5章−16(最終回)
だから、その事実を認識するためにも、そう言って彼女は力強く一歩を踏み出した。
中に入ると、倒壊していたせいか足場が悪くなってる。
華音ちゃん先導の元、リビングの扉にまで歩みを進める。
けれど、この先を本当に華音ちゃんに見せていいものだろうか?
「アギトさん、心配しないでください」
俺に心配をかけさせまいと、彼女は微笑む。
「でもどうしても心配というなら、ボクの手を握ってください」
「わかったよ」
ギュっと俺の手を握り、そして俺たちは扉を開けた。
「……こりゃ、ひどい」
「……!」
父親の死体は無造作に転がされており、当然ながら首から上は存在しない。
よっぽどあの男の性格は悪いようだ。いや、わかってたけど。
華音ちゃんの生唾を飲み込む音が聞こえる。
「大丈夫?」
「だい、じょうぶです……!」
とはいうものの、彼女の顔には脂汗がにじんでおり、真っ青だった。
これだけですでに彼女が無理をしているのがわかる。
「……死体は俺が運び出しておく。華音ちゃん、頑張ったな」
「……」
手を離し、華音ちゃんに目を瞑っておくように言って父親を担ぎ出す。
そしてリビングから出て、地面を爆発させて穴をあけて死体をいれる。これからこの場所を出て行く以上、放置されるよりこの程度でも埋葬してやる方がいいだろう。
倫理的にはかなりの問題はあるけど、ないよりゃマシだ。
「……戻るか」
死体を埋めて、中に戻る。
ソファでは華音ちゃんがぐったりとした様子で座っている。
あんな生々しい身内の死体を見たばっかりならば、仕方がない。
俺は隣に座って、彼女の頭を撫でてやる。これで少しでも落ち着いてくれるならば、ありがたいんだが。
「……すいません、ありがとうございます」
「気にするな」
「無理です」
即答だった。
「すいませんけど、ボクはこういう人間です」
「そっか」
それなら、それでいい。
どうせこれから一緒に旅に出る仲なんだ。
「華音ちゃん」
「なんですか」
「これからさ、いろいろあると思うんだ」
「はい」
「俺のせいで、またなにか巻き込まれることはきっとある」
「わかってますよ」
「……でも、俺はきっと君のために戦うことを誓う。それがせめてもの俺が君にできることだから」
「信用していますよ」
「ありがとう。それじゃもう少ししたら、行こうか」
「はい。あ、それと」
ん? と彼女の顔に視線を向けた瞬間、唇に柔らかいものが触れた。
「……へ?」
「ボクの気持ちです。まだ子どもとしか思えないでしょうが、よろしくお願いしますね」
ニコリ、と……まだ青ざめているが、笑顔を浮かべる。
「……若い子の考えがわからん」
「いいんですよ、それで」
そういうものか、と答えて頰を緩める。
これから先、根本的に記憶もない俺が旅をするというのは問題が多数あるだろう。
それでも、彼女と行く旅路なら悪くないかもしれない。
「あらためてよろしくな、華音ちゃん」
「ええ、こちらこそお願いします」
二人で見つめ合い、笑った。
区切りはついたので、これにて完結とします。
最後の投稿から四年以上経ちながらこの短さなのは、未熟さ故です。