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三十七時限目「卑しい外道が率いたものの正体、そして思いがけない結末について」

お待たせしました。

タイトル通りコリンズの呼び出したあれの正体を言及しつつ戦いは思いがけない形で終結します。

「ふんっ」


 かくしてコリンズの配下達を全滅させた私は奴の眼前に降り立ち、敢えて変身を解除し奴を追い詰める。



「追い詰めたぞコリンズ。あとはお前だけだ」

「く、くそっ……まさか、まさか、こんなことが……有り得ん、有り得んぞぉ……」

「不平不満を言いたくば好きにしろ。どうだろうと結果は変わらん、お前の末路は結局一つだ。

 彼女らに打倒され、敗北し、殺される。お前にできるのはただその運命を受け入れ惨めに死ぬことだけだ」

「……は……ぁあ……ふ……ふフ……ふっ、っくくく……くくくくく……」

「……どうした。余りの絶望に気でも狂ったか」

「くっくっくっくっく……気が狂った、だと? 違う……違うなあ……それは違うぞ……僕が笑ってるのはな、お前達を完膚なきまでに叩きのめす準備が図らずも整ったからさ……」

「何だと?」

 ふと見れば、奴の手にはあのいびつな形の物体が握られていた。

 しかも嘗てアクリルガッシュにあるような青だった全体が、汚染され切ったヘドロの如き漆黒へと変色している。

 これは不味い、何かされる前に殺さなければ――私は咄嗟に義手から刀を展開し奴を切り殺そうとするが、それより早く奴はいびつな黒い物体を身体に突き立てる。


「覚悟しろよ凡俗の塵屑ども、今こそ僕が頂点に立つときだ!

 僕とお前らでは圧倒的な差があるのだということを徹底的に思い知らせてやる!


 ……っ、ぐ……あ、お……ぅう……っ……あ゛あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!


 く゛る゛! こ゛れ゛だ゛! こ゛れ゛が゛、ち゛か゛ら゛だ゛!


 み゛ち゛あ゛ふ゛れ゛る゛ぞ゛お゛お゛お゛お゛お゛っ゛!】


 突き立てられた物体はコリンズの胴体へ吸い込まれていき、恐らく体内で奴自身と何らかの反応を起こしたのだろう。その肉体は驚くべきスピードで膨張し、遂には自然の生物でない何かに変異し始める。

『ホークスさん、危険です! ここは一旦撤退を!』

「ああわかった。丁度私もそうしようと思っていた所だ」

 私達は一先ず身を退き体制を立て直す。


「さて内田、一体あれは何なんだ。コリンズが配下どもと同質の存在と化した、という認識でいいのか?」

『はい、大体それで合ってます。そもそもあの怪物たち元々は僕らの"タイトル"、つまり原型になった作品の「サファリフレンド」に登場する敵モンスター「エゴレス」を元に偶然誕生してしまった予定外の不純物――「キャンサー・セル・マルファンクション」、略称CCMと呼ばれるものなんです』

「成る程、つまりゲームソフトのバグやコンピュータウイルスと言った所か。或いは名前通り、ドライバーの内部に潜む癌細胞……」

『そうですね。しかも不純物だからと言って不用意に手を出せば本来必要なプログラムも傷付けてしまうので取り除くこともできず、結果的に表へ出て悪さができないように抑え込むことしかできませんでした。

 あのいびつな形をしたNETAカートリッジのできそこないのような物体は「CCMシーラー」と言って、CCMを内側に封じ込めて動きを抑制する役割を持つものなんですが……』

「それ故やりようによっては内部に封印されたCCMを実体化させ使役することも可能、ということか」

『はい、本来は実体さえなく外部からの手出しもできないように製造されていた筈なんですが……あの人はドライバーやカートリッジを自分に都合がいいように魔術で歪めた時、CCMシーラーも実体化させていました。彼曰く「お前たち正規プログラムが使い物にならなくなった時の保険だ」との事で……。

 それに気付いた僕らはCCMの危険性を熟知していましたから当然彼を説得しました。何せ彼に頼らなきゃいけないほど僕らが追い詰められてしまったそもそもの元凶が、あのCCMと同じような有害プログラムだったんですから。けれど当然彼がまともに話を聞くはずもなく、お世辞やおだてで辛うじて納得させるのが精一杯でした。

 正直あの時もっと頑張っていればこんなことにはならなかったのにな、そもそもあそこであんな人に頼ってまで生き延びる必要があったのかなって、今でも後悔してますよ』

「そうか……いや然し君らはよくやった。少なくとも私はそう思うぞ。活路に縋ることは少なくともその時点では英断だ。それが予想外の結果を招いたとして、だからと言って過去の『生きたい』という思いまで否定するのは誤りだろう。

