五章-10
さてはて、どうしたものか……
と、ここでぽつりとなにかが頭に落ちる。それは間隔を置いて少しずつ降ってきた。そう、これは湿っている。つまり落ちてきたのは水滴だ。
そして降ってくる間隔はどんどん短くなり、それは『雨』という自然現象になった。
ざぁざぁと降ってくるその雨は、俺が待ち望んでいたものだった。
「きたぜ……勝利の風が俺に吹いている」
「何を世迷い言を……僕はこの身体がある限り無敵です。勝ちの目などアナタに……」
「だったら試してみるか? 俺の強さをな」
空間を認識。
「さっきまでさんざん味わいましたよ。ですが、それでは僕に……」
「さっきまでとは違うぜ」
そして拳を握り、爆発を起こした。
このままでは最初のままだ。そう、このままなら。
だが、さっきまでとは状況が違う。今の天候は雨、某ゲームならば5ターンがせいぜいのものだ。この雨もたぶん長続きはしない。だがしかし、それでいい。
「だから無駄だ……ぬおわぁ!?」
爆発は直撃。そしてダメージも甚大のご様子。思わず顔をにやりと歪めてしまう。
「な、なんで……ダメージが、僕の身体が思うように砂にならない……」
「そりゃあ答えは簡単だぜ。水分を吸い込んだ砂ってのは固くなるんだ。まぁ量が多すぎたらぐちょぐちょになるけどな」
「そんな……まさか雨の水分程度で」
「現になってるだろ。試しにさっきみたいに俺に向けて手を砂にして動きを止めてみろよ」
「クッ!」
砂上はすぐに俺に向かって手を伸ばし、先ほどのように身体を砂にしようとする。だが、完全な砂にはなりきれずにその腕は固形物としてボトリ、ボトリと落ちていく。あれではすばやく動かすことはおろか、俺に気づかれないようにするのも無理だろう。
「チェックメイトだな」
「ウソだ……僕が、天使である僕がこんなランクが下の騎士ごときに……」
「おいおい。おかしなことを突然言い始めるんじゃねえよ。ランクとか唐突にまたなにを……この世界をゲームかなにかと勘違いしてるのか? まぁ俺の知ったことじゃねえけどな……だが二つ、お前は間違ったことを言っている」
「なにがですか!?」
「まぁ根本的には一緒だから、まとめて教えといてやる。今のご時世に天使や騎士なんていねぇよ。俺は便利だから使ってるが……結局は自称だ」
「なにが、言いたいんですか……!」
「なぁに簡単なこった。俺もお前も確かに人間じゃない……俺たちは、悪魔憑きだ」
「それがどうし……!」
そこで砂上の言葉が止まる。
どうやら俺が何を言いたいのかを気づいたらしい。
「どうした、じゃないよなぁ。結局俺たちは悪魔憑きになった時からもう人間じゃないんだ。天使? 騎士? は、ちゃんちゃらおかしいぜ……どう繕ったって俺たちは人様から見たら異常者でしかないんだ」
「僕は……!」
「俺が悪役みたいだが、それが真実だ。ケリ、つけるぞ!」
「ゆる、さない! 許さない許さない許さない……! 絶対に許さない!」
「何を許さないって? 若造風情が……!」
砂上の表情が険しいものになり、拳を構える。
今のアイツができる攻撃はシンプルに一つだけ。拳、いや身体全体の砂の密度を集約させて硬化、攻撃力・防御力を格段に飛躍させての近接戦闘。