表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

第六章 a

第六章


閃助は自室でため息を吐いていた。

結局、昨日は市場を出た後二人で昼食を取り、服を見て回ったがメロット自身が気にいる物が無く話はまた次回と言うことになってしまった。

いやまてよ、次回と言う事はまた、メロット出かける口実が出来たのではないか?

そう考えるとそれはそれでよかったのかもしれないと閃助は一人頷き、納得する。

口を噤んで昨日の事を思い出すとメロットの事もだが、あのぶつかった猫の女の子の事が気が気じゃない。もしかしたらあの男たちに追いかけられていたのかもしれない、そう思うと酷い後悔に見舞われる。

メロットとの外出で浮かれていた自分が情けなく思えてくる。

完全に手遅れだったが、どうしても気になって閃助は立ち上がりもう一度市場へと思い立ち部屋を出ようとした時だった。部屋の戸をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

声を掛けて閃助はソファへと腰をおろし、昨日買ったぬいぐるみの背中を撫でる。

「すまんな、ちょっと話がしたくてな」

珍しい客人に閃助は立ち上がる。

「珍しいですね」

申し訳なさそうな顔をした獅子王が屈んで部屋へと入って来た。

部屋を見渡して一番大きな椅子へと腰を下ろすが、椅子がそれでも小さすぎて腰が膝よりも下がり変な姿勢になり、座る事を諦め立って話を始めようとするので、閃助も立ち上がろうとすると肩を抑えられた。

「閃助は座っていてくれ、ちょっと面倒な話をしなくてはならんのでな」

左手で右ひじを抱えて右の人差し指で頬を掻きながら観念した様子で獅子王は話を切り出す。

「今日の昼からなのだが、閃助も知っておると思うが、飛空艇ターミナルのお披露目という事でパーティーがあるのだが、そこに閃助、君も出てほしいと言う話なのだ」

いきなりの話に閃助は顎に指を当てて擦りながら考える。

「わかった、だけど、何をすればいい?」

「君の物分りのいいところには本当に助けられているぞ。まずは服装だな、学院の制服でも構わんだろう、下手に形式ばった服装は着慣れておらんだろうから窮屈だろう」

「服装はわかった、次は?」

「うむ、当然の事なのだが、厄介な話で周辺貴族らはもちろん、周辺諸国よりも完成パーティーに来るのだ。うむむ、隠しても仕方ない故に単刀直入に言おう、今の閃助は何処の国もどの貴族も欲しがる存在だ」

閃助は獅子王の言う意味を理解できずに首を傾げて問いかける。

「悪いですけど、良く分かりませんが」

「あー、つまりだ。私の養子、つまり私の息子という事に成る訳だ。自意識過剰と取られるかもしれんが、私の息子と言うだけで血の繋がりが無くとも重要な価値のある雄だという事だ」

「でも、王制と言いつつも世襲じゃない以上さほど価値があるとは思えないけど」

「うむ、確かに王を必ず継げる訳ではないが、爵位が付く、無論そのものが欲すればだがな。歴代でもほとんどの王はその爵位を受けぬものが多かったが、私はそれを受けるつもりだ」

閃助には不思議で仕方なかった、獅子王ほどの男がどうしてそのような特権を受ける気で居るのかが。だから聞いてしまう。

「どうして?」

「閃助、半分は君の為だ」

それを聞いて閃助は口を噤み獅子王の瞳を見る。

「君は私の頼みを受け入れてくれた。たとえ、君が王になれなくともその後の生活に困るようなことだけはしたくなくてな。まぁ、言うなれば私からの餞別だ」

「駄目だった時は自分で何とかするから、そこまでしてくれなくとも」

閃助の言葉を遮る様に獅子王は閃助の頭を撫でる。

「なに、王の役目を終えたら山奥でひっそり暮らそうとでも思っていたのだ。元手が無くては何も出来んだろう? 閃助さえよければ共に静かに暮らすのも良いと思ってな」

獅子王は頭から手を離すと咳払いをして腕を組む。

「話を戻そう、爵位を継ぐ以上君は間違いなく公爵扱いになる。つまり上から数えた方が早い貴族と言う訳だ。勿論、内政にもある程度だが干渉できる余地がある」

「王族とのパイプとして有益だという事ですか?」

獅子王は怪訝な顔をしたがすぐに爪で頬を掻き頷く。

「まぁ、そう言う事だろう」

歯切れの悪い言い方に閃助は顎に手をやって、はっと気が付く。おそらくだが、パイプと言う単語が無いのではという答えに至る。

「要するに、閃助は出来るだけ私の傍に居てほしいという事だ。安易にちょっかいを掛けられたとしても私がカバーできるように」

「ちょっかいと言うと?」

これまた不機嫌と言うか、不満げな顔でため息を吐いてありのままを話す。

「早い話が婚約だな、公爵家の雄、それでいて私の息子、これだけ魅力的な結婚相手をみすみす見逃すようなことはしたくは無いだろう。嫌でもこれからは縁談の話が持ちかけられるだろう、すまんがそのあたりの話はある程度我慢してほしい」

