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第三章 c

「とりあえず、獅子王様を探そうか」

「あれ、閃助は獅子王おじ様の事、お父さんって呼ばないの?」

確かに、養子ならその方が正しいのかもしれないが、閃助としては尊敬すべき王と言う側面の方が強く、そう言うのには抵抗が残っている。

「色々、事情があってね」

「なら仕方ないのかな。でもできればお父さんって呼んであげる方がいいと思うよ」

「そうかなぁ」

「そうそう、ここかな」

談話室の扉をノックすると中から獅子王の声が返ってくる。

「失礼しまーす」

名乗らずに千穂は扉を開けて入る。

「お久しぶりです獅子王おじ様」

そう言いながら獅子王に抱きつく千穂。

「随分と大きくなったな千穂、光龍から話は聞いているぞ」

「そうですか、なら話が早いですね」

後に続いて閃助が部屋に入るとぎょっとしてしまう。

光龍が普通に椅子に座っていたのだから。

「ただいま戻りました、獅子王様、この方は?」

「ああ、前にも話しただろうが、私の友人で数少ない私と渡り合える強者、光龍と言う」

「ほぅ、君が噂の閃助君か、俺は光龍と言う者だ、よろしく頼むよ」

差し出される手を恐る恐る握り、握手を交わす。

「む、どうやら君は千穂の探し人だったようだな」

「どうしてそれが?」

閃助は一言もそんな事言っていないのに何故わかったのか驚きを隠せなかった。

「何、私の目に見えぬモノはそうそう無い、それだけだ」

はっはっはっと豪快に笑う光龍、確かに獅子王の友人なだけあって似た所が目立つ。

「もう、はしたない笑い方はやめてよ」

千穂は呆れたように光龍をたしなめる。

「出来るだけ善処しよう」

全くもって直す気は無いらしく再び椅子に腰を下ろして、獅子王の方を向きなおす。

「話の続きだが、例の海賊の件だが、確かに引き受けたぞ」

「ああ、すまないが頼む」

「代わりに、娘を頼むぞ」

「えっ?」

どうやら千穂の知らない所で話が進んでいる様子だった。

「お父さんもこの辺りに残るって話じゃないの?」

「元々そのつもりだったのだが、俺の故郷の方でヴィジョンドラゴンが目覚めたと言う連絡があってな、此処からだと少し遠いからな、私一人なら一月掛らぬが千穂と一緒だと半年はかかりそうだからな、ちょうどいいから、千穂、お前はここで獅子王の世話になってくれ」

「うー、わかった。でも終わったらお父さんもこの辺りに住み着く予定なんでしょ?」

「それは無論だ、お前を一人にするなんて本当は辛いのだが、事が事なのだ。それにここには唯一無二の俺の信頼する友も居る」

その言葉に獅子王は照れくさそうな顔で頬を掻いていた。

「はいはい、お父さんがあたしを置いていくって事は本当に不味い事なんでしょ、精々気を付けてね、戻ってきてあたしに彼氏が出来ていても怒らないでね」

「彼氏だとぉぉぉぉぉぉ!」

尻尾を振り上げ立ち上がると座っていた椅子が勢いよく吹き飛び壁にぶつかり大破した。

「だって学院に通うんだもの、いい男の子が居ても不思議じゃないと思わない?」

なわなわと光龍は震えていた。

「認めんッ!認めんぞッ!少なくとも俺より強い雄でない限りは認めんぞぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉ!」

光龍の咆哮は大気を揺らし部屋を振動させる。

逆鱗に触れられた龍の如く怒りを解放していた。

「ちょっと、お父さん落ち着いて」

千穂は慌てる事無く光龍の背中を叩く。

すると瞬く間に光龍の怒りは収まったのか萎むように翼をたたむ。

「す、すまん、少し動揺した」

少し所の話ではないが、確かに窓ガラスが割れて無い所を見るとある程度は考えていたのだろう。

「とにかく、千穂、お父さんは彼氏なんて認めないぞ。少なくとも最低条件は俺より強い事だ」

そんな者獅子王以外居るのだろうかと言う根本的疑問を閃助は口にせず胸にしまう。

「はいはーい、で、いつから出るの?」

「今晩、飯を食ってから行こうと思っている」

光龍がそう言うと獅子王が続けて。

「夕食はすでに用意している所だ、食べ行かねば損だろう」

「元々そう言う話だったんでしょ。じゃあ、獅子王おじ様、あたしの部屋は何処かしら、食事の前に部屋を確認しておきたいの」

「閃助の向かいの部屋を用意しておいた、閃助に案内してもらうと良い」

「なん……だとぉ……」

光龍が地の底から叫ぶ怨霊の様な声を上げる。

「もう、獅子王おじ様ったら気が利くんだから」

ぽんと獅子王の腕を叩いて閃助の手を引いて部屋を出て行く。

「じゃあ、お父さん、後でね」

手を振って千穂は部屋の外へと出て行く姿に手を伸ばして空を切る光龍。

「あー、なんだ、お前も相変わらずだな」

獅子王は頬を掻きながら光龍の情けない姿を見て言う。

「貴様には解らんだろうさ、娘の居る父親には解るだろうがなッ!」

ポンと獅子王は光龍の肩に手を置く。

「今日はいい酒を用意しておくから、少しくらい大目に見てやってくれ」

「構わん、このタイミングで目覚めたヴィジョンドラゴンに八つ当たりしてやるだけさ」

鋭い眼光が殺意と悪意を持ち遥か遠くのヴィジョンドラゴンを見つめていた。

「油断はせんようにな」

「分かっている、その前に海賊に八つ当たりしていくからな、少しは気がまぎれるだろう」

自分で頼んでおいて獅子王は少しばかり海賊たちの心配をしてしまう。

「出来るだけ殺さぬようにしてやってくれ」

「殺しはせんよ、娘の、千穂の為にもな」

そのあたりの分別は付いている、いくら頭に血が上ろうと今の光龍にとって最も優先するべきは娘の千穂であるのだ。

今回の件だけは特別だ、最悪の場合、千穂に影響が出る可能性が無い訳でないからだ。

「ヴィジョンドラゴンか、懐かしいな」

「ああ、あの時は俺達二人でどっちがあいつを倒すかで先に殴り合いしていたな」

「互いに死屍累々になった所を襲われ、二人で勢い任せに倒してしまって結局互いの死闘の方が長かったと」

その落ちに二人して声を上げ笑い、思い出話に花が咲いていた。

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