第二章 c
疎らに、だが生徒らしき姿も見られ、その中に閃助も混ざる。
あまり良くない事だと分かっていても、ついつい視線を向けてしまう。
清楚な雰囲気に藍色の髪が目を引き、同じ制服でも背から竜の様な羽に、腰のあたりから延びる緑色の鱗に覆われた尻尾、明らかに龍族の貴族、そのお嬢様という事が解る。
皇国は様々な種族の集まりで作られた、その名残は多く残っており御三家と呼ばれる三つの種族は貴族が多く、王になった者も多い、その中の一つ、龍族と呼ばれる事戦闘においては圧倒的武力を誇る種族だ。
最も、獅子王はその龍族さえも圧倒する力で王座を手に入れたと側近は言っていた。
当時歴代最強と謳われていた龍族の王候補と一対一の決闘をして有無を言わせぬ力の差を見せつけたとまで語られているそうだ。
本人はほとんど力の差は無かったと言っていて負けた方は自ら完敗だったと風潮することで勝った方がより統治しやすいようにと口裏を合わせていたせいだと言っていた。
今でもその時の龍族の者とは親しく、彼は今世界中を回っている最中だそうで、手紙が不定期ながら届くそうだ。
閃助が色々と考え事をしながら視線を向けているとそれに気が付いたのか龍族のお嬢様は立ち止り微笑一礼して学院内とへ消えて行った。
失礼な事をしていたにも関わらず気の良い女の子だと閃助は申し訳ない気持ちに成りながらもなんとかやっていけそうな気がした。
心の中で気合を入れて学院の入り口へ、靴箱の様な物は無く、そのまま教室に向かっていく生徒達、職員室の場所は先に獅子王に聞いていたので迷う事無く迎えそうだが、扉に書いてある文字が読めない為、間違って変な部屋の扉を開けてしまう事を考えると慎重になってしまう。
入って通路の右側、三つ目の部屋が職員室。
かなり入口に近い位置にあるが、間違ってないはず。
意を決し、扉をノックして入る。
「失礼します」
中に入ると幾人かの教員らしき姿が目に入る、その中の肌の赤い女性教員、彼女が担任の教師と聞いているが。
「おお、来たか青年」
こっちに気が付き、手招きで呼ばれる。
「おはようございます、今日からよろしくお願い致します」
「堅っ苦しいねぇ、そんなにピシっとしなくたっていいじゃない?」
とは言うが、閃助からすると肌の赤い額に角が二つ生えた、まさに赤鬼の代表例みたいな見た目の女性がリクルートスーツの様な服装をしているのだから嫌でも警戒心を煽られる。
閉まりきらないのか胸元が大きく肌蹴さて赤い谷間がちらちらと目に入る。
「いえ、これから担任としてお世話になりますから」
「これだから、王族のお坊ちゃんはつまらんね」
長く白い髪先を指でくるくると弄り始める。
「ああ、名前がまだだったね。君は閃助君だね、嫌でも知ってるから、私はキザキ、キザキ・ナコトね。ナコちゃん先生って呼んでね」
いきなり会話の主導権を握り饒舌に喋るキザキに閃助は無言で頷くだけだった。
「しても、君が獅子王の養子ねぇ……」
上から下まで、じっくりと値踏みするように見て行く。
「どう見ても、強そうには見えないし、かといって特に頭がよさそうな見た目でもない、強いて言うなら月並みで、安定した一般市民って所だよねぇ、君何か特技でも?」
「いえ、これといって特にはないですけど」
冗談抜きで値踏みされていたらしく、閃助も歯に衣着せぬ態度に圧倒されっぱなしだ。
「ふぅーん。なおさら話が見えなくなったけど、君が生徒である事に変わりはないか。はい、解りましたよ。朝礼までまだ時間あるし、そっち座りなよ。色々話でもして相互理解を深めようじゃないか」
椅子に座ってキザキと対面して閃助はようやく気が付いた、机の下にアルコールの入った瓶が見えた。
未成年だから飲めなかったが、側近が良かったらと持ってきた銘柄と同じ。
確かに少しアルコール臭いような気がしなくもない。
「先生、もしかして飲んでいますか?」
「おっ、良く気づいたねぇ。ばらしたら殴り飛ばすから」
とんでもない教師に当ってしまった。