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喪失者の道中  作者: 法相
五章=砂上登=
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五章-5

「……なんでアンタは華音ちゃんの父親の頭を持ってるわけ?」

 威圧的に心が聞く。

 管理局員としての責務で聞かずにはいられないのだろう。その額には怒りで血管が浮き出ていた。だが砂上はそんなものどこ吹く風と空気を変えることはなかった。

「おかしなことを聞く人だなぁ……僕が滅したからに決まっているじゃないですか。これでも女神を守る天使なので」

「ドヤ顔で言ったところでアナタがやったのは殺人っていう立派な罪よ。管理局として、ここは私が……」

「心。華音ちゃんを連れて俺の病室に逃げろ。コイツは俺が相手する」

「な!? 隊長の怪我だってまだ治ってませんよ!?」

「それでも俺はお前より強い。それに華音ちゃんを無事に預けられるのはお前くらいしかいない。華音ちゃんへのフォロー、頼んだぞ」

 コキリ、と指を鳴らして砂上の前に立つ。

「あ、ちょ。華音さんにこれまだ見せてないんですけど……邪魔しないでもらえますか?」

「そんなもの女子高生に見せようなんざ、なかなかクレイジーな男だなオイ」

「クレイジー……確か気が狂っている、とかそういう意味でしたっけ? 失礼な人だな……アナタはなんなんですか?」

「俺か? そうだな、強いて言うなら……華音ちゃんの騎士様かな」

「騎士様? ああ! つまりアナタが華音さんの命の恩人! いやぁ女神を救ってくれてありがとうございます!」

 多分、本気でお礼を言っているのであろう。俺にお礼を言うその姿は真摯でまじめで、好感を持てる。さっきの凶行なければの話だが。ちょっと考えればわかる。まともな人間はお土産と称して人の頭を持ってこない。ましてやそれを命の恩人の父親の頭となるともう頭が逝っている。

 おそらくもなにも、コイツが殺したんだろう。

 危険だ。

 まだ手出しこそされていないが、この男は俺が邪魔者と判断したらすぐに俺を殺そうとするだろう。それだけの実力はありそうだ。俺が普通の人間だったとしたら。幸い、というべきか俺は悪魔憑きだ。

「いやぁでも華音さんの命の恩人に出会えて感極まりますね。僕の女神を救ってくれたのなら、もう頭も上がりません。あ、よろしければアナタからこの悪魔の頭を華音さんに見せますか?」

「いらねえよタコ。それよりも、なぜその人を殺したんだ?」

「なぜって……この男は悪魔でした。幼い頃の華音さんに虐待をし、その感情に大きく枷をつけた。これは許されざる罪です。そんな屑を殺して何が悪いんですか?」

「警察に突き出すってのは考えなかったのか?

「突き出しても無意味だと思いますよ。なにせ虐待している自覚がなかったですから」

 そうかい、と俺は答える。

 この男は嘘は言っていない。短い時間で見聞する限りそういうタマではないし、性格ではないだろう。ウソを言うとすぐにボロを出すタイプだ。よって、この男は真実を述べているのだろう。

 それに一つ合点がいくこともあった。華音ちゃんがどうして親御さんと仲が良くないのか。そりゃ虐待する親を好む子どもはいない。いるとすれば、それは精神が崩壊しているのか真性のマゾヒストかのどっちかだろう。後者はないと信じたいが。

 どんな虐待内容かは知らないが、まともな精神ではなかったのだろう。考えられるのは自己中心的な論理を放ち、もしくは厳格すぎて子どもを無意識に追いつめていくってのが思いつくが……まぁ細かいことを考えるのはよそう。なにせその虐待していた本人が死んでしまった以上確認のとりようがない。

 とはいえ殺されても仕方がない、と思われたから殺されたのだろう。どんな内容にせよ虐待とは砂上の言う通り許されない行為だ。子は基本的には親には逆らえない。それをいいことに好き放題やって子どもの心身を傷つけ追いつめるということは絶対に間違っている。


 ——助けて、お兄ちゃん。


 ふと、頭の中に誰かの声がよぎる誰の声だろうか?

