三章-5
あの時の場所に着いた。よく考えたらこの倉庫から始まったのかもしれない。
彼女と深く関わりはじめたのは影山が華音ちゃんをさらった時からだからな。だけど、それが結果的に彼女の運命を狂わせはじめたのかもしれない。
その責任は俺にある。今回の事件もそうだ。俺を狙ってきた連中が弱みをつかむためにさらったのだろう。
ならば、そのようなことをしたことに覚悟をしてもらおう。
記憶はない、悪魔憑きとしての固有能力もわかってはいない。それでも俺には恵まれた身体能力がある。それこそもうあのバンダナの装甲兵器にも、他の悪魔憑きにも遅れをとらない自信はある。
だから俺は負けないし、彼女を必ず救ってみせる。
根拠などない。根拠はないのだが……不思議なものでできないという気がしない。
俺は拳を握りしめ、扉に全力の拳を打ち込む。
修復されたばかりであろう鉄製の扉は形を変形させて開かれた。
扉は衝撃で壊れ、接続部からはがれガランガランと音を立てて数メートル先へ吹き飛ぶ。そこからゆっくりと俺は歩みを進めて中に入る。
まだ昼間ということもあってか中は前回に比べ幾分か明るい。
そのぶん周りも見やすいのだが、ここまであからさまに何もなさそうに見えると警戒をせざるをえない。
そして中央まで来た時、突如周りは暗闇に包まれた。
「……なんだ?」
辺りを見渡しても入り口付近にしか光はない。とはいってもかなり明るい、というわけではなく明らかに遮光されたような明るさだった。
かなり大掛かりな仕掛けをしたと見るのが妥当だろう。とはいえ彼ら、あるいは彼女らにそんなに時間はなかったはずだ。俺が病院からここにつくまでの時間でこれほどの大仕掛けをすることは不可能に等しい。
であれば、最初からある程度準備が整っていた。もしくはその仕掛けには過程が時間がかかるだけで発動自体は容易い仕掛けなのかもしれない。
所用時間を考えても後者の可能性の方が高い。
だが時間が経てばその問題も解決できるだろう。この手の仕掛けは時間経過とともに消失していく。だがそれは許されない選択肢だろう。今からかかってくる連中は隠密特化賀型の装甲兵器ばかり。さっきのように明るい場所であったらまだ動きを見きるのは容易だったろう。だが、こうも暗いとステルスの機能なども最大限に発揮される。
まぁとは言っても、そうだな。焦るのは華音ちゃんのことだけであり、それ以外に心配はない。
直後にゾクリ、と背中に悪寒が走る。
それからすぐに前へ進むと刃が空を切る音がした。背後から狙ってきたのはベストな選択だ。相手の不意をつくにはすばらしい戦法だ。だがここから反撃すれば問題は……
と、ここでポチリと何かを踏んだ感覚があった。
「あん……!?」
何かが発射される音が聞こえた。
聞こえた方から方向を察し、思わずそれをつかみ取る。
つかみ取ったのは矢だった。ただ先端からは液体がポタポタとこぼれている。
(暗殺部隊の傾向から見て毒矢ってところか……神経性の麻痺毒、じゃないよな。像も一撃で殺せるレベルの猛毒かな。こりゃかするのも危険だ)
よくもまぁこの暗転に毒矢など短時間で仕掛けたものだな。正直驚愕に値する。
チームワーク、技術、速度、それら全てが高水準で仕上がっているとみた。さっきのアイツはなんだったんだと言わんばかりだ。
警戒レベルを最大限にあげなきゃ死ぬのはこっちだ。
とはいえ向こうは暗視スコープなどが標準装備の部隊。こちらの動きは一方的に読まれていると見ても問題はないだろう。ならばこっちができるのはどんな小さな気配も逃さないようにするだけだ。
そして気配もない。
いいね、いいハンディキャップだ。これくらいしてもらわないと……
「あっさり殺しちまうからなぁ」
聞こえないようにぼそりと呟く。
それを知ってか知らずか、また背中に悪寒が走る。
だめだなぁ、奇襲って言うのは不意をつくから最大限の力を発揮できるんだ。二度も同じ手を、それも俺相手にするなんてナンセンスでしかない。
その場から跳躍、直後に空気を切る音が聞こえた。そこから間髪入れずに回転、頭部(だと思う)に回し蹴りをかます。
足に何かをとらえた感触があり、そのまま振り抜く。
それからズザー、っと人が転げる音が聞こえた。まずは一人だ。
「さぁ、とっととかかってこいよ……! 全員血祭りにしてやらぁ……」