五章-3
「ボクに、ですか?」
予想外な事態のためかポカンとした様子で自分を指差す。
「ええ。家族関係者に会いたいって珍しいですよね。でもはっきりと「大鳥華音さんはいますか?」って受付に聞いていましたからね」
「入院患者だと思ったのかな……でも、ボクがこの病院に来ているのって父さんくらいなんですけど」
「じゃあお父さんかな? 俺も行こうか。どんな親御さんか気になるし」
「隊長、さっきの華音ちゃんの言葉忘れてません?」
「あ……」
「……別にいいですよ。ボクもこのタイミングで来るとは思ってませんでしたし」
忌々しいと言った様子で表情を曇らせる。この娘、本当に親父さんが嫌いなんだな……いや、愛情の裏返しかな……なぜだ、親という単語を深く考えようとするとすごく腹の虫が収まらない気分になる。こう、グツグツと腸が煮えくり返るような……なんだろう。
「いや、見た感じ若い青年でしたよ?」
「? ますますわかりませんね……ボクこういっちゃなんですけど友達とかいないですから来客とか来るとは思えません。まぁとりあえず行ってみますけど」
なにかの引っかかりを感じながらも、華音ちゃんは立ち上がって件の人物に会いにいくようだ。「すみません、お食事を食べてもらうのはまた今度で」と謝ってから彼女は病室を出て行く。
……心配だ、俺もついていこう。
「私もついていきますよ。彼女が心配なのは隊長だけじゃありませんよ」
いい笑顔で心もついていくことを告げる。恭二医師は「心配し過ぎですよ……」と呆れていたが、華音ちゃんが変な男に騙されないかが心配なんだ。ただそれだけである。
そして俺たち(恭二医師も含めて)は華音ちゃんの後を気配もなくついていく。途中で吉田さん辺りから白い目で見られたが事情を話すとノリノリで俺たちについていくことになった。
『ちょっと、なんで私も巻き込んでいるんですか!』
『いいじゃないですか先生! 実際は先生も気になるでしょう?』
『吉田さん、黙っててください。華音ちゃんはと……』
『あ、隊長。華音ちゃんが目標と接触しますよ』
心にいわれ視線をその方向に移す。場所は受付付近のベンチ。
対象と思われる男は華音ちゃんを見つけると嬉しそうに手を振って彼女を呼んでいた。
男の身長は遠目だが百七十くらい、髪の毛は染めているのか地毛なのか少し茶色がかった金髪をしている。雰囲気的にはちゃらくなさそうだが、一体彼は華音ちゃんとどういう関係なんだ……!
『隊長、気配を消してください。華音ちゃんがいくら素人でも気づかれますよ』
え? そんなに気配だだ漏れしてたのか?
『おじさんがわかるくらいにはだだ漏れだったよ、兄ちゃん』
『そんなバカな……』
素人の吉田さんにまで気づかれるなんて、まったく今日の俺はどうかしているようだ。ここからは気持ちを切り替えていかねば……