第五章 b
二人並んで正門を抜けて町の方へと歩き出す。草木に囲まれた自然豊かな道を二人のペースで歩いていく。
「こっちに来てからは馬車での移動が多いからこうして偶には歩くのも良いね」
「そうですね、しかし使用人の立場から言わせて頂きますと、閃助様の様な王族の方が安易に出歩かれますと内心穏やかではありません、故に馬車などで移動いただくのが適当ではないかと」
「そう言われるとそうだけどさ、やっぱり歩くって良いことだよ」
水辺が近いのか風に心地よさを感じる。
「閃助様のお気持ちも察することは出来ます、なので、その」
メロットからは言葉に詰まっていると言う訳ではなく気恥ずかしそうな印象を受ける。
「心配しなくても大丈夫だよ、一人では出ないからさ」
歩きながら閃助は胸いっぱいに空気を吸い込み、息を吐く、ただそれだけなのに随分と気が楽になる。
「そうですか。いえ、そのようにして頂けると良いかと」
何故こうも見事に期待させるだけさせて放っておくのが上手なのだろうかとメロットは向ける事の出来ない憤りに口を尖らせる。
少し前を行く閃助はそれに気が付く様子も無く、普段は駆け抜ける景色をゆっくりと楽しんでいた。
「俺が住んでいた所は町中だったから、森や海が近いここの暮らしは新鮮味が多くて飽きないなぁ」
公園やプールなどはあったがこれほど立派な森や潮風の吹き抜ける港は無く、年甲斐も無く心躍る閃助だった。
「閃助様は意外と子供の様に楽しまれることが多いですね」
その言葉にピタリと閃助は足を止めて振り返る。
メロットは言ってはいけない事だったのかと背筋が凍りそうになり、すぐさま撤回しようと口を開こうとするが先に閃助がメロットに言葉を投げかけた。
「そう見えるかな?」
「えっと、その」
言葉を詰まらせるメロットに対して、閃助はこういう時だけは察しがいい。
「そう言われて嫌な訳じゃないから、正直に答えて欲しい」
「は、はい。私には閃助様は時折ですが、年端も行かぬ子供の様な印象を受ける時が御座います。私としては、そういう所はとても魅力的と言いましょうか。素敵だと思います」
思っていた以上の回答に珍しく閃助は呆気にとられて言葉を鵜呑みにしてしまい魅力的、素敵だと言う肯定的な言葉が頭の中で反響する。
しかし、瞬く間に気を取り戻し、リップサービスだと自分に言い聞かせて頷く。
「ありがとう、まさかそんな風に言われると思ってなかったから少し驚いたよ」
女の子はすぐに男を勘違いさせる言葉を口にするからと、昔から姉に口酸っぱく言われてきた事を思い出す事で最悪のすれ違いを起こし、落ちるところに落ちる事が出来ない閃助。
「そうか、子供っぽいか」
ため息交じりに呟く閃助、それを聞いてもあえて掘り返さず聞こえなかったふりをするメロット。閃助の何気ない動作一つ一つがとても愛おしく、この方がこの国の次期王になればより共に多くの時間を過ごせるのではないかと淡い期待を胸に抱いてしまう。
閃助と同じくメロットも憂いを帯びたため息を吐いてしまう。
歯車の噛みあわない二人はなにげない会話を続けながら森を抜けて、街中に入る。
朝はこの世界においては光の差す時間でもある。
光石と共鳴石で夜も明るいが本能的に日が落ちると眠ってしまう種族が多く、朝は日が昇り始めると多くの者が目を覚まし、町は活気づいている。
使用人と二人で街中を歩く王族は珍しいのか誰もが歩く閃助に視線を移す。
「こうも視線を向けられると恥ずかしくて敵わないな」
「それだけ、閃助様が王族として認められたと言う事ではないでしょうか」
獅子王が養子を迎えた事は市民の間でも噂になっており、閃助が学院に通い出してからは露出面も増え認知度が上がってきたらしく、顔をと言うより髪と瞳の色で判断している様子ではある。
街中で遊ぶ子供たちも閃助を見ると走って遠くへ行ってしまい、物陰からじっと見つめて、閃助の様子を見守っている。
「あの子たちは一体どういう目的なんだろうか」
首をひねって考える閃助を見てメロットはニコニコと楽しそうに微笑む。
「閃助様の様な王族の方に合う機会はほとんどございませんから、どうしてよいのか解らないのでしょう。ですが、ただ逃げ帰ってしまうと次はいつ会えるかわかりませんから、出来るだけ目につかないように見ていたいと言うところですかね」
「そういうものなの?」
今でこそ時代が発達したあの世界ではテレビや写真など王族や有名人を見ることは容易いがそう言う技術が無いここだと確かに目にする事は珍しいのだろう。
「ええ、私も子供の頃はそう言う所が御座いましたから」
懐かしむような目で子どもたちを見るメロット。
「嫌われている訳ではなさそうだから良かったよ」
「はい、仮に閃助様を嫌われている者がおりましたら、それ以上の好意を持って私がそれを埋めて差し上げます」
無意識だろうと閃助はこのメロットの天然じみた人をコロッと落とそうとする言い回しをやめてほしくて仕方ない。自分だけならまだしも他の男にこういう言い方をしているのかと思うと勝手な意見だが、好ましくない。
メロットはメロットでそう言う言い方をしても好意に気が付かないそぶりを見せる閃助にやきもきしてついつい言葉が過激になって行く。
互いに意識しすぎてすれ違ってしまう、付かず離れずの関係が板になってきた。




