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喪失者の道中  作者: 法相
五章=砂上登=
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五章-13

 多少もやもやするものの、俺は自分の病室に向かった。

 それにしても本当唐突にあのようなのは勘弁してほしい。別人かと思うし、こんな物語の最後っぽいところでキャラが変貌とかなにかの陰謀を感じざるを得ない。なんか全部悟ったような感じで不気味だったし。

 ……いや、不気味なのは俺の存在か。何度も繰り返すようだが暗殺部隊に追われたりするような人間はまともではないし、どんな闇を持っているかわからない。今更だが記憶が戻らないとこんなに不安になるものなのか。

 と、考えている間に部屋につく。

 いつものように自然にドアを開き中に入る。この動作もここを出る時の後一回となることを考えると寂しいものがある。

 そして中には華音ちゃんと心の二人がいた。

「よう……」

「アギトさん……あの、砂上さんは」

「もうこの世にはいないよ。よっぽどのことがない限りはな」

 そうですか、と華音ちゃんはうつむきながら呟く。かわいそうだが、手を抜いていたら死んでいたのはこちらかもしれないので手加減の使用がなかった。身体能力は俺に比べたいしたことが亡かったとはいえ、その特異性には手を焼かされた。

 正直な話、雨が降ってくれなければ負けていたのは俺だっただろう。最強の悪魔憑きが聞いて呆れるぜ。

「で、でも隊長は華音ちゃんを守るために……」

「わかっています、心さん。アギトさんは無駄な殺生はしません、それはボクがよくしっています。それに多分、砂上さんはボクを連れにきたんだと思いますけど、アギトさんいなかったら大変なことになってたでしょうし」

「あー……わかるわ。しきりに自分を華音ちゃんを悪魔から解放した天使って自称してたし」

「なんですかその痛い系男子は。でも、そういう男なら恩にかこつけて理想を強制しそうですね。女神なんだからこの服を着ろとか」

「ようはお人形にされるってこってすね。いやですね、変態ってのは……」

「同感だね。まぁけど、俺はここから出て行くことにしたよ」

「……え?」

 華音ちゃんが信じられない、と言った顔で俺を見る。この反応は予想していたが、実際に見ると辛いものがあるな。彼女は少し肩をふるわせながら「どうして?」と聞いてきた。

「他の患者さんにも悪魔憑きってばれちまったからな。恭二医師も現場見てあんまり反応返せなくなってたあたり、もう潮時だろうからな」

「そんな……じゃあボクのせいで……」

「そうじゃないさ。恭二医師にはばれてたし、悪魔憑きが現れたならどちらにせよ俺が対応しなきゃいけないから大した差はないさ」

「すみません隊長、私がしっかりしていれば……」

「お前じゃ勝てなかったから関係ない」

「ひどい!?」

「事実だ。砂上はほとんどの悪魔憑きがラックなしじゃ勝てん。だから俺が殺すくらいしか方法を思いつけなかった。あれが味方だったらよかったが、無理な話だ」

 砂上みたいなタイプは自分の理想とするタイプ以外は受け付けないだろう。まず間違いなく。

「でもアギトさん、そうだとしても今回はボクの責任です……あの人はボクを狙ってきたんですから……」

「あぁもう、落ち込むなよ」

 くしゃり、と華音ちゃんの頭を多少乱暴になでる。おちこんでいる娘にはこのくらいでちょうどいいだろう。

「ほら、華音ちゃんは笑顔でいてくれ。俺にはそれが一番の栄養だから」

「……でも」

「デモもストもないわよ、華音ちゃん。隊長は気にしていないんだから大丈夫よきっと。それよりも、これからどうする気ですか? 病院代は私がなんとか工面してみますけど」

「俺はヒモじゃないんだが……まぁ有り金置いていくさ。トントンってわけにもいかないけど、せめてもの筋だ」

 脅して踏み倒すのはなしだ。あれだけお世話になっているのだから当然だろう。

 しかし、と華音ちゃんに視線を移す。

「なぁ華音ちゃん、俺と一緒に来るか?」

「……え?」

「なに言ってんですか隊長。ロリコンですか」

「絞めるぞクソアマ」

「冗談ですよ。でも急にどうしたんですか?」

「別に、ただ一人旅は寂しいからって言うのも理由だけど……華音ちゃんは他に親戚とかいるのかい?」

「い、いないです。父がいなくなったので天涯孤独の身となりました」

「そうか。それと学校とかはどうする?」

「……正直、どうでもいいです。あそこはボクを受け入れてくれません。髪の色が違うからでしょうね……これだから人間っていうのは」

「いじめ……いつの時代もなくならないものね。まぁでも今の世の中実力主義だから隊長についていって頑張れば人を見返せるんじゃない? 高校中退しても社長になって世界を征服する女性も世の中にはいるみたいだし」

「どんなたとえだ……」

「……でも、アギトさんについていくのは、いいです。行きたい、です。一回家に戻って荷物とかをとってきます。いいですか?」

「それくらいなら問題ないさ」

 ありがとうございます、と彼女は頭を下げる。

「そう。なら行ってきなさいな。ほら、隊長も一緒に。後は管理局員である私に任せてとっとと行く」

「心?」

「このくらい、させてくださいよ」

 ね? と心は小さく笑いながらウインクする。

「……悪いな」

「おきになさらず。それじゃまた会いましょうね、隊長」

「ああ。元気で会おう」

「心さん、ありがとうございます」

 うむ、と心はうなずき電話を取り出す。事後処理を進めるのだろう。

 俺はほとんどない荷物をまとめ、華音ちゃんの手を引いて病室を出て行き、窓口でお金を払って出て行った。





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