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一時限目「西暦2030年以後の地球と主役二人について」

そんなわけで新連載。どんだけ続くかわからんが皆さんお付き合い頂ければこれ幸いってもんである。

「というわけだから、西暦2030年頃までこの世界は今ほど混沌としてもいなかったわけだ。勿論、猛獣や疫病、天災といったものは当時から存在していたし、ヒトというものの根本も変わっちゃいないがね」


 昼前の教室で粗方板書を終えた僕は、授業に集中してくれている生徒達にその内容を説明する。


「だが翌年以後、世界各地で相次いである出来事が起こり始める。その出来事とはどのようなもので、最初に確認された日時と土地はどこか……門藤君、説明できるかな?」

「はい、隕石落下です。日時は西暦2031年9月25日、場所は広島県福山市」

「正解だ。当時、その大きさや外観の奇異さも相俟って日本各地で隕石ブームが巻き起こった。隕石の落下はその後も世界各地で相次ぎ、隕石がどこにも落ちなかった日はないと言われる程の日々が13年も続いた。

更にはその隕石が何れも地球上では希少とされる鉱物資源を高純度で内包していたことも話題になった。ともすれば当然一攫千金を目論む隕石ハンターも多く現れたし、世界経済もこれまでにない潤いを見せた。人々はこれを隕石バブルとかメテオラッシュと呼んだわけだ」

「隕石バブル関係の言葉は何度も流行語大賞に選ばれてましたよね」

「そうだ、よく知ってるな安藤君。そして隕石騒ぎの沈静化した頃、インターネットにアップロードされたある写真が話題となる。その写真に映っていたのは……佐嶋君」

「はい、木の幹にできた黒い影のようなものです」

「正解。そう、影だ。長さ30cmの紡錘形をした真っ黒い影のようなもの。

……太陽光の届かない日影だったにもかかわらず夜の闇を更に深く暗くしたような底知れないそれを見た当時の人々は『見ているだけで吸い込まれそう』『得体の知れない不気味さと恐ろしさがある』と語った。

そして誰が最初に言ったかは定かでないが、影はその形に因みある時から裂け目と呼ばれ始める。

裂け目は世界各地で確認されるようになり、更にその出現場所が隕石の落下位置と重なっていることもあってか騒動が大きくなるのにそう時間はかからなかった……」


 講義とか授業とは名ばかりなほど芝居がかった僕の話を、生徒達は真面目に聞いてくれている。例え見えていなくても、そういう視線や態度は気配として伝わってくるものだ。


「だがそれはまだ現代いまに至る壮大な物語の序章に過ぎなかった。

やがて各国は様々な分野の専門家を集めて調査を敢行、裂け目と呼ばれるものが確かにどこかへ通じている可能性が高いため、向こう側に潜む有害物の地球侵入を防ぐべく全ての裂け目は塞がれねばならないとの結論を出す。

そして裂け目の閉塞作戦は開始されたが……予想外の事態により失敗に終わった。

その事態こそ、裂け目がどこかへ通じていることが判明して以来懸念されていた『裂け目の向こう側に存在する有害物』の出現だ。

それらの多くはそれまで地球上に存在した生物と似た特徴を持っていたが、然しまるっきり同じ存在ではなく、例えるならその頃まで単なる空想とされていたもの――所謂幻獣のような姿をしていた」


 例えば手足が四本なのに背中に翼があるだとか、本来尾が生えるべき位置から蛇が生えていたり、身体の構造から考えると有り得ない巨体を誇るというようなものだ。


「風貌に違わずそれまで存在した如何なる猛獣をも越える獰猛な捕食者であったそれらを前にした人類は一方的に狩られる他なく、更に未知なる病原体の出現もあって人類は減少の一途を辿り、2030年代には90億人程だった地球の総人口が西暦2050年にもなると七分の一以下の11億人にまで減少した。このままでは人類絶滅も時間の問題という時、救いの手は差し伸べられた……それが」


 僕は黒板にサッとある言葉を書き読み上げる。


「"求光者"の出現だ。読んで字の如く、光を求め暗闇を進む者――現れ自らそう名乗る彼等は、ある時何の前触れもなく世界各地の裂け目から現れ人知を越えた力で有害物を撃滅していった。

