔力を纏いレイドを追う。


「もうその子を捨てろとか言わないから!」


 その言葉を聞いても、レイドが走る速度を緩めることはなかった。


「少し……はぁ……話をしよう」


 レイドの足より遅いネールの足。それでも懸命に声を張り上げ、前へ前へと走る。しかし、レイドの足が止まることはなかった。


「はぁ……はぁ……待っ……はぁ」

「……』

「止まってください」

「ーー!」


 抱きかかえる腕の中からの声に、レイドは面を食らった。ツムギにそう言われたので悩んだ末に止まる。


 レイドに追いついたネールは、荒い息を調えてから話し始めた。


「レイド、今まですまなかった」


 そういってネールは、深々と頭を下げた。


「ああ、で話はそれだけか?」


 レイドの目は冷たいものだった。何に対しての謝罪かは分からないが、走って追いかけられたとき『捨てろとか言わないから』といっていたが、その発言自体がツムギがいるのに配慮が欠けていたと感じた。だから、一刻も早くレイドは話を切り上げようとしたのだ。


 そんなレイドを見て、ツムギは彼の服を引っ張った。


「ちゃんと話を聞いてあげてください。……僕はそこで魔法を使って遊んでいますから」


 ーー最後まで人の話を聞く。ツムギの祖母が生きていた頃、彼が交わした約束の一つ。約束がなくたってそれは大切なことだろう。そう思ってのツムギの発言だ。


 また、二人で話した方が、ちゃんと話せるだろう。彼らは自分のせいで仲が拗れてしまったと、なんとなく察してツムギは二人の下を離れた。


 大人二人から少し離れたところで、体内の力の流れに意識を向け、周囲の石に魔力を浸透させ、無詠唱で<念動>を発動した。石は重いので、親指の先くらいの大きさのものでも10個くらいしか同時に操れなかった。


「……それで、何についての謝罪なんだ?」


 離れて魔法を使っているツムギを見ながら、レイドは徐に聞いた。


「あの子を捨てろっていったことにだよ……」

「どうして今になって急に、謝ろうなんて思ったんだ」


 レイドはそこが不思議だった。どうしてかと聞かれてネールはバツの悪い顔をして口を開いた。


「レイドがその子供を捨てればいいのにって、俺が妻に話してたときに、たまたまリーネに聞かれてて、そのときリーネに言われたんだ。『あたしにはみんなに優しくしろっていっている癖に、パパはその子を虐めるんだ』だとか、『そんなこというパパは嫌い』だって。娘にそういわれて、目が覚めたんだ」


 リーネとはネールの娘の名前だ。


 もともと、ネールはこの話をリーネに聞かせるつもりはなかった。聞かれてしまった理由は、ネールが妻に『最近元気がないみたいだけど、どうかした?』と聞かれて、『レイドに避けられている』と話していて、その話が発展し、『あの子供を素直に捨てればいいのに』といったところを、学習塾に一度は行ったが、忘れ物に気付き帰ってきたリーネに、たまたま聞かれてしまったのだ。


 ネールはそのまま話続ける。


「都合の良い話だって分かってる。けれど、無視はしないで欲しい。頼む……」


 そう言ってネールは頭を下げた。それを横目で見て、ネールに顔を向けたレイドは口を開けた。


「……話は分かった。だが、謝られたからって、すぐに許せる話じゃない」


 頭を下げたまま、ネールは歯を噛みしめ、拳を強く握り、目を深く瞑る。


(大切にしている子を傷付けてしまったんだ。当たり前だろう)


 ネールは理屈的になって諦念したくとも、諦めるのが道理なのだと頭で理解していても、心の底では強く『もう一度、昔のような関係に戻りたい』そんな感情でいっぱいだった。


「ーーただ、避けるような真似はもうしない」

「えっ……!」


 レイドの言葉を聞き、ネールはガバッ! と勢い良く顔を上げ、目を見開いた。そんな彼の表情はみるみるうちに明るくなっていき、最後は笑顔を形作った。


「ほ、本当か!? 本当かよっ、レイド!!」

「ちょっ! 揺らすなよ! 」


 ネールはレイドの肩を掴み、前後に揺らす。嬉しさをすぐに体現したネールだった。


(もしかして、早まったか)


 ガクンガクンと激しく揺れる視界の元、そんな考えがレイドの頭をよぎった。


(今度は<魔力壁>を練習しよう)


 ツムギは自分の後ろの膝より5センチメートルくらい上に、魔力を溜めて<魔力壁>を地面と水平に生成した。そこに座って<魔力壁>に強く意識を向け、細かく微調整する。

 すると、どうだろうか? ツムギの<魔力壁>は腰から太ももに懸けてフィットする彼専用の椅子となった。


(空気椅子。だけど、全然きつくない)


 傍目から見れば、ツムギの<魔力壁>は無色透明なので、あたかも空気椅子をしているかのようだ。筋肉も盛り上がっていないのに、全くブレないどころかリラックスしている彼の様子は誰もが刮目するだろう。