 過去は過去、幾ら悔もうと結局割り切るしかない。重要なのはそこから学び、如何に思案し努力していくかという事だ。故に聞こう、奴らへの勝算は?」

『そうですね……原型が「撃破されるべき敵モンスター」であること、ゲーム版「サファリフレンド」の難易度はそこまで高いわけでもなかったこと、ホークスさんの戦闘センスやこれまでの戦歴等から考えるに、かなり高いと言えるでしょう。

 ホークスさんなら勝てる――僕はそう思います』

「有り難う、内田。だが一つ言わせてくれ」

『何です?』

「君は『私なら奴に勝てる』と言ったが……それは所謂的外れな発言というヤツだ。

 君が、というか君らが私をどんな女だと思っているのかは知らんがね、私はさほど強くなどないよ。私はあくまでただ飾り立てただけの人間だ。まだ飾りを増やせばわからんでもないが、このまま一人で奴と戦えば間違いなく惨敗するだろう」

『そ、そんな……けどでも、貴女は……』

「だが、君らと一緒なら話は別だ」

『……え?』

「君らの協力が得られたなら、私は奴と戦い、勝つことができるだろう。

 だから頼む、私に力を貸してくれ。或いは力を貸すとしても『私が君らを使って戦う』なんて認識は止してくれ。

 力を授け共に戦場へ赴くのなら、君らもまた私と同じ『戦う者』だと、そう思っていて欲しい……身勝手な考えの押しつけかもしれんがね」

『あ……い、いえ、身勝手な押し付けだなんてそんな……はい、わかりました。

 では訂正して……「ホークスさんと僕らなら勝てる」と、確信しました』

「よし、いい答えを有り難う。では共に戦うとしようか」


 ふと見れば、コリンズは既に人間の原型を留めていない黒い塊と化していた。変異の途中であるらしいそれは未だ不気味に脈打っており、早急に仕留めねば取り返しのつかない事になるのは火を見るよりも明らかだった。


「往生際の悪い男めが。今すぐ楽にしてやろう……変身」


 かくして私はカートリッジを選び変身する。


『カモンフレーンズ! スポッティ・ジャンパー! レッツエンジョイ・ハンティーング!』


 選んだのは最初に変身したフォームである『スポッティ・ジャンパー』だった。他に選択肢はあったとも思うのだが、何だかんだで一番安定したフォームがこれであり、また最初に戦った時は不慣れだったこともあり満足のいく戦い方ができたとは思えなかった。だから有終の美を飾る意味でも、彼女と再び戦場に立ちたいと思った。


 私達が変身を終えたのと同時に、コリンズの変異も完了したようだった。

 端的に言えば、闇のように黒い巨大な寒天数本をドーム状に束ねたような形をしていた。花弁を裏返したようだとか、傘の骨だとか、或いはクラゲやヒトデだとか、そういう比喩もできるだろう。

 コリンズの配下達――CCM、或いはそれらの原型たるエゴレスとでも言うべきか――に共通していた目玉のようなものは裏面の中央に備わっており、そのことからクラゲ或いはヒトデというのが特に妥当な例えとも思える。

 途轍もなく巨大でどこまでも人工物めいた外見のそれに生物的な特徴は見られず、故にどこで発声しているのかなど検討もつかないが、敗れ去ったCCMどもと同じか、或いはより聞くに堪えない意味不明な金切声を上げ続けている。

 その様子を見るに、最早奴自身の自我は消滅しているのかもしれない。


「……想像以上のサイズだな。これは私とセルヴァの二人では荷が重いか……」

 冗談めかして軽く言いつつ、私はセルヴァと相談しながら追加のカートリッジを挿入する。


「どれ、適当に叩きのめして終わらせるか」


 若干声色の違う『ツイカモン!』の音声と共に召喚されるのは、武器や防具といった装備品の類。何れも何らかの動物に由来する形態や特性を持つそれらの一つ一つにも担当のスピリットアニマルが存在し、彼女らの誰もがコリンズに対し激しい憎悪や怨恨を募らせていた。


 巨大な怪物と化したコリンズの攻撃は単純ながら凄まじく、また肉体そのもの寒天のような見た目に反してかなり頑丈であった。

 然しスピリットアニマルたちの協力で豊富な武装――オリックスやヘラジカの角を模した槍、背に備わって飛行能力を授ける鳥の翼、アルマジロやサイの外皮に着想を得た強固な装甲等――を得た私も等身大にして奴と対等に渡り合うだけの力を得るに至っており、戦いは五分と言えた。

