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異世界で人生を紡ぎたい  作者: も~じゅー
村での生活
11/41

拾われてから半年

 ツムギがこの世界に来て半年経った。

 半年も経つとだいぶ言葉がわかるようになり、話の内容からこの村のことが分かってきた。


 この村の名前はリーン村というらしい。リーン村の近くにはエルフ達が住むこの大陸で一番大きな森がある。その森の突然変異したかのような大きな果物があり、その果物の種を蒔いて栽培されたものがこの村の特産品のようだ。


 また、この世界を勝手に生活水準が地球より低いのではと当初、考えていたツムギだが今ではその考えは間違いだったなと思い直すことになる。


 まず一つ、テレビは各家庭にはないが、村の広場に行けばテレビみたいなものがある。大きな板の映像を映す魔道具があるのだ。

 魔力の消費が激しく長い時間は使えないものの、遠い場所の情報を取得できるものがあるとは驚きだった。


 魔道具とは、力を持つ図形と古代文字の組み合わせてつくる魔法陣を、道具やアクセサリーなんかに特殊な液体状の魔力を書き込んで出来る道具の総称らしい。前にエリスが壊れていたドライヤーのような形の魔道具を治していた。


 二つ、服の種類だ。ファスナーのついたジャケットからデニムの生地と近代の日本で見かけるようなものがあり、その中にゆかたのように前で合わせてお腹のところでベルトを締める服など日本で見かけないようなスタイルの服もある。鮮やかな柄の服もあったがお祭り用の衣服で普段は着ないらしい。


 とにかく、服が現代のものから昔のようなものまで入り混じっているのだ。


 三つ、トイレが水洗で清潔だった。これも魔道具の効果だがあるとは思わなかったので、驚いた。


 その他にも、紙は貴重なものでなく識字率も高いらしく、そこまで裕福ではないレイドとエリスの家だが、本が意外とあった。


 ちなみにツムギが引き取られた家は、木材を使用した家でこれも魔道具だ。効果は家を換気するという風属性魔法<微風>が付与されている。夏の暑い日は風が家中に満ちて快適だった。


 この村は日本の気候に近いのだろう。夏が暑くて冬が寒い。今もだんだんと寒くなっている。


 この世界と地球は時間の進みが違っているらしいがツムギはよく分からない。たまたまツムギの転移した時期と同じ時期にこの世界に来たようだ。今は11月。暦もかなり似通っている。


 さて、そんなツムギだが今は人参を収穫してるエリスの背にいる。


「これは人参っていうのよ。アルドー」

 アルドーとはツムギがこの世界で付けられた名前だ。しかし、まだまだ違和感がある。


「あ~う~?」

 人参と言いたいが上手く発言できていない。


「そう。人参よ」

 しかし、エリスはそんなツムギのセリフを分かっているかのように頷き返した。


 それからしばらく収穫をしたあと家に戻り、晩御飯の準備をする。

 ご飯を作るときもおぶさったままなので重くないかツムギは心配だ。


「ああうあ~ぃあうぅ」

(重くないですか?)

 ツムギは発音したかったがなかなか出来ない。


「はーい。今ご飯作るから待っててね」

「あうぅ…」

 伝わらない言葉に落ち込みながらもツムギは返事をする。


「ただいま〜。今日は狩った獲物が売れたぞ…買い叩かれたけどな」

 そう言葉にして帰ってきたのはレイドだ。


 レイドは森で狩った動物を近くの肉屋に卸しているのだが、最近はめっきり売れなくなってしまっていた。売れたとしてもだいぶ買い叩かれてしまっている。こうなってしまった原因は一つ。ツムギの存在だ。