一個人ではなく、その爵位や地位目当てでの結婚や婚約の話と言うのは閃助からすれば完全に縁の無い話だと思っていたので、言葉が出ない。それを嫌だとも思っては無い自分が居る事に閃助は絶句するよりも呆れてしまう。

「特に実害がある訳でも無いでしょうから、別に気にする事じゃないかと」

「そうか? そう言ってくれると本当に助かる。 閃助には何から何まで感謝の言葉しか出ないな」

自分もだが妙に他人行儀な物言いをされているような気がして閃助も少し砕けた言い方で口を開く。

「養子になる事を了解した時にそう言う感謝とかはやめて欲しいって言いましたよね? 血は繋がってなくても家族だから、親父の荷物を背負うのも息子の役目だから気にしないで」

閃助がそう言うと獅子王はふっと背を向けて顔を上げて天井を見つめる。

「閃助、今私を親父と呼んだのか」

「あれ、不味かったですか?」

そう言うとものすごい勢いで振り返り肩を掴み、顔を近づけて目が合う。

「いや、今後ともそう呼んでほしい」

「は、はい」

あまりの凄味に流石に驚いてしまう閃助、そう言えば獅子王の事を父と呼んだことが無かったと思い、少しばかり申し訳ない気になる。

「あー、出来ればその、普段からもう少し砕けた話し方でも良いのだぞ?」

普段から気を付けてないと公の場でドジを踏みそうなので閃助は、そこは譲れないと獅子王に言うと寂しそうにうむ、とだけ獅子王は洩らした。

「いやいや、それにしても急な話で悪かった、本当はあまり出したくなかったのだが、どうしてもと諸国や貴族連中に言われてな。まだ顔を見せての話は早いと思っておったのだが、如何せんしつこく言ってきおって敵わんのだ」

是非にもとあちらこちらから話が上がってその処理までしていると獅子王の容量を超えてしまいそうで、タイミング的にも問題は無いと判断して渋々折れて、今に至る。

「俺自身、そろそろいい時期だと思っていましたから、あんまり気にしないでください」

閃助もこれ以上レグルスと言う渾名が流行るのは阻止したかった。そんな名前で呼ばれては明らかに自らの名前負けっぷりが恥ずかしからだ。

「うむ、ではすまんが準備を頼む、あと一刻もしないうちに出たいのでな」

閃助が首を縦に振るのを見て、獅子王は部屋を後にした。その直後にドアをノックしてメロットが入ってくる。手には制服を持っていた。

「制服をお持ちいたしました」

「ありがとう、助かるよ」

それを受け取り、素早く服を着替えて、身支度を済ませる。

しかし、パーティーと言っていたが、こちらの世界でそう言う場に出るのは始めだと考え込む閃助。脱いだ服をメロットに手渡し、背伸びをする。

「そういえば、メロットはパーティーとかに出た事はあるの?」

「私はどちらかと言うと準備しておもてなしさせて頂く側では出席させて頂いたことはありますが、参加者としては無いですね」

そう言ってメロットはそそくさと逃げるように部屋を後にした。

思い返さる昨日の出来事に閃助は否応なく肩を落とす。

ふと、獅子王が来る前に出ようとしていた事を思い出したが、獅子王との約束を破る訳にも行かない。

心の中で彼女に謝罪して、ネクタイを締めて、部屋を後にした。




「どうした?」

飛空艇ターミナルの披露宴パーティーの控室で腕を組みそわそわする閃助に獅子王が声を掛ける。

「いえ、こう出るまではそうでもなかったんですが、いざ顔見世となると緊張してきて」

それを聞いた獅子王は閃助の背中を軽く立叩き、笑って見せる。

「安心しろ、今の閃助に難しい事は求めては居らぬ。ただ笑って飄々としていればそれでよい。それに私の息子だ、笑う様な者は私が許さんさ」

冗談めかしに言ってウィンクを飛ばす獅子王に閃助は肩の力が抜けて笑ってしまう。

「ああ、それでよい。閃助は笑っている方が似合っておる」

獅子王のお蔭で緊張感がほぐれ、肩の力を抜くことが出来た、そこでようやく閃助は飛空艇ターミナルを見る事が出来る窓を見て全貌を確認できるくらいに落ち着きを取り戻した。