 やがて戦況は私の方へ傾いていき、遂にコリンズを追い詰めることに成功する。


「思いの外時間がかかってしまったが、これで最後だ。行くぞセルヴァ」

『うん! 一緒にあいつをやっつけて、この戦いを終わらせよう!』

 セルヴァと息を合わせ、私はパロディドライバーにコマンドを入力する。


『フレンドヒッサツ! ハンティングクロー・スーパーラッシュ!』


 初変身の際には聞くことのできなかった音声を合図に、私は地を蹴りコリンズ目掛けて突進する。

【ゥ、グギ……ア、ギャィイイッ!】

 危機を悟ったコリンズは弱った巨体をどうにか持ち上げ抵抗を試みているらしかったが、既に脚の過半数を失い満足に立ち上がることさえできないのだから無駄な足掻きというものだ。

 一方弾丸の如く奴へ迫る私は空中で振りかぶりながら両腕へ意識を集中させ、手甲鉤型の武装――正式名称をハンティングサバンナクローと言う――へ虹色に光り輝くエネルギーを纏わせる。

 そしてその輝く爪をコリンズの黒く濁った体表に深々と突き立て、外皮と皮下組織を容赦なく一心不乱に、渾身の力を込めて切り裂く。


【ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!】


 余程凄まじい痛みが走ったのだろう、コリンズは全身を震わせながら悲鳴を上げる。

 だがそれでも、まだ私の攻撃は止まらない。

 何せこの技は『連撃ラッシュ』だ。一発斬り付けただけで終わるわけがない。

 私は何度も爪を突き刺し、何度もコリンズの皮を切り裂き、何度もコリンズの肉を抉り、奴の命を確実に奪っていく。

 爪が突き刺さる度に、皮が切り裂かれる度に、肉が抉られる度に、コリンズは悲鳴を上げる。

 その声量は最初こそ凄まじいものだったが、傷が深くなるにつれ徐々に弱く、か細くなっていき、遂にはピクリとも動かなくなり、その体組織は黒いヘドロのように溶け始める。



 それは即ち、ジョン・コリンズという男の絶命を意味していた――筈だった。


 だが実際、コリンズは生きていた。黒い怪物の残骸が溶けきって尚、奴自身は存命していたのだ。

 それも瀕死の重体などではなく、それなりに疲弊しつつも無傷だったというのだから余計質が悪い。


「ぶっ、くふ……ふははは……ふははははははははぁ! 残念だったな愚物ども! お前らじゃ僕は殺せない! 嘗ての僕ならいざ知らず、今の僕がお前ら如きに負ける筈がない!」

 怪物の残骸である黒い粘液に塗れながら、コリンズは大声で此方を嘲りにかかる。

「おお? 『どういうことだ』とでも言いたげだな? まあそう焦るなよ、問われるまでもなく教えてやるからさぁ!

 そもそも僕の配下は元々パロディドライバー内に封印されていた"不具合"を独立させ、実体のある使い魔として使役できるようにしたものだ。その"不具合"の更に大本は、カートリッジの原型になったゲームの敵キャラクター……つまりゲームの一部分。

 故にドライバーとの根幹的な繋がりは決して切り離せないほど強固なもので、実質的に双方は表裏一体と言っていい。仮にその状態が継続されていたなら、そこのアホ女が小さな配下一匹を潰しただけでカートリッジ一つに入っているデータの凡そ三分の一が破損するほどのダメージが及ぶ計算になる。

 ならば何故今まで無事で居られたのか? それは僕の力があったからに他ならない。僕が魔術によって表裏一体であるお互いを引き離し独立させていたからこそ、今までの戦いは成立したというわけだ。

 ならその調子で双方をより引き離していれば、或いはカートリッジに傷一つつけず僕の配下を全滅させられたのではないか……なんてことを思っているんだろうが、それは不可能だ。

 線は線、どれだけ引き延ばして細くしていこうと――例え肉眼で見えないほどの太さになろうと――線は途絶えず、消滅もしない。どんなに離れたって、繋がったものは結局繋がったままなんだよ。つまりどれだけダメージを与えようと、僕の配下は決して死なないし、どんなに傷付いても何れ再生する……お前達がどんな大技を使っても、絶対に不可能だ。


