五章-6
不気味に砂上は笑う。この笑みは純粋なものだろう、屈託のない純真無垢な微笑みだった。これが人を殺した後でなければこいつをいいやつだと思えたのに。
「クレイジーなやつだぜ……」
「クレイジー……狂っているという意味ですね。ですがそれは間違いです。なぜなら僕は天使だからです」
「天使? どの口がほざいているんだ」
「この口ですよ。騎士さん!」
一飛びで俺まで近づき、俺の腕をつかんで砂上は俺を玄関の方へ投げ飛ばす。悪魔憑きだけあってたいした腕力だ。そのままの勢いで俺の身体は玄関を破り、熱されている外へと投げ出される。
むわっとした空気が俺を襲い、身体には不快感の走るように汗が噴き出す。
幸い受け身はとったのでダメージは少ないが、やはり病み上がり。少々辛いところがある。それでも身体的には前回の暗殺部隊の面々のときよりはずっとマシだ。
「おやおや? 騎士さんは丈夫みたいですね。僕、けっこう本気で投げたんですけど」
砂上は玄関から身を出して俺をみて少々驚いている様子だった。怪我がないところをみたからだろうな。
「あいにく身体の作りが人様と違うのは俺もだ。そう簡単にはくたばらないし、ましてや騎士って言われるんだったら天使を名乗る堕天使からお姫様を守るのも俺の仕事だ」
「……言ってくれますねぇ。ですがアナタは僕に簡単に投げられるほど脆弱なご様子……すでに結果は明らかじゃないでしょうか?」
言ってくれるな、というのはこっちの台詞だ。
一応こちらも最強の悪魔憑きらしいからな、狩らせてもらおう。
「かかってこいよ、三下。格の違いを見せてやるよ」
人差し指でクイッと挑発する。単純なやつはこれでたいていひっかかるが、コイツはどうかな?
「ふむ、挑発ですか。乗る必要はないでしょうが……いいでしょう、ここは乗ってあげます。騎士気取りのお兄さんには少々お灸を据えておいたほうがいいでしょう」
「ぬかせ。お前さん歳はいくつだ?」
「二十四です」
「俺より四つ下か(推定だけど)。ちったぁ年上を敬えよ、青二才」
「敬われるのは僕だと思いますよ? なにせ華音さんの恐怖の根源を消したのは僕ですからね」
「そう思うなら勝手に言ってろ。俺は全力でお前を潰す」
「できるものならどうぞ」
そういうと砂上はまた一飛びで俺の懐に入り込んでくる。
モーションを見ると、攻撃方法は拳。攻撃される前に半歩後ろに下がって拳を回避する。そのままカウンターで拳を入れる。が、先ほどと同じく向こうの身体は砂になってダメージを与えられた様子はない。
すかさず蹴り、突きを決め込むがそれすらも砂の身体の前では無効化される。
「あはは。無駄ですよ、僕相手に打撃や銃弾は一切効きません。『栄光の砂』の前ではどれだけ肉体的に強くても関係ありません。ただ無駄に体力を浪費していくだけですよ」
「だったらコイツはどうだぁ!」
空間を認識、威力は少々強め。
拳をそこに向けて、手を握りしめる。
爆発が起きる。
もろに爆発は砂上に直撃し、そのまま砂上を後ろに吹き飛ばした。
威力は俺が巻き込まれない程度には弱くしたが、それでも威力は十分以上にはある。
「……驚き、ましたねぇ」
だが、砂上は驚いた様子こそ見せていたがほとんどダメージを受けているようには見えなかった。
「……マジか」
「アナタにとっては残念ながら。多少はダメージはもらいましたが、致命傷というほどではありません」
にっこりと穏やかに笑いながら、砂上は再び立ち上がった。