絶滅の危機にあった人類は求光者によって救われ、その恩赦として人類は故郷を失ったという求光者を対等なる隣人として受け入れた。二つの勢力は互いを補いながら崩壊していた人類文明を再生させるとともに発展させていく。

とは言えそう都合のいいことばかりでもなく、価値観や思想のすれ違いから様々な問題が起こった。大規模な戦争の数も一度や二度ではなかった。だが両勢力はそれら数多の障害をも乗り越え、互いを同じ地球人類として認めあうまでに絆を深め今に至るというわけだ。

まあ未だ細かな軋轢や小競り合いは絶えないが、総人口のほぼ全てが在来地球人類と求光者の混血児で占められるとも言われ、混血児でない者を探すことが殆ど不可能と言われるこの時代に、やれ在来地球人類だからどうだの求光者だからこうだのと目くじら立てて騒ぐのは正直馬鹿げてると、僕は思うよ。

あくまで僕個人の主観に基づく私的な考えに過ぎんがね」


 一通り話し終えた僕は、それなりに気に入っている少し長めの尻尾をくねらせながら壁の時計を確認する。


「ん、もうこんな時間か……やはり僕一人で喋り過ぎたかな。では諸君、すまんが今回はここまでとさせて欲しい。僕自身別段急ぎはしないんだが、この残り時間では大したこともできそうにないのでね。委員長、号令を頼む」

「起立、礼」

「「「「「『『『有り難うございました』』』」」」」」

「はい、此方こそ有り難う。次回からは今回説明した歴史の内西暦2030年代の隕石バブル期について詳しく学んでいくので余裕があるようなら予習してくるといいぞ。あと他のクラスは大方まだ授業中だろうから予鈴チャイムが鳴るまで教室の外に出たり騒いだりしないように」


 生徒達に必要事項を伝えた僕は次の授業の準備の為、社会科準備室を目指し廊下を進む。殆ど誰も居ない僕だけの廊下は想像以上に静まり返っていて、目や耳はおろか髭にさえさしたる反応はない。


 さて、社会科準備室に辿り着くまでわりと時間もあることなので、この辺りで自己紹介をさせて頂く。

 僕の名は常木譲つねきゆずる。多少変わり者でこそあれまあそれなりにありふれた、しがない社会科教師だ。

 挿絵も音声もない媒体でこんな喋りなものだから誤解もされそうだが、これでも性別は女だ。

 周囲からはしばしば容姿端麗でスタイル抜群と言われ、自分で言うのはどうかと思うがまあそれなりに自覚もしているつもりだ。身長174cm、体重65kg、スリーサイズは上から98、60、87。BMIは凡そ21、バストカップサイズはHだったか。

 どうでもいい情報だって? まあそうだろうな。

 ところでここまで読んだ読者諸君の内には、僕が女だと知って少し違和感を覚えた者もいるだろう。具体的には髭がどうこうというくだりで。また更には、尻尾があるという描写も人によっては妙に感じることだろう。

 ……今どこかから『作者が某大陸の芸人上がりな腐れ不動産屋ばりに頭おかしくて性格悪いのを承知で読んでんだからにそんな些細なこと今更気にしねえよ』とか聞こえたが気にせず説明させて貰おう。

 多くの読者諸君は髭だの尻尾だのという記述から僕が人間ではないことを確信しつつあると思うがまさにその通り、正解だ。

 ただこの世界では僕も一応人間と定義されるので『諸君の思い浮かべるような(或いは諸君と同じ種族の)人間ではない』という表現の方が適切か。では僕はどういった存在なのか、いい加減勿体振ってないで説明しよう。

 単刀直入に言えば、僕という奴は所謂"猫獣人"とでも言うべき種族に属している。

 つまり猫の特徴を持った類人生物種ヒューマノイドって奴だ。それもヒトの体に猫の耳や尻尾を生やしただけとか、もしくはそれに多少毛皮を足しただけなんてもんじゃなく、寧ろ獣の成分はそれなりに多めだ。