 するとお前らはきっと、配下を狙わず僕だけをただ殺せば、少なくとも僕だけはどうにかできる……そう思うんだろうが、さっき言ったろう? 『嘗ての僕ならばいざ知らず、今の僕がお前らに負けるはずはない』と。

 これはさっきより簡単な、至極単純な話さ。


 僕は配下たちと一つになった。

 僕と彼らに境はなく、事実上は同じものであり、つまり僕もまたお前らに殺されることはない。

 或いはお前らが自分達を犠牲にしてでも僕らを殺すというのなら話は別だが……お前ら如きにそんな根性がある筈もない。


 つまりお前らに残された選択肢は敗北のみ。

 虚しいバッドエンドへ直行というわけd――



『いいえ、それは違います』


 芝居臭く長々と続いたコリンズの台詞を遮ったのは、淡々とした内田の一言だった。


「……何? おい、それはどういう意味だ?」

『そのままの意味ですよ。貴方の発言は確かに正しい。けれど僅かな間違いや見落としの一つもない完璧な正解ではありません

 確かにCCMは僕らの犠牲抜きじゃ殺せないし、僕らは今の貴方如きを止める為なんかに彼女一人を残して集団自殺するつもりもありません。

 CCMと一つになり、外界からの干渉を許されない魔術空間の中にいる貴方はまさに無敵と言えるでしょう。けれど、その選択が今度は貴方を苦しめます』

 内田の言葉を合図に、コリンズの背後で溶けた怪物の残骸が蠢き始める。蠢く残骸はやがて一つの塊と化し、塊は瞬く間に新たなる怪物の姿を得て――




――事もあろうに同族である筈のコリンズへ食らい付き、そのまま貪り喰らわんとする。



「っぐ、ぁがぁぁああっ! ど、どういうことだ!? 僕はCCMと一つになった筈! 以前のように使役していた状態なら不意に反逆されてもまだわかるが、同族となった今何故僕を襲うっ!?」

『CCMと一つになり、同族となったからですよ』

 もがき苦しむコリンズに、内田はただ冷淡に言葉を浴びせる。

『CCM……キャンサー・セル・マルファンクションとは、まさに癌細胞と呼ぶに相応しい存在です。

 そもそも癌細胞とは、正常な細胞が何らかの要因で変異することで生じたものです。ある科学ライターは自著で「人体という都市に巣食う犯罪組織」と称していましたね。悪の道に走り、かつての同胞だった健全な市民を害し肥え太る犯罪者の集まり……CCMも基本的には同じです。ただ、犯罪組織にも一応の秩序があるのに対し、CCMには本来それがありません。空腹を感じれば自分の同胞だって平然と餌にしようとします。

 先程までは貴方という「自分達とは別物で明らかに格上の指導者」が居て、何の消耗もしていない満腹状態だったので辛うじて何ともありませんでしたが……一時的に一つの形を維持できなくなるほど傷付いて消耗し、更に貴方が「自分達と同じ存在」になったのなら……彼らにとって貴方は「餌」でしかありません』

「な、何っ……そ、そんな……そんなバカなぁぁぁぁぁ!

 あっ、が、ぐぎ――や、やめろ! 食うな、僕は餌じゃない!」

『もっと言えば、文字通り僕らが健在ならCCMは永遠に生き続ける……貴方は死ぬこともできず、永遠に食い食われの生き地獄を味わうことになるでしょう……』

「おい、待て、お前ら待てっ、主人の顔を忘れたっていうのか!?」

『無駄ですよ。CCMに元々まともな知能なんてないんです。自分以外は敵か餌、まして人間の顔を覚えて見分けるなんてこと……あるはずない』

 複数の怪物に食らい付かれたコリンズは、逃れようともがき泣き叫ぶ。

 だが怪物どもがその言葉を理解する筈もなく、奴の身体へ怪物の牙が食い込んでいき……



「く、くそ、どうして、こんな――こと、が――


 ぎい__い、ぐげ っがぁ



 どう――して、こ__う、な、っ、た゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!」



 コリンズの身体は怪物どもによって一斉に食いちぎられ、そして奴は――少なくともネバーランド幹部の魔術師ジョン・コリンズという男は――確かに絶命し、その生涯に幕を下ろした。


「そのままバカのように死に続けていろ、お前ではそれが精一杯だ」


 かくしてコリンズを退けた私達は、主を失い崩壊しつつある異空間の裂け目から現実世界へ脱出する。


 まだ敵はいるかもしれないが、一先ずこれで一件落着だ。あとは一先ず先生方と合流しなければ。


次回、清木場創太郎が女性のみで構成された「マーメイド隊」に挑む!

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