第二章 e
授業が一段落して昼食の時間になると隣の女の子に声を掛けられ、閃助が顔を向ける。
ボブカットの金髪に、後ろ向きに伸びた角と小さく横に飛び出た耳が特徴的でそれと同じくらいに目を引く、豊満な胸。そして、その下でシャツの裾を結んだ、へそ出しルックス。
鳩尾あたりから下が原種の跡なのか、ふんわりとした柔らかな体毛に覆われたドが付くくらいの可愛い女の子で、名前はメリーシア・アスプール、山羊を原種としたゴート族の一人。
「ねぇ、閃助君、お昼は食堂?」
「そのつもりだけど、食堂が何処かわからなくて探そうと思っていたんだけど、良かったら案内してもらってもいいかな」
「モチロン! あっ、あと、あたしの友達も一緒でもいいかな?」
閃助としても二人きりよりは何人かいてくれる方がありがたいので二つ返事で答える。
「いいよ、多い方が賑やかでいいと思うよ」
「ありがと、閃助君!」
「じゃあ行こうか」
メリーシアの隣を歩いているとメリーシアが歩くたびに独特な足音が廊下に響く。
気になってメリーシアの足元を見ると短いスカートが扇情的で、太ももから先が毛に覆われ、山羊の様な足をしていた。
「もう、あんまりそこは見ちゃだめだよっ」
少し照れくさそうに閃助の肩をポンと叩き、少しだけ前を歩く。
「ごめん、気を付けるよ」
閃助がそう言うと立ち止まり振り返ると悪戯っ子の様な笑みを浮かべたメリーシア。
「閃助君ってば、どこ見てたのかなぁ~?」
ちらっとスカート裾を掴み太ももをチラつかせる。
「おーい、メリーシアちゃーん!」
廊下の向こうから赤髪の女の子が走ってこっちに向かってくる。
「ユーナ、こっちこっち!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振るメリーシア、跳ねるたび胸が揺れ廊下をすれ違う男子たちが思わず立ち止まり目を向けていた。
ユーナと呼ばれた赤髪の女の子はメリーシアに飛びつきぎゅーと抱きつく。
少ししてからユーナは顔を閃助の方へと向けた。
「こっちの人は?」
「あたしのクラスの新入生で、獅子王様の養子の子だよ」
「あーっ! 噂の王子様君だね」
彗星の如く現れ、瞬く間に獅子王の養子として迎え入れられたという事で様々な噂が立っているらしいが、面と向かって王子様と言われたのは初めての閃助は否応も無くむずかゆくなる。
「いや、そうだけど、王子様はやめてほしいな」
バッと大きく両羽を広げて閃助に抱きつく。
「ちょっ!」
「むふーん……ふむふむ、悪い人じゃなさそうだね」
何かを確かめるとスッと離れて閃助に羽を差し出す。
「私、ユーナ・パルナス、よろしくね」
スレンダーでありながら整ったスタイル、鳥を原種としたガルダ族の少女。
羽が手の変わりになっており真っ赤な羽が特徴的、羽と同じように瞳も赤く、こめかみのあたりを伸ばした髪型も赤く、彼女に良く似合っていた。
「よろしく、ユーナさん。 俺は雨鳴閃助、よろしく」
ユーナの羽を手に取る。
「これで、閃助くんも友達だね。あと友達なんだから、さん付けは禁止だよ」
屈託のない笑みを浮かべて閃助の握った手をもう片方の羽で包み込みブンブンと羽を振る。
「よーし、腹ごしらえだ―っ!」
閃助の手を離し、くるっと回ってユーナは羽で食堂の方を指す。
「ほらほら、早くしないとお昼終わっちゃうよっ」
早く早くと急かすユーナにメリーシアが続いて隣に立つ、その後ろを閃助が付いていく。
廊下の奥に大きな扉があり、そこが食堂、中は広く様々な種族の者たちが昼食を楽しんでいた。
カウンターに並ぶユーナに続きメリーシアと閃助も列に加わる。
「そう言えば、閃助君はお昼のメニューの予定は?」
何気ないメリーシアの質問に閃助は言葉を詰まらせ、ちらりとユーナ方を向いて考える。
「食べられるものなら何でも、好き嫌いはそんなにないかな」
「なるほどなるほど、閃助君はなんでも食べられるんだね」
ニヤニヤしながら閃助の方を見ながら胸の前で腕を組む。
「私はお魚料理なら何でも好きだよ」
メリーシアの肩に羽を置きながら顔を出して、ユーナも話に加わってくる、
「へっへーん、エライでしょ」
動く羽を良く視ると爪の様な物が生えているのが分かった。
子供の様に無邪気な仕草が目立つユーナでも、やはり自分とは違う種族だという事を実感させられる閃助。
他愛も無い話をしているとユーナの番が回ってきて、カウンターに注文をする
「私、フィッシュサンド!」
ユーナが注文を通すと一分もしないうちにパンに魚の挟まれたサンドイッチが白い皿に乗せられて出てきた。
「じゃあ、先に席で待ってるから」
器用に羽先の爪を使い、皿を持ちながらキョロキョロと席を探しだす。
「閃助君から先にどうぞ」
メリーシアは一歩下がり閃助を前に押す。
ここのルールが今一つ掴めてない中で下手な注文は場合によったら良い結果を出さない事になるかもしれないが、背を押されて断ることも難しい。
意を決し、カウンターの前へ進む閃助。