魔法を覚えた我が子に、危機感を抱いた今日この頃☆☆
短いので、レイドとエリスのイメージイラストを、あとがきに載せます。
「あっ、そういうのは結構です」という方は、非表示に設定してください。
「ただいまー」
「お帰りなさい、お父さん」
「おかえりなしゃぃ……なさい」
日も沈みかける夕暮れ時。レイドが帰ってきた。キッチンで夕飯を作っているエリスとツムギは、一旦手を止め、そう挨拶を返した。
段々と暑くなってきたことだしと、仕事帰りのレイドを労う意味も込めて、エリスがコップに水道の魔道具で水を入れ、ツムギがレイドに持っていった。
「お疲れしぁ……様です」
「ああ、ありがとう」
防具を脱いできたレイドに、水を差し出す。笑顔でそれを受け取ったレイドは、今日の魔法の成果を聞くことにした。
(アルドーは<念動>の魔法が家で一番上手いから、魔力の操作は家の中では一番かも知れない。だが、<魔力壁>は難しい。俺は発動させることは出来ても、3秒くらいしか保てないからな。……今はまだ、使えないと思うが、使えるようになったとき『お父さんだけできないんですか?』とか言われないために、俺も練習しておこうかな)
などと考えながら。
「そうだ、今日は魔法をお母さんに教えて貰っただろう? 発動出来そうか?」
「出来ましぅ……す。けれど、まだ改善点があります」
「? そうか」
『改善点があります』の意味は分からなかったが、『出来る』という意気込みはレイドに伝わった。それが、誤認だとすぐ発覚するのだが。
「頑張れよ」
そういって、レイドが頭を撫でる。すると、「はい」といってツムギは嬉しさを堪えるような笑みでキッチンに戻っていった。
▽
「エリス、アルドーは<魔力壁>を覚えられそうか?」
夜も深まり、ツムギが寝た後、レイドは改めて魔法の手応えをエリスに確認する。すると、彼女はどこか苦笑いのような笑みをした。
「そのことなのだけど……もう覚えたの」
「……へ、今なんて……?」
「アルドーは、もう<魔力壁>を覚えたのよ」
「……へ、今なんて……?」
『お父さんだけできないんですか?』『お父さんだけできないんですか?』『お父さんだけできないんですか?』 ……………………失望の眼差しを向けて、そういうツムギの姿が、レイドの脳裏に何度も響いた。
「……そっか……レイド、自分が<魔力壁>をよく使えないからって、現実は変わらないわ」
「そうだな……。あ、でも、まだ俺と同じように発動だけ出来るとか、発動しても不安定とかだろ? そうなんだろ? アルドーに負けないように、今のうちに練習するか」
必死になってうんうんと頷き、決意表明しているレイドに、エリスは残酷な事実を告げる裁判官のような心持ちで呟く。
「……アルドーの<魔力壁>は、私の<魔力壁>より強力よ」
ーー瞬間、レイドの顔の表情筋は死滅した。
エリスの<魔力壁>は初級魔法なら、立て続けに3発受けると壊れる。中級魔法なら1発で壊れるだろう。対して、ツムギの<魔力壁>なら初級魔法くらいならいくらでも、中級魔法なら3発くらいなら耐えそうだと、エリスは見立てる。
何回かの調整でツムギは<魔力壁>を完全にマスターしていた。本人はまだ、納得のいっていない様子だったが。
「嘘だろ……」
「……事実よ」
「……よし、エリス。俺が<魔力壁>をよく使えないのは、二人だけの秘密だな。……秘密を共有するのってドキっとするよな。ほらっ、あれ、恋愛小説みたいで」
そんなふうにいいながら、『ああ、明日から仕事帰りにでも、めちゃくちゃ<魔力壁>の練習をして、親の威厳というものを守ってやる』と意気込んでいるレイド。
上手く使えるようになってから、ツムギに『アルドーは本当に魔法が上手いな』といって、『ほら、お父さんより上手い』と<魔力壁>を見せてやれば、自分が<魔力壁>を使えなかった事実を隠し通せるだろう。
レイドの頭の中に、そんな一つ計画が浮かぶのは、もう少し経ってから。
「残念ながら、これっぽっちもドキっとしないわ」
エリスは苦笑いをしてそう返した。