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異世界で人生を紡ぎたい  作者: も~じゅー
村での生活
16/41

お出かけしよう2

 歩きだし初めて10分程経過した。リーン村の人達は5月の半ばにも関わらず赤く熟れたりんごや、瑞々しく色付いたオレンジ、甘いか渋いか分からないが収穫されていく柿。収穫時期がバラバラのはずの果実たちが次々と籠やコンテナへと入れて行く。


 さすがは異世界と言うだけあって、非日常なことも起こるんだな、とそんな収穫されていく様子を見ながらツムギは思った。


 果物を収穫している人が三人に気がつくとたちまち顔を顰め、非難するような目を向ける。視力がいいツムギはそのことが分かってなぜだろうか、と疑問を抱いたがその視線が主に自分に向けられていることに気付く。


(そういえば、たぶん僕は差別されるような存在だったっけ…?)


 確証が得られないのはレイドとエリスの二人がツムギのせいだと明言していなくて、最近は家でピリピリしている空気になっていないからだ。それでも村人たちの視線がこちらに向いてから二人の手の握る力が強くなっていた。


「歩く速さはこれぐらいで大丈夫か?」

「はぃ」

「そうか」


 レイドはツムギの顔を見て微笑む。少し歩く速度が速いとは思ったがついていけない速度ではないため、ツムギは頷き肯定する。


 歩いて行くと、高台の家から眺めた景色が今目の前にある。遠目からはよく見えなかった道端の草や花。だんだんと近づいていく住んでいる家以外の家屋。吹き抜ける風の薫。時折見かける蝶々などの虫。外に出ると言うと家の近くの畑にエリスとともに行くくらいだったツムギは他の村の人の暮らす証を見てなんだか言い表せない気持ちになった。


 その気持ちの正体はきっと緊張と呼ばれるものだ。


 長い間。特定の人物以外と話すどころか会うことのなかったツムギは知らず知らずの内に少し人見知りになっていたようだ。三人の前方。テレビのような魔道具のある広場の方から赤毛の二十代中盤くらいの男がレイドに向かって手を上げる。レイドとエリスは彼が見えた瞬間。示し合わせていたかのようにツムギを後ろに隠した。


「よーレイド、エリス。ここで合うなんてな!久しぶりだな!」

(なんで、今日こいつに出会うんだ…!)

「…はぁ…。ネールか…久しぶりだ」


 レイドは心底嫌そうにため息を吐きながら応えた。


「おーい、なんでそこでため息付くんだよ。コノヤロー」

「…やめろ」


 赤毛の男ーーネールに肘で小突かれて、レイドは顔を顰めて腕を払う。


 やけに馴れ馴れしいこの男はレイドやエリスと同世代のこの村で育った旧知の仲で、このリーン村で簡単な魔道具を作る職人だ。…作るとは言っても動作が鈍った魔道具を修理することの方が多いのだが…。今もどこかの家の魔道具を修理したあとだった。


 軽い調子で話しかけたネールだったが、不意に真剣な面差しになる。


「…それで、レイド。あの子供を捨てる気になったか?」

「いや…」

「何度言ったら分かるんだっ!?ーー」

(ネールが話始めた。今のうちに…)

(ええ…!)


 レイドの視線の意図に気づいたエリスがアイコンタクトする。


 ネールは話始めると注意力が散漫になる癖があり、昔はたまにレイドが喋っているときに驚かせたりして遊んでいた。ネールは驚かせるたびに「今度は俺がびっくりさせてやるー!」と言って、ワッと大きな声を上げたが宣言されたものが通用するわけもない。レイドが驚かない度にぐぬぬと歯をくいしばっていた。


「お前が拾ってきた子供を捨てないと、いつまでも村のみんなはお前を差別したままだ!いや、お前だけじゃない。エリスまで白い目で見られているんだぞ!…っておいっ、どこに行く!」


 熱弁しているネールの横を通り抜けようとしたが、やはりツムギを隠して通るのは無理だったようでバレてしまった。このネールの厄介なところはレイドとエリスを本気で心配しているところだ。


 ツムギを拾った年に大雨が降ってからというもの、レイドとエリスの村人たちからの当たりが強く、村八分のような状態に陥った中でこれまでと同じように話しかけてきたのは彼だけだった。


 ネールにとっては拾ってきた赤子より昔から知っている友二人の方が大切で、村で合うたびレイドやエリスに子供を捨てるように忠告しているのだ。レイドとエリスも彼が完全に善意で言っていることが分かるので、余計にやりづらかった。


「今日はいい天気だから散歩に行くんだ。な、エリス」

「ええそうよ。ほら空を見てネール。溢れんばかりの青空が広がっているわ」

「どれどれー…」


 ネールが空を見上げた瞬間に、レイドはツムギを優しく抱きかかえエリスとともに広場へと向かうように走る。


「む?半分くらい雲に隠れてそこまでいい天気じゃないじゃないか!!…ってレイドはどこだっ!!いないじゃないかっっ!!!!」


 ドタバタ地団駄を踏んだ後、誰もいなくなった村の道でネールはため息を吐いた。


(今日も説得出来なかった…。レイド、エリス。俺は嫌だよ。二人がいつまでも村のみんなに嫌われたままじゃ…)


 道に佇む赤毛の男は、自分の無力さに嘆く。彼は自分の友人たちが嫌われるのがたまらなく嫌だ。村の人に自分まで無視されかねないから、高台にある二人の家には気軽に近付けない。


 彼には守る家庭がある。魔道具作りを習いに街まで行ったときに出会った妻や、娘がいる。今仮にネールに守る家庭がなかったら、彼らを直接助けただろう。


(だいたい、この村の特産品の果物の種を持ってきたのはレイドじゃないかっ!彼のおかげで商人の来る日も増えて村が豊かになっているのに、どうして彼を疎むんだ!)


 ネールは巨大な果物のなる木の種を森から齎したレイドを疎む村人たちにも怒りを向け、ウガーっと頭を掻き毟った。


(ほんと…どうすればいいんだよっ…!どうすれば…)


 ネールが一番苛立っているのは結局のところ何も出来ない自分自身にだ。

 無力な自分。友人を助けられない自分。子供を捨てるようにいう自分。何より空回って友人から冷たい態度を取られるようになった自分。


 ネールにとっての最善は子供を捨てさせることだ。そうすれば完全には無理だろうが村人たちからの風当たりは緩くなる。


 だが、薄々は気が付いている。レイドとエリスはあの子供は捨てないだろうと。


 二人は結婚してから8年間子供が出来ないことを悩んでいた。村の人達から子供は作らないのかと聞かれていたとき曖昧な表情で誤魔化すように笑っていたことにも。


 あの二人にとって拾った子供が大切なのだろうということにもネールは分かっていたが、忠告せずにはいられなかった。

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