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第五章 d


手に紙袋を持ちつつメロット共に街中を歩いていく。

「次は何処へ行こうか」

「そうですね、中央市場などいかがでしょうか?」

「じゃあ、そうしよう」

二人並んで中央市場へと歩いていく、モダンな作りの街並みは十九世紀頃の西洋。

煉瓦造りの家が立ち並び、様々な種族の者たちが行き交い活気づいている。

その中でメイド服とカジュアルな服装の二人は異様に目立ち、住民たちの目を引き誰もが閃助の容姿でどういう立場の存在かを理解する。

「こうも目立つと恥ずかしいな」

視線に耐えきれず閃助が泣き言を零すとメロットは微笑ながら閃助を諭す。

「閃助様は獅子王様の養子でございますから、今こうして皆が営みを絶やすことなく生きていられるのは獅子王様の采配があったからこそ、ですから獅子王様がお認めになられた閃助様は誰もが皆、期待しているのです」

「何を、かな」

「次期国王になってほしいという事です、私も含め、無論獅子王様もそうお望みです」

視線の一つ一つがプレッシャーになっていると考えると重圧で押しつぶされそうになる。

「安心してください、閃助様を支えるために私共、使用人がおります。ですから、あまり難しく考えなくてもよいのですよ?」

メロットの言葉に閃助は肩が軽くなったような気がして背筋を伸ばす。

「ありがとう、本当にいつも助かっているよ」

「いえ、私がそうして差し上げたいのですから、そのような事を言われますと困ります」

微笑みながら言葉を返すメロットをちらりと横目で見て、閃助も笑みが零れる。

ほどなくして、中央市場へとたどり着く。中央市場はこの時間からでも賑わいを見せており、色とりどりの商品や食材が多く並んでいる。

「かなり広いな」

看板が目立つ入口からでもわかるその広さに圧倒される閃助。

「ええ、規模で言えば皇国内最大の市場になります、此処では国内外問わず様々な物が取引されています。たとえばですが、食品はもちろんの事、南の地方でのみ取れる特殊な色で発光する光石や雪山にのみ咲く花で作られた薬など、ここに無い物の方が少ないなんて言われるほどですから、市民含め王族も稀にお忍びで買い物をしに来るほどです」

「今の俺みたいにね」

しかし、そこまで焚き付けられると色々と見て回りたい衝動に駆られる閃助。その考えは口にせずともメロットには伝わった様で。

「では、参りましょうか」

先に進もうとするメロットの手を閃助は掴む、それに驚くが手を振りほどくことなく振り向くメロット。

「どうなさいましたか?」

「いや、これだけ多いと逸れたら大変だと思ってさ」

無意識に手が伸びた、などとは言えず思いついた言い訳を口にした。

「では、はい。これで大丈夫ですね」

メロットは閃助の手を握りかえし、隣に立つ。

「行きましょうか」

えらく上機嫌なメロット、先ほどまでの不機嫌具合は何処へ行ったのかと閃助は苦笑する。

「それにしても、本当に色々な物があるな」

暮らし始めて日が浅い閃助からすれば用途不明の物体が多く、時折見かける、見たことある物を嬉しく感じてしまうほど。

「ええ、昼食には早いですし、食料品以外となるとあちらの方は駄目ですから」

ウキウキした様子でどうしようかと悩むメロットに疑問を持つ閃助。

「メロットはここへ良く来るの?」

「日用品の様な物や一般的な食品となると町のお店の方が多いですが、特殊な物、たとえば東地方原産の氷石などは一般店より値は張りますが質も良く城内の冷蔵庫で使う様な物はこちらに買いに来る事が多いですね」

「氷石って?」

「? なるほど、閃助様はご存じないのですか、氷石は光石と同じで、共鳴石と合わせて使用することで光の代わりに冷気を出す石の事です。 城内の冷蔵庫となりますと一般店の物では日持ちしないので質の良い物をと、獅子王様の言いつけで必要になれば買いに来ます」

「そんなに違う物なのか?」

「はい、東地方産ですと小さい物でもとても長持ちするので、重宝しております」

「他にも共鳴石と一緒に使える石ってどれくらいあるの?」

「発見されているだけでも数百は軽く超えているはずです。大した事の無い現象を引き起こす石も多くありますので生活や軍事面など様々な用途で使われている物だけに絞りますと大体八十前後かと」

閃助は何気ない質問のつもりだったが、それほどまでに種類豊富だとは思っておらず呆気にとられて、声を漏らす。

「結構多いな、そんなにあるとは思わなかったよ」

「確かに便利ですが、共鳴石が無い事にはただの石ですので、重要な場合や場面ですと使いづらく、万能と言う訳ではありません。ですから様々な種類がありますが、淘汰され使われるものは少ないです」

