第二章 d
「いやいや、こうも肌が赤いとちょっと飲んでもばれないと気づいてからちょっと一杯引っ掻ける癖が出来ちゃってさ、もー、やだやだ」
ハッハッハッと笑い飛ばそうとしているがまだ朝の七時半過ぎだ。
そんな者が教師になれるとは、少しばかり学院の雇用体制を見直す必要があるのではないかと思わざるを得なかった。
「まぁ、目が回っている訳でもないし、大目に見てよ」
よいしょ、と体をこっちに向けて目を見つめてくる。
「にしても、君珍しいねぇ、初めて見たよ。その黒い目、少なくともこの国には一人も居ないんじゃないかな」
「確かにダークブラウンで黒にしか見えないと良く言われましたけど」
「獅子王もその辺は理解していると思うけど、ヴァニック族には近づかないほうがいいよ。きっと後悔するから」
「どういう事ですか?」
キザキは顔を近づけ耳元で小さく口にした。
「ヴァニック族はほとんどが特殊な性癖を持ってるからね、眼球趣味の変態が居たらそりゃもう大変だろうね」
思わず背筋がブルッと震える、事実か否かはさておき嫌がらせで言うタイプには見えない。
そうなるとやはりそう言う事なのだろう。
「一応、忠告は受け取っておきます」
「あっ、でもうちのクラスにも居るから、ヴァニック族の娘」
「どうしろと」
思わず口が滑ってツッコミを入れてしまった。
「関わらない様にって言うのは無理だろうから、出来るだけ穏便にね」
穏便にしようが関わりを減らそうが一度目を付けられたら意味が無い。
「出来る限り、善処します」
言葉がそれしか出なかった。
結局具体的な回避策が出なかったが時間は残酷に過ぎ去り、八時の鐘が鳴り響き、キザキと共に教室へと向かって、教室に入るなり、教壇に立ち自己紹介をすることになった。
人数で言えば三十前後、さまざまな種族の若者たちが席に座りこっちを見ていた。
大学の教室の様な作りで、背の高いもしくは図体の大きな生徒が奥の方の席に座っている。
特にあの、一人と言うのが正しいのか、ロボットアニメにでも出てきそうな出で立ちのゴーレムが有無を言わせず視線を独占する。
「雨鳴閃助と言います、これからよろしくお願いします」
完全に場違いな空間に居ている気がしてうまく言葉が出ない。
それに反して、生徒達は歓迎して迎え入れてくれる雰囲気で拍手をした。
「はーい、静かに、君はそこ、中央から二つ目の左側の席空いているからそこね」
キザキが手を叩き閃助に着席する指示を出し、それに従い閃助は空いていた席に腰を下ろした。
「特に連絡事項は無いから精々そこの新入生君に質問攻めでもして困らせてあげなさい」
職務は全うした、そんな表情で教室から出て行く途中、閃助は飲酒の事をばらしてやろうかと恨めしい目でキザキを見たが嘲笑するように鼻で笑って手を振って出て行った。
まだ出会ってほとんど時間が絶っていないが、キザキがどういうタイプの性格なのかは大体把握出来た気がした。
キザキの発言もあったので、生徒の中でもミーハーな者たちが閃助を囲む。
そこから授業が始まるまでの間に様々な事を揉みくちゃにされながら質問攻めにされた。