控室の窓からは飛空艇ターミナルの発着点を見る事が出来る。飛空艇が錨を下ろして着地している所が見えた。

「私もこうやって見る機会は少なくてな。中々に面白いとは思わんか?」

飛空艇が着陸して、搭乗口が開き中から続々と溢れる様にいろんな種族の者達が出てくる。

誰も彼もが着飾り招かれたことに期待を持った風な雰囲気を感じさせる。

そして、最後に物々しい男達と共に一人の女性が出てきた。

美しい赤のドレスで着飾り、今まで見た誰よりも気高く美しい毛並をした女性。

その姿に閃助は声を漏らし、獅子王は眉を吊り上げて閃助を見る。

「なるほど、閃助はああ言う雌が好みなのか?」

「えっ? いえ、少し見た事があって」

メロットが昨日言っていた事を思い出した。お忍びで市場にやってくる王族も少なからずいるという事を。彼女の事が、気が気じゃなかったが追いかけられていた理由が何と無く察しがつき安堵した。

「うむ、隣国の第一皇女アルトネーア、見た事があってもおかしくは無いか」

一人納得して腕を組みうんうんと頷く獅子王、昨日会ったばかりだと閃助が言うと獅子王は不思議そうな顔をしたので、昨日の事をメロットと出かけたと言う方向性を隠して話すと獅子王は利き手で頬を掻き唸る様に笑う。

「いやいや、まさかそんな事があったとはな」

「何をそんなに可笑しいの?」

「こちらとは違う完全世襲制の第一皇女だぞ? 女王になる事を約束された者がお忍びで抜け出して偶然にもその国の国王の息子と出くわしたのだから、これが面白くなければ何が面白いと言うのだ」

「まさかとは思うけど、政略結婚とかはないですよね」

ひやっとして閃助は聞くが、今度は声を上げて笑う獅子王。

「まさかっ! 向こうとは歴史が違いすぎる、仮にそうなったら政略婚と言うよりは閃助の婿入りと言った所だろう」

豪快に笑ったと思えば息を吐いて落ち着いて思い出してくっくっくっと笑う獅子王。

「そういう事が無いように祈っておくよ」

閃助が乾いた声で笑うと部屋をノックして先ほどの飛空艇の船長が直々に挨拶をしたいとの事で案内されてここまで来た。

「獅子王様、お久しぶりでございます」

船長はまるまるとして、先の太い尻尾が特徴的で、丸い耳をしていた事で、船長は、狸が原種ではないかと察しがついた。その船長は感じのいい笑顔と共に右手を胸の前に構え頭を下げる

「うむ、いつ以来だったか」

「この間の式典以来ですな」

そう言って船長はちらりと閃助の方を見ると咳払いを一つして、閃助に近づき獅子王にしたそれと同じく頭を下げる。

「私はレイリー・フライトと申しまして、あの飛空艇の船長をさせて頂きております。間違いでなければそのお姿、かの噂のレグルス様とお見受けいたしますが?」

レグルスと聞いて首を傾げる獅子王、それを見てレイリーも首を傾げる。

「おや? 違いましたかね、その黒い瞳と黒い髪はレグルス様の特徴だと思ったのですが」

「そうです、俺が噂のレグルスです。正確に言うと、レグルスって言うのは渾名みたいなもので、本名は雨鳴閃助と言います」

「おや、ではレグルス様とお呼びしてはよろしくないですかね?」

すでに閃助の事はレグルスと言う名で広がっているようで、一つ一つ訂正していくとなると思いのほか時価が掛るだろう。獅子王はなるほどと察しがつき口を挿む。

「閃助、レグルスと言うのは君の渾名か?」

「ええ、どうやら俺の名前が広まってない時に獅子王様に養子が出来たとだけ噂になって、呼び名をレグルスと呼称したのがそのまま名前がレグルスと言う様な流れかと」

それを聞きうむ、と何とも言えない顔の獅子王は腕を組むと閃助を見やる。

「なるほど。しかし、そう悪い名前でもないだろう。無論、閃助が気に入らないなら話は別だが」

「どちらかと言うと荷が重いとか名前が勝ちすぎているとかそっちらかと」

そう言うと獅子王とレイリーは互いに見合って、笑いあう。

「いやいや、申し訳ない。レグ……では無いですね。閃助様は貴方自身の価値を知らなさすぎるもの。いやいや、本当に」

「全くだ。閃助、隣国でなら君は間違いなく第一皇子だぞ? 立場で言えばこの国の中でも上から数えた方が早いのだ。それが、名前が勝ちすぎているとは、何の冗談だと笑われてもおかしくないだろう」

獅子王たちが閃助の言葉に笑っているとまたもや部屋をノックする音が聞こえ、外からは聞いたことの声が聞こえた。

「失礼させて頂いてもよろしいでしょうか?」

その声を聴きレイリーは微笑し、頭を下げてそれではと言いドアの前まで移動する。

獅子王は喉を鳴らして真面目な表情をしてきりっとした声を放つ。

「入室を許可する、入りたまえ」

扉の向こうには、先ほどの赤いドレスの猫人、第一皇女アルトネーアがボディガートと共に立っていた。アルトネーアが入って来た後にレイリーは静かに部屋を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