五章-7
(……こりゃ、相性が悪いのか)
俺の主戦闘は徒手空拳による近接攻撃がメイン、いわゆる物理で殴っていくのを得意とするスタイルだ。だが、砂の身体である砂上には対しては効果が薄い。それは爆発も同じだったようで、たいしたダメージは与えられていない。
コイツは、ちっとばかし骨だな。
「さて、できれば諦めてはもらえませんかね? 僕はあまり戦いたくないんですよ」
「そりゃできない相談だな。華音ちゃんには俺の部下を自称する女子もいるんだ。邪魔をきっとするだろう。そしたらお前は彼女をどうする?」
「そりゃあ邪魔をしてくるなら殺すしかないでしょ」
「そういうところがクレイジーだって言ってんだよ!」
「失礼ですね! いくら騎士さんといえどバラしますよ?」
そう言って向かってくる砂上に対し、こちらはもう一度空間を認識、今度は俺の身にも衝撃がきても構わないくらいの威力を指定、爆発を起こす。
砂上はまたもや吹き飛び、俺は衝撃に耐えるため身をしっかりと構える。
少しの間静寂が流れたが、やはりあの男は立ってくる。
「痛いですね……今のは少々効きましたけど、無駄って言うのがわからないんですか?」
「わかっちゃいるけど試さずにはいられないんだよ。どうにかして勝つ手段をあげないとお前がのさばるからな」
「のさばるって……別に警察とか呼ばれたりしなければ僕は皆さんに危害を加えるつもりはとくにないですよ?」
「呼んだら殺すのか」
「それはしかたないですよ。僕の、天使の意向に逆らうならそれはもう罪ですから」
まるで自分が本当の天使だとでも思っているかのような、いや思っているんだろうな。そんな口ぶりだ。コイツはクレイジーだし、自分の都合の悪いことはなかったことにしたいタイプだろう。
思わず、下らなさすぎて笑いがこぼれる。
「……何を笑っているんですか?」
ようやく、ここで砂上の表情から笑みが消え不快な表情を見せる。
「別に、お前さんがガキだと思ったからつい笑っちまっただけだよ」
「なんですって?」
「だってそうだろぉ? テメェの思い通りに行かなきゃ始末して、テメェの都合のいいように物事を進めようとする……程度にもよるが、お前の場合はでかいガキのわがままだ。しかもとびきり最悪なクソガキだ」
周囲を巻き込んでの暴挙。しかもこいつはそれを自覚していない。自覚しているのも問題だが、無自覚の方がタチが悪いと俺は思う。
「さぁかかってこいよ悪ガキ。多少は良識を持っている大人として上から目線で、直々に、叩きのめしてやるよ」
先ほどと同じように挑発する。だが、意味合いは先ほどとまでは違う。
この男を見ていると虫酸が走る。どうしてかは知らない。もしかしたら俺のない記憶にも関係しているのかもしれない。そう、例えば俺はこの男のように無秩序で、他人に迷惑を無自覚にかけていたのかもしれない。だとすればお笑いぐさだが、これが同族嫌悪というものだろう。
向こうも先ほどとは意味合いが違う挑発だったというのを理解したのか、いくらか目つきが鋭くなる。いいねぇ、そうでなきゃ。
「張り合いってもんがねえよなぁ? クソガキ」
「上から目線で……何様なんですかアナタは」
「さぁな。俺様とでも答えておいてやるよ」
「ふざけないでもらえますかねぇ!」
悪ふざけのつもりはない。
まぁそう思われるのは仕方ないが、そんなことはどうでもいいんだよ。大切な事実は一つだ。
お前は、華音ちゃんの心に下手をしたら一生癒えない心の傷を負わせるかもしれなかった。それだけで俺がお前を殺すのに十分な理由だ。