(背もたれも付けて、足の部分も作って…………。これだと少し脆くなっちゃうかな? だけど、自分一人なら大丈夫そうだ)


 足の方にも頭の方にも<魔力壁>を伸ばし、自分の体に合わせる形にしたツムギは、そのまま椅子に全身を預けた。


(あっ、結構いいな。これ。どこかのお店で売ってたら、財布と相談して買っちゃうかも)


 ぐでー、と完全にリラックスしているツムギ。彼は暖かい日の光と相まって、うとうと眠たくなってきた。


 そして、ツムギの意識は抗い難い"眠気"に呑み込まれてーー










「……ー……。ルドー……?アルドー! 」


 肩を揺らされた衝撃と大きめな声にツムギの意識が戻ってきた。


「通り道で寝たら駄目だろう」

「……はっ……! ……すみません。日当たりがよくてつい……、うとうとしていました…………!」

「体が不自然な形に傾いてて、目立っていたぞ!」


 ツムギは薄くぼんやりする意識の中で指で目を擦った。そうしていると言われた内容がジワジワと頭で理解出来てきて、『恥ずかしいところを見られた』と眉をキュッと寄せた。


 それからツムギはゆっくりと体を起こして、地に降り立ち魔法を消す。


「あわあわあわっ! ……うぇっ!? 突っ込むところ、そこかいっ!?」


 ネールは自分の目を疑った。幼い子供が浮いて眠っていたことに、しかも、幼馴染の男レイドがそれに驚きもせずに変なところで窘めていたり。


 意識を持っていなくても、魔法って操れるのか!? と自分の常識を疑った。


(って、あれってなんの魔法だろう……!? 魔法……だよなぁ……?)


 <念動>の魔法はありえない。体重も重く体積も多い。もしも<念動>なら上級魔法相当の魔力を1分間に消費しなければならないだろう。


 ちなみに、大人の人間の平均魔力量は上級魔法3発分と言われている。魔力量の差は激しいので、合っているかどうかは甚だ疑問がのこるのだが……。

 

 レイドは上級魔法8発分、エリスは5発分くらいの魔力がある。


 また、初級魔法10発で中級魔法1発分、中級魔法10発で上級魔法1発分と考えて貰っていい。


 なお、基準値は無属性魔法になっている。属性で言ってしまうと魔力の質に左右されて消費魔力量に影響が生じるからだ。


 例えば、火属性に適性のあるAさんとBさんがいたとする。Aさんは中級魔法5発分の魔力で上級魔法を放てますが、Bさんは上級魔法2発分の魔力が必要です。


 ……なんてことにもなってしまう。


「もっとこう……魔法的なことで驚くところだろう……! というか魔法を教えていたんだね」

「ああ、まぁな。大切な防衛手段だ」

「どういうことだい……?」


 ネールは首をかしげながら聞いた。


「学習塾で遊んでいる子供達に、石を投げられたりしたからだと思います」

「え?」


 下からの声にネールは反応する。ネールが声の発生源に目を向けると、今までさんざんレイドに捨てろといった子供がいた。


(……改めて見ると本当にちっちゃい。まだ3歳くらいだろうか)


 子供らしい容姿に、子供らしからぬ言葉遣い。苦笑いという表情を浮かべていると、本当に子供なのかとネールは疑ってしまいそうになる。


「……そうだったのか」

「そういえば、リーネちゃんはいなかったな」


 小声でレイドは呟く。


「ああ。リーネは学習塾の勉強が終わると、すぐに家に帰って魔法陣を描く練習をしているんだ」


 ーー魔法陣を描くのが楽しいらしいよ。ネールはそういった。


「それにしても、凄いね。さっき使っていた魔法はなんの魔法なんだい?」


 話を打ち切りネールは気になっていたことを聞く。魔道具職人としてもどんな魔法か興味があったのだ。


「<魔力壁>です」

「へ、でも、無色透明だったよ?」

「アルドーは魔法の属性がないんだ」

「ああ、そうなんだ。珍しいね」


 レイドはネールが大して反応していなかったので、稀にあることなのか? 驚き聞いた。


「アルドーの他にも魔法の属性がない人はいるのか!?」

「あ、ああ、以前町で魔道具の勉強をしていたときに一人いたよ」


 レイドの勢いで押され気味になりながらネールは応えた。


「そうか……」

「でもその歳で<魔力壁>を使えるんだ」

「まあ、アルドーは天才だからな」


 ーーレイドは親馬鹿なんだな。


 そうネールは思った。





「それにしても、どうしてアルドーなんて男みたいな名前付けているんだ?」

「男みたいではなくて、どこからどう見ても僕は男ですよ」

「ええーー!」


 ネールの今日一日で一番衝撃的な出来事であった。


(俺も最初は女の子だと思ったよ)


 レイドはうんうんと頷いたのだとか。

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