五章-9
「……この程度、ですか。大口を叩いた割にはたいしたことありませんでしたね」
「お、いおい……これくらいでなにを偉そうに」
肩で息をしながら虚勢を張る。参ったな、コイツ本当にまともなダメージを与えられない。そんな俺を見ながらやつは呆れたような目つきで俺を見ていた。
「確かに言うだけあって戦闘技術は僕のソレを遥かに上回っているようですけど、のれんに腕押しです。僕にまともなダメージを与えられない以上、アナタの勝ちはありません」
「逆を言えば負けもないん、だぜ」
「いえ、負けしかありませんよ。僕に体力のロスはほとんどありません。逆にアナタは僕の攻撃を抑制、あるいは防御するために過剰に身体を動かします。その時点で優劣ははっきりしていると思いませんか?」
「偉そうにしやがって……若造が。四つしか違わないけど」
「……案外四つどころじゃないかもしれませんね。勘ですが」
「あん? 俺がもっと歳だとでも?」
「ええ。なんというか、若者には出せない雰囲気を出している、そう見ました」
そうかい。多分ほめているつもりだろうが、とくにほめられた気分にはならない。
しかし、アイツの言うことももっともだった。
現状、俺の攻撃ではまともなダメージを与えることすら難しいし、一方で俺の疲労はたまっていくばかりだ。さっきも言った通り負けもしないが、勝てる気もしない。
(いや、できないわけじゃないが……それこそ天候頼りだ。不安定すぎる。天気はくもりでちょうどいいんだが……確定じゃない)
おまけに確証もない。そもそもこんな戦法を考えざるをえないこと事態がすでに悲しい。
「ま、そろそろ終わりにしましょうか。身体が砂ってことの強さ、思い知らせてあげますよ、騎士さん」
砂上は右手を横に伸ばす。するとどうだろうか、砂上の腕が砂となっていき地面へと落ちていく。やばい、これはまず……
そこまで考えた時、俺の足に何かがまとわりつく感覚が襲う。足を見ると、砂が俺の足に絡み付いていた。しかも動けないレベルでの固さでまとわりついてやがる。
「これであとはアナタをサンドバックにするだけです」
余裕を取り戻したのか笑顔に余裕が出ている。そうかい、俺を相手に余裕を見せるなんざいい度胸じゃねえか。ついでにたった今考えて増やした方法も試してやるよ。
空間を認識。対象は……今砂がまとわりついている俺の足だ。
そして、拳を握る。
爆発。
足に激痛が走るが、これで解放された。
と、向こうからもうめき声が聞こえる。視線をそこに移せば、苦痛の表情でいつの間にか戻っていた右腕を押さえる砂上がいた。
「そん、な……なんで僕の腕にダメージが」
「仮説は当り、か」
「仮説、ですって?」
「そうだよ。さらさらな砂になれる、ついでに密集させて固めることもできるのを俺の足を捕まえたことからも判明した。柔らかい方がのれんなら、固い方はいわば岩石だ。破壊は困難でも、できないわけじゃない」
案の定、破壊に成功したらダメージも負ったわけだし、俺の賭けは勝ちのようだ。
「そんな、バカな……」
信じられない、という表情をされるがこれくらいの推測は簡単だろう。あ、でも試すようなやつもいないだろうから驚くのは当たり前なのか。
だが、これでこの手法はもう使えない。
「だったら、もう固くなることをやめればいいだけじゃないですか」
その通り、コイツの言う通りだ。それだけでこの問題は解決する。ダメージを負った代償として向こうの右腕を奪えたのが幸いだ。奪えてなかったらシャレにもならん。