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異世界で人生を紡ぎたい  作者: も~じゅー
村での生活
17/41

お出かけしよう3

 赤毛の男の発言を聞いて、ツムギは自分のせいで二人が村の人達に疎まれていることを知る。


 広場へと向かう途中の道を左に回ってレイドはそっとツムギを下ろす。下ろされたツムギは考え事をやめ、ニコニコと妙に機嫌のいい笑みを浮かべた。


「今の楽しかったでしぅ!空を飛んでるみたいで!」


 ツムギは思ったことを交えて、二人に今の話は知りませんアピールをした。ここで暗い顔は必要ない。そんなことしたら二人に変な気を使わせてしまう。ならば、楽しいことだけを全面的に伝えることにした。


「…おっ、そうか!帰りの道で家まで一直線になったらまたやろう」

(…よかった。今の話は理解していないみたいだ)


 ネールとの話を理解されていなかったことにレイドは安心した。


「お父さん。ぎっくり腰には気をつけて」

「お母さん。お父さんはそんな年寄りじゃないと思うぞ」

「…ボクは重いでしぅ…すぅか?」


 自分の重みがレイドの腰に負担をかけていたのかと質問する。


「違うわ…!お父さんの腰年齢がもうご老体で脆いからそっちの心配をしたのよ。アルドーはお母さんが持てるくらい軽いわ」


 むしろレイドは、お父さんではなくお爺さんなのよ。とツムギを抱きかかえるエリス。腰年齢とは何だろうかとツムギは考えた。


「そうだぞ!お父さんは腰年齢70歳くらいでどうも最近は急に物を持とうとすると怖いことがあるだけだ!決してアルドーが重いわけじゃないから気にするな」


 とレイド。それだと結局持ってもらうことは危ないってことだよね…。とツムギは思ったが黙っておく。


「……お父さん。そうだったの?お父さんの腰がそんな危機的状況になるまで弱っていたなんて私知らなかったわ…。腰老人ってやつかしら」

「おお、お母さん。お父さん、そんな腰老人なんて単語初めて聞いたぞ。そもそも腰年齢ってなんだ…?」

「さあ。何でしょう…。でも!一つ言えることがあるわ。それは、お父さんが寝たきり老人になってしまっても、お母さんがはしっかり介抱するわ。それようの魔道具も家にはあるもの」

「そんなものあったのか!?」


 自分の知らぬ魔道具の存在を示唆されて困惑を極めるレイド。ツムギはそういえば前にレイドと留守番した後にエリスが村から帰った後、仕事に向かうレイドを横に、何かの魔道具を木で出来た焦げ茶の棚に入れていることがあった。おそらくそれだろう。


「…ええ。魔物は出ないとはいえ狼やイノシシはいるでしょう?動けなくなる怪我をいつ負うか分からないから、ネールに作って貰ったのよ…」

「お母さん…!」

「だから、いつ大怪我を負っても大丈夫よ」


 エリスはツムギと繋いでいる手とは反対の手でグッと親指を立た。


「いや、お父さん。介抱されるからといっても、大怪我は負わないように努力するぞ…」


 わざとやられはしないと、茶髪の男は苦笑いした。


 そうこうしている内にも歩みは進めていく。すると、これまで見てきた畑に対し縫うように建てられている村人たちの住む民家よりも、立派な建物がある。その近くには5〜10歳くらいまでの9人の少年少女たちが走り回って遊んでいた。おいかけっこだろうか。


 その子どもたちを見守るように建物のガラス越しには人影が見える。また、建物の周りには花壇のようなものがあり、その花壇には道端では見かけなかったチューリップとは少し違う花が植えられている。その様子は小学校のように感じられる。


「アルドー、見えるだろう。あそこが学習塾だ。あそこは文字や簡単な計算や魔法、この国の歴史を教えてくれる場所で、リーン村の子どもたちが集まるところだ」

「レイド!」


 言葉にした後にエリスにしては珍しい大きな声で名前を言われたレイドはハッとした。

 ツムギはここに通わせたとしても黒髪黒目だから差別を受け、怖がられるかイジメられるかしてしまうだろう。だから、ここには通わせられないかもしれないことに気が付いた。


 学習塾に興味を持たせることはしたくないエリスは、学習塾の説明をしたレイドにとっさに大きな声を上げたのだ。


「どぉしたのでしぅ…すか」


 突然大きな声を上げたエリスにツムギはどうしたのだろうか。とワタワタした。ツムギからすれば建物のの説明をしたレイドを急にエリスが批判するように言葉をかけたのだ。


 いつもは仲の良い二人がどうして…、と疑問に思った。


「あ、ごめんなさい…。突然大きな声出してしまって…」


 ワタワタしているツムギを見て驚かせてしまったことにエリスは謝罪した。


 ーーそのとき急にレイドがツムギの手を放し、学習塾とツムギの間に入るような位置に移動し腕を払った。飛来物があったからだ。


 飛んできたものは石。魔力で強化されていない大きめな石だった。レイドが腕を払って欠けたようで、3つの石礫が後ろに弾かれていった。


 あのままレイドが遮らなかったら、ツムギに当たって怪我をしていただろう。頭にでも当たったら大変だ。


「おーい!見てみろよ!悪魔の子供がいるぞ!!」


 そう言ったのはツムギに向かって石を投げた暗い水色の髪の男児だった。彼は6歳と年齢的には遊んでいた中でも幼いが、体が大きいのでそれ以上の歳に見える。


 ツムギはフードを被って髪の色を隠していたが、全て隠れるわけではなくレイドとエリスがいたこともあって逆にバレてしまった。


「え、え、悪魔の…子?」「ちょっ、目を合わせると石になるって聞いたぞ!」「キャーー!」「ひぃ〜!今見られたっ!!」「なんでここにいるの!」「ああっ!みんな落ち着いて…!」「お、オレ今日は帰る…!」


