四十九時限目「雌猫の決断、即ち決死の雄竜救出作戦について」
~前回までの粗筋~
蠱毒成長中、ツイッターアカウント凍結!
著しい執筆意欲の低下に苦しんでいた蠱毒の二つ目のツイッターアカウントが遂に凍結された!
早速サポートチームに異議申し立てをした彼への返答は
『悪事のために複数のアカウントを管理した』などという若干意味不明なものだった!
(注:七割ほど盛っているので真に受けないように)
ともあれ『二度凍結されたら問答無用で死刑!』という取り決めにより原則ツイッターへの復帰を封じられてしまった蠱毒は、
同時に作品宣伝の機会も失うこととなる。
然し往生際が悪く意地汚い彼は、尚も諦めず連載の更新を試みる……
果たしてSNSによる宣伝の行われていない不人気作品の最新話を読もうなどという読者は現れるのか!?
そして蠱毒はこのまま拡散力を失ってしまうのか!?
金田『いやお前の近況報告かよ!』
譲「活動報告でやれ!」
『大丈夫なんでしょうか、常木先生……』
「さてな……私には何とも言えんよ。我々はただ、彼女を信じて待つしかない……」
あれから何分が過ぎただろう。
私こと内田にできることと言えば、ジェニファーさんの傍らで常木先生と清木場先生の無事を祈り続けることだけだった。
(なんて、読者の皆さんを置き去りにしたような独白をしてたんじゃいけませんよね、わかってます。
そこまで重要な登場人物でもないのに一人称視点の担当に選ばれたんですから、しっかり説明しなきゃいけませんよね。
前回ラスト、『何かあったら頼む』の一言を残し常木先生は単身変わり果てた清木場先生の元へ向かわれました。
そして彼女は、察するに対話やスキンシップなどで清木場先生への干渉を試みました。
然し試みは失敗に終わってしまったらしく、私はジェニファーさんと『万策尽きたか』『まあ世の中、どうあがいても無理なことってありますよね』なんて語らっていました。
絶望感が何周もして、至極くだらない笑い話をしているような感覚に陥っていたんです。
こんなのどうしようもないと、そう思っていました。
けれど彼女は違いました。まだ諦めて堪るかと、行動を起こしたんです)
彼女が徐に取り出したのは、専用のパロディドライバー。
十八ある形態のどれかで彼を救うつもりでいることは火を見るよりも明らかだった。
(そうして変身した彼女は、何かの技を発動し――姿を消したんです)
無論、実際に姿を消したわけではない。
彼女の起こした行動は、厳密には――
(入った、と言うべきでしょう。一瞬見えたんです。
変身した常木先生が何か、幽霊のようなものに変化して、清木場先生の中に入っていくのを。
それが一体どういうことなのか、私達の誰も知りはしません。
けれど何となく、察しはつきます。
彼女が入り込んだのは――)
「やれやれ、まさかこんなことになっていようとは」
僕こと常木譲は現在、ある場所に降り立っていた。
そこは何とも異質な場所だった。
如何なる時刻とも言い難い明るさの空を、暗雲なんだか水に溶けた泥の粒子なんだかわからないものが流れていく。
空気は冷たく微かに湿っていて、時折、新鮮な生肉や汗、機械油などを混ぜたような臭いがする。
その中を伝わってくる音は何とも形容し難いが、強いて言うなら故障した、または古びた弦楽器で出鱈目に出した騒音を不気味に加工したよう、とでも言おうか。
そもそも立っている地面からして黒ずんだ筋肉のようで、しかもそれは生きているかのようにゆっくりと、低い音を立てて脈打っている。
そんな大地に息づくのは、これまた異質で異様な生物たち。
あるものは劇薬を浴びて肉の溶けた奇形の獣のようで、またあるものは屍から抜き取った骨や臓物が絡まったかのよう。
更には機械的な廃材や家庭ゴミで構成された無機質なものに至るまで、大小様々な生物らしきものがあちこちを動き回っていた。
全くもって"まとも"ではない。空間そのものが根幹からして狂っている。