「確かに、二つでようやく使えると言われると不便な所はあるかもしれないな」

しかし、共鳴石があれば電気がいらないのだからやはり便利と言うか環境に良いのではと思ってしまう閃助。

「ですが、重宝しているのも確かですので、生活には欠かせない物ですね」

「やっぱりまだまだ知らない事の方が多いと実感されられるよ」

だからこそ、今日はこうしてメロットと二人で城外の様子を知るために町に来た。

そうやって、知らない事を少しずつ減らす事で、この世界の事をもっと良く知ることで、この世界に来た意味を見つけられるのではないかと思う。

「閃助様は勉強熱心でございますね」

「探し物を見つけるのには、色々と知らないといけないみたいだからね」

何をとは口にはせず、胸の奥に仕舞い込む。メロットは言葉をそのまま受け止め、クスリと笑う。

「閃助様の探し物が見つかるまで、どこまでもお供させていただきます」

「ありがとう、なんだかメロットには世話になりっぱなしだな」

「いえ、私がさせて頂きたくてさせて頂いていると言っても過言ではありませんので」

幸せそうな表情のメロットを見ると一緒に来てよかったと心の奥底から思えてくる。

もし、この世界に来たのが、メロットと出会う為だったとしたらなどと考えてしまう。

心に穴が開いたような空虚感が千穂にであった後から拭い去れずに居る。きっとそれは許されてしまい、指針とすべき物が消えてしまったから。

縋っていた過去は拭われ、この世界に来た時の使命感や義務感は胸の内より霧散し、目標を探している。それが無いと、閃助はきっと駄目になる。何時だって抱えた物を義務として生きてきた。後悔だけはしないようにと。

難しい顔で虚空を見つめる閃助にメロットは不安になり声を掛ける。

「どういたしましたか?」

その声ではっとなり閃助はメロットの方を向いてなんでもないとだけ口にする。

「そうですか、ここは広いですから先に進みましょう」

メロットが歩き出した時、前向いていなかった為に、誰かとぶつかってしまう。

「きゃっ!」

相手の悲鳴にメロットは驚いて閃助から手を離し相手へと近づき謝罪を繰り返す。

「申し訳ありません! 御怪我はありませんでしょうか?」

膝間づいて服が汚れる事も気にせずも相手の心配をする。

「ええ、問題ありませんわ。わたくしこそ焦っていたもので」

そう言って相手は顔を上げる。

閃助の第一印象は人型の猫。ただし、たまに見かける美人猫と言った印象を受けた。

白銀の毛並に獅子王と同じ澄んだアイスブルーの瞳が神秘的な美しさを醸し出している、

「貴女の方は怪我とかは無いかしら?」

「はい、本当に申し訳ありませんでした」

しゅんとしたメロットの様が可愛くて閃助は思わず微笑んでしまう。

ぶつかった相手はメロットから視線を移して閃助を見ると目を丸くして瞬きを繰り返す。

「あの、そちらの方は?」

「あっ、それは……」

メロットは歯切れの悪い言葉を口にする、周知の事実とは言え、閃助の事を口にしても良いかと、考えてしまう。特にここの市場は国外の者も少なくない、最悪の事態を考えると簡単に口にできなかった。

「俺は雨鳴閃助、レグルスって言った方が解りやすいかな」

閃助は諦めたように微笑んで、自らをレグルスと名乗った。

それ名前を聞いて、彼女はらんらんと目を輝かせて立ち上がり、メロットには目もくれず閃助の前まで来る。

「不躾なお願いなのですが、その髪に触ってもよろしいでしょうか?」

いきなりなお願いに閃助はたじろぐが、悪意のある雰囲気でもなく、黒い髪が珍しいのだろうと思うと別にたいしたことではないので、頷く。

「ありがとうございます」

そう言うと彼女は恐る恐るといった様子で毛並の良い手でさわさわと髪を撫でる。

その間どういった顔をしていいのか困った様子のメロットがポツンとしていた。

「あの、もういいかな?」

閃助の言葉で彼女は手を離して頭を下げる。

「はい、ありがとうございました」

満足げに笑顔を作ると突然尻尾と耳を逆立てると閃助とメロットに頭を下げて走り出してどこかへ行ってしまう。

「名前も聞けなかったな」

思ったことを口にすると、メロットはムスッとして閃助の隣に立つ。

「そうですね、とても美しい方でしたね」

嫌味そうに言うとメロットはそっぽを向いて、歩き出す。

「そうだけど、あれ、メロット?」

振り向くと先を歩いて行くメロットを慌て追いかける閃助。何が何だかさっぱり理解できずにまた不機嫌なメロットの背中を見つめながら後を付いていく。

その途中、妙な男たちが必死の形相で市場を走り回り何かを探していると言う話が耳に入り不安そうなメロットの様子を見て気を遣い閃助は市場を出ようと声を掛けて二人で市場を後にした。


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