 毛の長さで言えば短毛にあたり、頭や尾を含む身体の背中側は黒く、顎の下或いは喉元から股間にかけての腹側は対称的に白い。

 瞳は鈍い黄金色とも濃い山吹色とも若干明るめのオレンジ色とも言える黄色系。

 獣寄りとは言っても頭髪はあり、色は黒に近めのグレー、後ろ髪は背に少しかかるくらいの長さ、寝癖を直す以外で特に弄っちゃいないが前髪は一般的にシャギーと呼ばれるような髪型らしい。


 さて、少し喋りすぎてしまったかな。どうにも説明をすると無駄に長くなりがちなこの癖は未だどうにもならんなあ。まあいいや、丁度社会科準備室に到着ついた所だ。次の授業の準備でもしながらくつろぐとしよう。


「とは言うものの、次の授業も内容は殆ど同じだから準備らしい準備なんて思い付かないんだが……」

 上着を脱いだ僕は椅子に腰掛け、シャツのボタンを外す。全くスーツという奴はシンプルな癖に洒落ているので好きは好きなんだが如何せん熱が籠りやすくて窮屈なのが頂けん。

(本当はこのタイトスカートも脱いでしまいたいんだが……着替えを用意できてない以上そういうわけにもいかん)

 担当教員以外の出入りが殆どない各教科の準備室だが、だからと言って気心の知れた身内以外の誰もが入ってこないとは言い切れない。

 なら安易にふしだらな格好はすべきじゃない、なんて当たり前のことを思いながら愛用のノートパソコンを立ち上げようとした、その時。

「へぁー、メエったったー。まさかあそこで袖が引っ掛かったまま破れねえとは……」

 社会科準備室の戸が開き、角とたてがみを生やした爬虫類めいた風貌の男が気だるげな様子で入ってきた。

「やあ清木場君、お疲れのようだね」

「ああ、常木先生。そちらこそお疲れ様です」


 一礼して隣の椅子に腰掛けるこの男の名は清木場創太郎きよきばそうたろう。僕の仕事仲間にして相方、家族にして恋人でもある男前だ。

風貌について『角と鬣を生やした爬虫類』と言い表したが正確な種族は竜人ドラゴニュート、即ち翼を持たないドラゴンの類人生物種である。

 身長214cmの体重104kg(BMIは凡そ22)。

 俗に細マッチョなどと呼ばれるであろうしなやかで逞しく妖艶な体つき。

 それを引き立てる低く落ち着いた声。

 鬣の如くオールバックに整えられたシルバーグレーの髪。

 険しく美しい顔立ち。

 鋭くも色気のある、そして眼鏡によってそれらがより増幅されている目付き。

 深緑色の鱗は頑丈で腹を覆う弾力性のある薄い黄土色の皮膚はとても触り心地がいい。

 序でに言うならそのイケメンかつセクシー過ぎる外見と声に違わず性的な資質や才能も極上のもの。

 しかもそれでいて僕に一途で人格者だというのだから、全くもってたまらないというわけだ。


「ところで清木場君」

「何です」

「君、今夜何か予定は」

「夜は特にありませんかねぇ。まだ授業もそんな準備必要でもねえし」

「そうか、それは好都合だ。どうだろう、今夜は久々に外食でもしないか。駅前のうどん屋が大型種族向けの新メニューを出すそうなんだが」

「ほお、いいですねぇ。行きましょう」

「よし、では決まりだな」

 外食の約束をした僕らはその後、二人で他愛もない話をしたり、軽く仕事の準備をしたりして適当に過ごした。俗に言う、何ら変わりのない平穏で平凡な日常と言う奴だろうか。

 しばしばつまらなく無意味と言われるが、個人的にはそういった変わりのない平穏で平凡な日常こそ尊いのだと思う。

 もし叶うのなら、こんな日々が永遠に続けばいいとさえ思う。というか、わざわざ思うまでもなく永遠に続くだろう――そう思っていた。

 ましてこれから先、想像を絶するような数多くの出来事が待ち受けていようなんてこと、夢にも思っちゃいなかったのだ。

次回、早くも学園で妙な騒ぎの予感

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