魔法を覚えよう2
「さあ、魔法を早速使ってみましょう」
エリスはページを捲り、無属性下級補助系統魔法<魔力壁>のページを開いた。
無属性魔法は、魔力があれば誰でも使うことの出来る。なので、魔力に属性がないツムギでも普通に使うことが出来る。
「この魔法は、無属性魔法の<魔力壁>です。<魔力球>と違って攻撃系統ではなく、補助系統なので難易度は同じ下級魔法ですが、上がります。魔力の感覚を覚えてから、初めに躓く魔法とも言われています」
(<魔力球>なんて習っていないよね……)
エリスの音読を聞く。質問はそれからだとツムギは聞き終えるのを待った。
「しかし、魔法を失敗したときの反動は、<魔力球>のときより小さいので、恐れずに失敗しましょう。なにも、失敗しても恥じることはありません。魔力の感覚を覚えた後の、最初の壁なのですから」
(なんで、恐れず練習しましょう。や、修練しましょう。じゃなくて、失敗すること前提で書いてあるんだろう……?)
失敗するように念じられているようだ。なんとなく筆者の想いを感じたツムギだが、話はこれで終わったようなので、質問をぶつけることにする。
「<魔力球>は練しぅ……習しなくてもいいんでしぅ……すか?」
「<魔力球>は確かに<魔力壁>より簡単に使えるものだけれど、今、この本に書いてあったように、魔法を失敗したときの反動が、<魔力壁>の方が軽いの。<魔力球>もそこまで反動が強い訳でもないないけれど、アルドーはまだ小さいし、少しの衝撃でも危険だから、今回は見送ることにしたわ」
「そお……そうなんでしぅ……すね」
疑問が氷解したツムギは、自分を心配して貰ったことへの、喜びを、嬉しさを、今から教えて貰う魔法への興味で打ち消した。綻んだ頬をそっと結んだ。
「 "魔力の壁よ" <魔力壁> 」
エリスの瞳の色と同じ、少し黄緑がかった半透明な板がツムギの目の前で生成される。
「綺麗……」
窓辺から差し込まれた太陽の光が反射し、明るい黄緑の影を作っていた。綺麗だとツムギは思った。しかし、よく見ればその板の厚さは、厚かったり、薄かったり、微妙な差だが均一ではない。
「ふふ……ありがとう。この魔法は発動するとき、大きさ、強度、維持する時間によって、消費される魔力量を調節するの。でも、今みたいに直接魔力を調節する場合、時間は関係ないわ。それから……」
反射している光が激しく揺らぎ、小さく、濃い色に変わった。淡い黄緑の壁が収束していき、100×100平方センチメートルくらいあった壁が、20×20平方センチメートルくらいに変化した。
「こういうふうに自由に操れることも利点ね。ちなみに今、<魔力壁>を操って大きさを変えたけれど、消費している魔力の量は同じよ。小さくした分だけ、強度を上げたの」
「発動した後も、意外とじゅー……自由自在に形を変えられるんでしぅ……すね」
「初めの内は難しいけれど、慣れてくれば出来るようになるかも知れないわ」
魔力を魔法に変換した後は、操れないとツムギは考えていた。実際に操れる人の数は、7/10人くらいの割合と、練習すればだいたい誰でも操れるようになる技術だ。
「だけれど、一度操作するのをやめてしまうと、その魔法は自由に操れなくなるの」
例えば、<魔力壁>を使ったとする。術者が<魔力壁>に常に魔力を送り続けていれば、問題なく操作出来るが、魔力を送るのをやめた後、維持された<魔力壁>をもう一度操ろうとしても出来ない。魔力をいくら送り続けても魔法に見向きもされなくなるのだ。
攻撃系統の魔法で例えるなら、<魔力球>の魔法で、球体を生成したときは、大きさを変えたり、速度を変えたり、密度を変えたり出来るが、少し遠くにある的に勢いよく弾くとき、<魔力球>の操作は出来なくなる。
人が魔力で、魔法に直接干渉出来る距離を、『直接的魔力領域』と言ったりする。
「操作をするとき、魔力は常に消費されてしまう。けれど、操作を一旦やめれば魔法を操れなくなる。……魔法は使えるようになってから、使いこなすまでの方が、難しいのかも知れないわ。取り敢えず実践しましょう?」
エリスはそういうと、ツムギに見せていた初心者向けの魔法の本を閉じた。