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喪失者の道中  作者: 法相
一章=少女との出会い=
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一章-7 終結?

 それから十分は経っただろうか、彼女はようやく落ち着きを取り戻した。

「すいません、アギトさん。ご迷惑をおかけしました」

「気にすることはないよ。俺が油断したせいで怖い思いをさせちゃったからね」

「それでも、です。ボクがあんなのに捕まったりしなければ……」

「それこそ無理だったと思うよ。帰り際に悪魔憑きに出くわすなんて普通は思わないし」

 普通の少女である華音ちゃんと悪魔憑きである影山では身体能力のスペックにも天と地ほどの差があるわけなのだし、逃げ切ることはどうあがいてもかなわなかったろう。

 しかし、これで一つ俺にもわかったことがある。

「華音ちゃん、さっきまでの動きを見てわかったと思うけど、十中八九俺は悪魔憑きだ」

 でなければ影山を倒せた説明がつかない。

 まず、先ほども思った通り悪魔憑きと人間ではスペックの差に開きがありすぎること。今回華音ちゃんの攻撃でアイツが怯んだのは思いがけない反抗だったからにすぎない。ダメージは数字に換算すると1にも満たないだろう。

 だが俺の攻撃は明らかに1をはるかに超えるダメージをたたき出した。今、気絶している影山の様子を見たら一目瞭然だ。

 おそらく今は平気な状態でも、時間をおけば彼女も俺に恐怖を持つことに違いない。

「別に、アギトさんなら怖くないですよ」

 そんな俺の心の声を察したのだろうか、彼女はそう言った。

「だってアギトさんはボクを助けてくれたじゃないですか。それは変えようのない現実です」

「……でも、記憶が戻ったら残虐非道の極悪人かもしれないぞ?」

「いいんじゃないですか? 少なくとも今は違うんですから」

「ありがとう」

 そっと無意識に頭をなでる。

「あぅ」

「あ、ごめん」

「い、いえ。別にこうされるのは嫌いじゃないですし……」

「え。何? よく頭をなでられるの?」

「あ、そうではなくて、その、アギトさんに頭なでられるのが、です」

「そ、そうなんだ……」

 頭をなでるのは初めてなんだが、それで印象が良かったのは幸いだ。とっさにやってしまったが、これで機嫌を損ねられていたらセクハラで訴えられて警察に連行されてしまうところだった。

 ……さすがに助けた少女にこれでセクハラで訴えられたらショックで一年間は立ち直れないな。そんなことはなかったからよかったけど。

「でも華音ちゃん、俺が悪魔憑きってことは秘密にしてくれないか?」

「もちろんです。世間の風当たりも強いですしね」

「そういうこと。まぁでも」

 もう一度影山を見る。悪魔憑きでなくともあのような輩はいる。今回は大きな力を持った悪魔憑きがそれを利用して凶行に及んだというわけだ。力を持ったものが犯行を行えばそれだけ風当たりが強いというもの。まったくいい迷惑である。

 俺も記憶が戻ったらどんな人格かは知らないが、コイツのような性格ではないことを祈りたい。

「と、それよりも華音ちゃん」

「はい、なんでしょうか?」

「今は抱きついてるからいいけど、俺の上着かすから」

「……あ」

 そう言われ彼女も今の自分の服装を思い出したのだろう。ボッと音が出そうなくらい顔が赤くなった。基本的に表情が変わらない娘だと思っていたけど、こういう羞恥心は人並みにあるらしい。思わず「可愛いな」と口に出してしまった。

 彼女胸に顔を埋めながら小さく「ばか」と呟いた。どういう意味でバカと言われたのだろうか、俺にはわからない。

 だけどもこれで一つ、事件のカタはついたわけだ。後は警察に電話をしてこの場所を通報して終わりだ。華音ちゃんに携帯電話があるかを聞き、持っているようなので携帯電話を借りる。

 いつでも変わらない110番を押して数コール鳴った後に受付が出る。

「あ、スミマセン。実は……」

 詳しくこの地点の情報を説明し、一方的に通話を切る。これ以上厄介事に巻き込まれるのはゴメンだし、気絶した悪魔憑きがいるという説明もした。これで話は管理局まで伝わり、来ないわけにはいかないだろう。これも匿名の通報ってヤツだろう。きっとそうだ、そうにちがいない。

 そして俺は上着を脱いで華音ちゃんに渡し、背を向ける。

 基本、女性の着替えを除いてはいけない。

 衣擦れの音が聞こえ、着替えが進んでいることが把握できる。しかし、まぁなんだ……見えない方が妙に想像をかき立てられるというか、気恥ずかしいものがある。おそらくそれは向こうも同じなのだろうと考えておこう。

「あの、着替えました」

 声が聞こえ振り向けば俺の病院着を着込んでいる華音ちゃんがいた。サイズは俺が着ていたものなので大きめだが、それでも妙に似合っている印象を与える。儚げな華のような、そんな感じだ。病院で入院しているといってもなんら不可思議なことはないだろう。もっとも、彼女の身体は健康体そのものなのだからこの想像は見当違いもいいところだ。

「それじゃ、行こうか。とりあえずは事情を病院に説明しなきゃな」

「ボクも家には帰りたくないので、ついていきます」

「いいのか? なんなら家まで送っても……」

「大丈夫です。この事件に巻き込まれたことを病院で説明して精神に異常をきたしていないかを検査するから泊まる、ということを連絡しますから」

「そ、そうか」

「なんなら入院したいくらいですけど」

 ふぅ、とため息を吐く。この娘、どうやら家が嫌いなようである。

 まぁしかたない、良識としてはどうかと思うが一人にさせるのはもっといけないことだ。

「わかった、じゃあ一緒に病院に行こうか」

「はい!」

 返事をした彼女の笑顔は、心なしか嬉しそうだった。


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