 この大陸に広まる黒髪黒目の存在は災厄を齎すと言われている。なのでその存在を育てているレイドとエリスは村人から白い目で見られている。


 当然、ツムギの前では直接言わないようにしているようだが、ツムギはなんとなく自分のせいだと察し始めている。


「おかえりなさい、お父さん。ご飯作るから着替えたらアルドーを頼むわ」

「おお、分かった」


 レイドは革製の防具を外し弓矢と短剣をツムギの届かない場所に置いてからツムギをエリスから受け取る。


「ほぉら。アルドー。お父さんのお帰りだぞ〜」

「あうぅーー…」

 ふぅーとかなんとか言いながらツムギにレイドは頬ずりする。少しジョリジョリする髭がツムギの肌をヒリヒリさせる。


「だぁ~う」

 ちょっと痛いので腕を伸ばし抵抗する。


「おおー!そんなに手を伸ばしてそんなにお父さんの髭が好きかー!よーしヨシヨシ」

 何を勘違いしたのかレイドが激しく頬ずりしていく。


「(´・ω・`)」

「ウォッ、な、なんだ?その顔」

「あうぅ!あうぅ!」

「あいたっ……くはなかったな!」


 伝わらなかったのでツムギは困った顔になり軽く蹴った。すると、レイドは頬ずりをやめる。


「やったなー!…おーしヨシヨシヨシヨシよーしヨシヨシヨシヨシ…!」

 レイドは蹴られた復讐として、ツムギを優しくそこそこな速度で持ち上げ揺らす。


「あ~ぃあ~う~…あ~ぃ!」

 何気にツムギはこうされるのが好きだ。

(…楽しい)


 ツムギは楽しんでいる表情から一瞬暗い表情を見せるが、ツムギを揺らすことに全神経集中させているレイドは気が付かなかった。


 それから、レイドと遊んでいたら晩御飯が出来たらしい。暗くなってきたので、ランプの魔道具に魔力を通し明かりをつける。温かい光が部屋を満たした。


 ツムギは遊び疲れて眠くなってきているが、ウトウトしながら離乳食を食べようと口を開ける。


「あ〜う……っ!!あ~ぃ…」

 口に入れては噛んで飲み、ウトウトしテーブルに頭をぶつけ、また食べ始める。ツムギはすでに自分で食事を取るようになっていた。


 一番始めはレイドに食べさせて貰ったのだが、次から次へとスプーンをツムギの口へと持っていき、まだ食べ終わっていないのに次の食べ物を入れようとして、ツムギは食べることが辛かった。


 それを見かねたエリスがレイドを止め食べさせる役を交代し、しばらくの期間エリスに食べさせて貰っていたが最近になってスプーンを使って食べられるようになったのだ。


 エリスがレイドを止めたとき、それはそれは恐ろしい姿だったとか。


「あ~〜……、う~……?…………。」

 ツムギはとうとう眠気に行動を支配され、敗北してしまった。


「かわいいわ…」

 寝入ったツムギを見てエリスが呟く。


「そうだな…」

 レイドは先程ツムギと遊んでいた元気が全てなくなったような声で頷く。


「なぜみんなこの子が黒髪に黒目だからとそんなに嫌悪するのかしら…」

 エリスは疑問と悲しさと悔しさが混ざりあった複雑な表情を浮かべる。


 リーン村の住人たちはツムギを見て嫌悪する。なんて黒くて不吉な色だろうと。ツムギの髪は太陽の日差しを浴びればところにより青く見える。全ての光を虜にしてしまうような真っ直ぐで優しい瞳の彼を、エリスは綺麗だとは思っても不吉だとは思ったことはない。


「さぁ?やっぱり今年の大雨も影響しているのかもなぁ…」

 今年の夏に降った大雨。リーンの村で久方振りに訪れた水の脅威を一人の村人が「レイドが不気味な赤子を拾ってくるから雨が降った」と言ったら周りの村人たちもそれを聞き同調した。


 同調した村人にその赤子を捨てろと言われたがレイドは捨てる気などさらさらなかった。


「はぁ…。嫌だわ、みんな人の外面しか見れないのかしら…。この子は、他の子と何一つ変わらないというのに…」

「…そうだなぁ。…でも、俺も人のことは言えない立場だ。初めてこの子を見つけたとき、なにか起こるんじゃ、と思って警戒してしまった…」


「それは仕方ないことでしょう…?突然赤ちゃんが現れたら警戒して当然よ。それにあなたはきっと他の人の子がこの子のような目や髪でも、嫌な顔はしないでしょう?」

「ああ。子供はみんなかわいいものだ」


 レイドはツムギの頭を撫でる。

「……あ…ぅぁ………。」

 ツムギは触られるのを避けるように逃げる。


「避けられた…」

「…寝ているから邪魔しないようにしましょう?」

「ああ」


 外はもう暗い。ランプが揺れる日の一幕であった。

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