 すると、先程までおいかけっこをしていた子供達がいろいろな反応をして騒ぎ立てる。


 悪魔の子供と言われてもいまいちピーンとこないもの、親に悪いことをしていると黒髪黒目の化け物が懲らしめに来ると教えられたもの。逃げようとするもの、騒ぐみんなを落ち着けようとするもの。


 そんな反応を見て、石を投げた男児はまた地面から石を拾った。


「大丈夫だ!俺があの悪魔を退治してやる!」


 そう言って先程よりも大きな石を投げた。

 投げられた石はレイドが弾く。石を投げられては弾く、何度かそうしていたら今度は違う子供も加勢し始めた。


「お母さん!とりあえずここから逃げよう…!」


 石をまた投げようとしている子供たちを見て、苦虫を噛み潰した表情でレイドは呟く。何もしてないツムギを攻撃されて悔しいが、仕返しをするわけにもいかない。


「ええっ…! "魔力の壁よ" <魔力壁>」


 エリスは同意し、無属性魔法<魔力壁>を自分を中心に半円状にレイドまで囲って展開する。


 この魔法は、文字通り魔力の壁を作り攻撃を防ぐものだ。エリスの展開した<魔力壁>の形状は半円形だが、正方形などに展開することなども可能。正方形の方が魔力の消費量も抑えられるのだが、今回は石を投げられているので正方形だと石が入ってくる可能性がある。


 エリスの魔法が展開されたあと、レイドは再びツムギを抱えエリスと供に学習塾から立ち去る。



 レイドたちが撤退したのを見て暗い水色の髪の男児が腕を上に付き出し宣言する。


「よっしゃ!悪魔の子供を撃退したぞ!これで村には平和が訪れる!」


 彼の気分は物語で魔王倒した勇者の気分だった。他の子供達8人の内、加勢した3人は勝利に酔いしれ、怖がっていた3人は安堵する。他の1人はなんでみんな石を投げたのか分からず固まり、もう1人は報復がないかと密かに怖がる。


「お前たち!今何をしていた!」


 そんな子供達に近付き学習塾の室内から見守っていた中年の男が子供達に問う。


「この村の高台にいる悪魔を撃退したんだ!」

 男児は鼻を人差し指で擦り誇らしげに言った。幼い彼にとっては黒髪黒目の悪魔を撃退し、他の子供たちを救った自分は正しく勇者なのだ。


「ば、馬鹿者!もし刺激して祟られたらどうするつもりだ!」

「はっ!そのときは将来、Sランク冒険者になるこの俺が祟りごと退治してやるよ!」


 わなわな震えた中年の男。彼は大雨を降らせたかの悪魔が、これからどんな災厄を齎すのかを恐れた。それに対し、将来Sランクの冒険者になることが夢の男児は調子よく「退治する」と宣言した。


「大丈夫か…アルドー…?」


 学習塾から離れた場所でツムギを放しレイドが気まずい様子で問いかけた。始めからこんなに村人から拒絶されてしまったツムギがレイドは心配だった。


「はぃ…」


 それに対しいつもより元気のない声でツムギは頷いた。

 別に投げられた石に当たってもいないし、逃げるときも丁寧に抱きかかえられたので怪我はない。拒絶されたから凹んだわけではない。


 ただ、想像以上に二人には迷惑をかけていた。そのことを知って気落ちしていた。


「アルドー……今日は帰りましょう…?」


 エリスは元気のないツムギを見て、外に出したことは間違いだったのかも知れない、と後悔しながら言った。


 エリスが少し暗い声音で話しているのに気が付き、二人に心配をかけたくないと、表情を明るくして笑った。


「そうでしぅね。今日ぁ三人で外に出られて…楽しすぃかったでしぅ!」


 ツムギは精一杯の感謝を込めてニコッと笑う。


 エリスとレイドはツムギの笑顔に釣られて表情から暗さが取れた。彼の笑顔を見て親馬鹿な二人は周囲に人がいないこともあり、 「天使だ…」と呟きギューとツムギを抱きしめた。


 抱きしめられてツムギの心は温かくなった。なにもツムギは拒絶をされて嬉しい訳ではない。大切な人に迷惑をかけたり、苦しい思いをさせることの方が嫌なだけで、拒絶をされれば本の少しは傷付くのだ。


(温かい…僕はこの人たちが好きだ…)


 そう思ったとき、ツムギの背筋にゾワッとしたものが走った。黒く塗りつぶされた何かが、自分の心から湧き上がった。


(嫌!違うっ!!!違う!僕はこの人たちを好き…じゃない!好きじゃない…!)


 ツムギは二人を「好きじゃない」と心の平静を保つように自分の気持ちを否定する。それでも心配をかけないようにと、笑顔を保ったまま苦しんだ。


 その後は特に何事もなく家まで辿り着けた。


 最後に家に戻るときの傾斜のある一本道で、レイドに抱きかかえてもらったまま坂を登った。ツムギはそれが楽しくて苦しかった。


 雲はいつの間にか太陽を覆い尽くし青空を隠していた。

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