五章-14
「行った、かな」
二人が出て行ったのを確認して私はスポン、とベッドに座る。今日まで隊長が眠っていたこのベッドを、すごく愛おしく感じる。
きっともう明日には綺麗に清掃されて隊長がいた痕跡はなくなるだろう。それは病院側としては当然のことだし、次に使う患者さんのことも考えられているのだから仕方ない。
……しかし隊長も酔狂なことだ。一般人の華音ちゃんをこれから出る旅に連れて行こうなど、よく考えたら問題しかない。まぁ押した私も私だが、それはおいておこう。大事なのは今と、これからだ。
暗殺部隊とやらが隊長を殺すのを失敗した以上、これからも隊長を狙っていく動きはあるかもしれないし、警戒して手を出さないかもしれない。どちらにせよ隊長に関していい方向に動くとは思えない。
だから、私にできることはこれから隊長をサポートすることだ。必ず会えるわけではないからやれることは限られているが、なにもやらないよりもよっぽどいいだろう。私は隊長に尽くせることさえできれば、それで満足だ。
いや、これは、この気持ちは正しくない。
正しくは、こうだ。
私はただ、隊長の隣にいたかった。できることならずっと。あの人から助けられたときから私はただずっと彼の隣にいたかった。
ああ、その思いを自覚するだけで私の瞳からは涙がこぼれだしていく。私は隊長の隣には選ばれなかった。
ただ、悲しいという感情が押し寄せる。
だけど今だけは泣かせてほしい。きっと隊長は、アギトさんは……彼女に惚れている。まず間違いなく、絶対と言っていいほどに。そこに私が入り込む隙など存在しない。
それから私はしばらくの間、泣いた。