叶野寧々子のノート一
絹を待つ間に誰か男の人が話していた。
「生まれ変わるなら何になりたい?」「カマキリ。オス」「マジかよ。交尾終わったらメスに喰われるんだろ。バカか」「そっちこそアホか。SEX終わって、メスの養分になって死ねるとか、どんだけ幸せだよ」「うわぁ。引く」
くだらない。私には子供を作る嬉しさなんか一生分からないだろうし、分かりたくも無い。子供が可愛いのは認めるけど。
それよりも「生まれ変わり」の方が気になったので、少しメモを取ろうと思った。
生まれ変わり。別のものに姿を変えて再び生まれてくること。転生。
そんなものが在るの、無いのと意見が分かれることだろう。認識できないものは無い?認識できるから在る? 認識できなくても在る?
私としては無いに一票を投じる。そう信じる、というよりは単なる希望だ。誰だって死ぬのは怖い。自分が無くなってしまうのは怖い。だから、今の後にもう一回、があると思えたらそれは慰めになるのかもしれない。
でも、憶えてなかったら意味無くない?
私は前世なんて覚えてないんだから、在っても無くてもおんなじ。仮に、前世の事を覚えたまま生まれてきたなら……。
それは、死ぬよりもっと怖い。
お父さんもお母さんもお姉ちゃんも友達も、大好きな人たちをみんな今生に置いて、たった独りでまた生まれるんだ。知らない人に囲まれてもう一回、大好きな人たちを作って。また離れて。また独り生まれる。
それとも、次もお父さんはお父さんなの? お母さんは? お姉ちゃんは? 友達は?
みんなも私の事を覚えていてくれるならいいけど、私だけ覚えていたら?
それはどんなに孤独だろう。
何回も、何回も、繰り返す度に孤独になる。だから生まれ変わりなんて無い方がいいと思うんだ。