しかしその狂いようには若干違和感もある。完全に狂気へ堕ちたわけでもないような、そんな気がしたのだった。
「……どこを何度見ても異様な光景だな」
『まあ、そりゃそうだよ……
だってほら、現実じゃないんだもの、これ』
金田の発言は一見支離滅裂に見えてその実的確だった。
そう。彼女の言う通り、僕らが今いるこの空間は現実のものではない。もしかしたら空間とも呼べないかもしれない。
それだけ成り立ちの特殊なものだった。
「疑似精神領域潜行システム、だったか。
対象の精神状態や記憶等を参考に作り出した仮想空間に潜り込んで間接的に脳内へ干渉するという」
『そうそう。空間内で中で何か起こればそれが電気信号って形で相手に伝わるんだよ。
精神干渉能力を持つコントロールのロングレンジこと「マインドシェイド」に備わってる中でもとびっきりの大技だね』
「……つまりここは――
――実質清木場君の脳内、というわけか」
そう、つまりはそういうことだった。
ホークス君達に後を任せた僕らは早速清木場君へ歩み寄り、彼を正気に戻すべく思い付く限りのことを試し続けた。
あれこれと言葉を投げ掛け、彼の身体のあちこちに触れた。
更には僕自身の身に宿る夢魔の力という奴を行使もしてみた。
だが変化は微塵もなく、どうやら清木場君は彼以外の何かによって仮死状態だかのようなことになっているらしかった。夢魔の力さえ受け付けないとは相当だ。
ともすればそれ相応の対処が必要になってくる。そう考えた僕らは話し合いの結果、清木場君の内側へ直に干渉し彼を救うべきとの結論に達した。
そうして金田の提案で『マインドシェイド』に変身、疑似精神領域潜行システムで彼の心に干渉を試みているというわけだ。
「然しなんというか、しつこいようだが異様な眺めだな……
これが彼の脳内、精神領域の具現だというのがたまに信じられなくなるよ。
そりゃまあ、それなりに変わり者だし決して善良ではなく、寧ろ悪役然とした男ではあるが……」
『暴走がかなり深刻化してるんじゃないかなー。
それかあの、お兄さんの身体と同化してる金属ナントカいう――
「有機的可変流体金属細胞?」
『そう、それが心にも作用してるとかね』
「なるほど、確かに……長らく生活の一部になっているから忘れがちだが、
有機的可変流体金属細胞――通称OVFMは本来全く未知のものだ。
挙動から性質に至るまで、何もかもが人知を超越した所に到達しているんだ。
同化している張本人の清木場君曰く、余裕で使いこなしているように見えて実はかなりギリギリだとか何とかで……もしかすれば、今回の暴走もOVFMが関係しているのかもしれないな」
『その可能性はアテも考えてたよ。
けどさお姉さん、もし仮にそうだとしたらアテ、一つだけメチャクチャ不安なことがあるんだけど』
「とは?」
『や、そのさあ……無事で済むかな、アテら』
「……人事を尽くす他ないんじゃないかな」
というか、このシステム管理してる君がそういう事言うのはどうなんだ。
などと指摘すれば、物凄く申し訳なさそうに謝られた。
少しの間、空気が若干気まずく淀む。
然しそれもつかの間のことで、程なくしていつもの調子を取り戻した僕らは、清木場君を救うべく疑似的に再現された精神世界を進むのだった。
「別にあんな真剣に謝ってくれなくても良かったんだがな」
『本気で申し訳ないと思っちゃったんだよ』
かくして創太郎を救うべく彼の精神領域に入り込んだ譲と金田。
然し正体不明、かつ肉体をも変異させるほどの狂気に囚われた創太郎の内面は、
二人の予想を遥かに越える人外魔境、地獄魔界と化していた。
果たして二人は無事創太郎を救い出すことができるのか!?
次回、
『常木先生は変態の癖に有能で妙にいい人なので何か面倒です』五十時限目!
ご期待下さい!
金田『いやこの流れでボケ無しかーい!』
譲「真面目に予告するなら最初からしろっ!」