 少なくとも俺は記憶していない人間の声だ。だけども、あの女性と同じようにどこか懐かしい感じのする声だった。

 直後、頭の中に映像が流れる。映ったのはどこの誰とも知らない男の顔だった。

 だがこの男の顔を想像するだけでゾワリ、と背中に殺気めいたものを孕ませる自分がいた。どうしてだ。なぜ俺はこの男の顔に殺意を覚える。

 これも俺の欠けた記憶になにかしら関わりのあるものなのか。それもこれだけ殺意を巡らせるとなるとそうとう俺はこの男を恨んでいるのか?

「あの、どうかしましたか?」

 砂上の声に反応して意識を現状に戻す。そうだ、危うく思考を今の声に持っていかれるところだった。落ち着け俺。まだ目の前に敵はいる。

「いや、なんでもない。ただクソ親父に痛い目を見せるってのはつい同感しちまっただけだ……同情の余地はない」

「でしょう? やはりアナタは華音さんの騎士を名乗るだけのことはある」

「だけど手段は問題だ。殺した上にその生首を持って華音ちゃんに見せるのはいかがなものだと思うぜ。あれじゃ残酷すぎて、いやスプラッタすぎて泣き出す、ないし心に傷を残す。相手のことを考えるのならただの死体を家においておくだけのほうがよかったかな」

「なるほど……しかしスプラッタすぎてとは?」

「普通一般人はあんなもの見せられたら恐怖で失神する」

「なん、ですと……僕は危うく華音さんに心の傷を残すところだったのか……」

「うん、ギャグみたいな会話の流れですますわけにはいかんから言っとくけど、すでにお前の発言で華音ちゃんに心の傷残ったぞ。十中八九」

 たぶん俺の発言を聞いても傷つくだろうけど。

 ただすっと自然にこの言葉が出たあたり、俺も親というものにはたいがいいい思いをしたことがないのだろう。むしろ考えると反吐が出そうだ。

(しかし、ここはどうするか。殺人を犯している以上、確保をして心に引き取ってもらってさばいてもらうか。見たところただの人間だろうし、軽く顎に一撃を食らわせれば気絶するだろ)

 ……まぁ殺人と言えば俺もつい最近命を狙われた際に殺人をしたわけだが、一応正当防衛だ。とはいえ、あんな奴らに狙われる以上、俺は真っ当な人間、じゃなかった悪魔憑きではない。そういう意味ではコイツと俺は同類なのかもしれない。

 ……考えると反吐が出そうだが、仕方ない。多分コレが同族嫌悪というやつだろう。

「砂上登、悪いが警察に行ってもらうぞ」

「おや、そんなことができると思いますか?」

「やってやるさ」

 すぐにでも、な。

 トン、と軽く跳び砂上に近づき拳を顎に向けて打ち抜いた。

 打ち抜いた、はずだった。

「んな……」

「あはは、ひどいなぁ。華音さんの騎士様はけんかっ早いのかな?」

 拳は確かに顎に当てた。間違いない。だが手応えはまるでなかった。

 そして手応えがない理由も簡単。

 コイツの顎が、砂になっているからだ。

「おま、悪魔憑きか!」

「ご名答です。ですが動きを見る限りアナタもただ者じゃありませんね。アナタも悪魔憑きとみました」

 いやー驚きました、と砂上はのほほんとした表情で言う。顎が崩れながら喋っているのでなおさら気持ちが悪い。こいつは顔もいいからよけいに気持ち悪い。

 すばやく拳を引き抜いて距離をとる。周りには人もいる。コイツが悪魔憑きな以上、ここで戦うのはまずい。どうにかして別の場所に移動しなければ……

「おや? どうしました?」


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