五章-15
「ここは……」
「ボクの家です、けど……これは」
病院からはなれて華音ちゃんとともに場所を移動したのだが、彼女の家はいくらか倒壊していた。痕跡には多量の砂が家の中に入っている。おそらくは砂上がやったのだろう。あの男の性格から察するに「華音さんを苦しめたこの家も苦い思い出があるから壊してしまおう」だろうか。
これは推測に過ぎないが事実なら事実で怖い。ある種一途な男には違いなかったが、ここまでくるとさらなる狂気を感じる。
「全部壊されていないのが幸いだな……通帳とかどこにあるかわかるか?」
「通帳はボクの分しかないでしょうね。父は自分の通帳はわからない場所に隠してましたし、死んだ以上通帳を見つけても引き出せませんし」
「暗証番号わかればよかったけどなぁ。さすがにわからんしなぁ」
さすがの俺でも一度も会ったことのない人間の暗証番号の傾向とかはわからん。まぁこれから旅に出る以上、俺がお金とかは出さないといけないんだろうけどあいにく全財産使い切ってしまったわけだし。
「大丈夫です。ボク、お金は小さい頃から貯めていましたから二人が一ヶ月生活するくらいのお金はあると思います」
「うん、この時点で俺は情けないけどな。年下の子にお金を出させざるをえない事態になるとは……」
「気にしないでください。命を助けてもらったんですからこれくらいは……さ、家に入りましょう」
倒壊してますけど、と力なく彼女は笑いながら家に入っていった。
「あ、待て。あの野郎が親父さんの頭から下の部分を残していないとも限らないから俺が先に行く」
「いえ、ボクが先に行きます。偽善だけど、自分に対してのごまかしですけど……父はボクのせいで死んだんです」
だから、その事実を認識するためにも、そう言って彼女は力強く一歩を踏み出した。