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喪失者の道中  作者: 法相
三章=交戦=
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三章-2

「俺が、あのバンダナの親父を殺した……?」

「隊長、どういうことですか?」

 知らん。むしろ俺が聞きたいくらいだ。ただでさえ記憶喪失だってのに……人から恨まれる記憶はとんとないんだよ。

 そのことを伝えると「そういえばそうでしたね」と愛野さんはハァとため息をつく。

 彼女もまた俺のことを心配してくれているからなのだろう、ポンと肩に手を置いて「これからゆっくりと考えましょう」と言ってくれた。

 正直、少しだけ気持ちが軽くなった。こういうのは一人で抱え込むよりも人に知っておいてもらった方が多少楽になれる。もっとも、それは記憶がないからというだけだからの話であって、記憶が戻った時にはどうすればいいのか正直反応には困る。

 だが二人なら辛いことは半分ですみ、楽しいことは二倍でわけあえるという名言もある。ここに華音ちゃんを加えれば完璧な布陣といっても過言ではないだろう。まぁ彼女に俺が人を殺したかもしれないということは言えないが。

 だが管理局に関わっていたというのがある以上、この手が血に汚れているのはあるかもしれない。もしかしたら記憶を失う直前ですらこの手で人を殺めていたのかもしれない。

 正直、怖かった。

 記憶喪失になってからの俺はこの力を華音ちゃんのために使ってきた。それはきっと正しいことだと思ったから。だが結局のところ、それは俺の自己満足であり、また偶然が産んだ産物なのかもしれないと考えてしまう。

 そうでなければ俺は戦闘を楽しいと思うこともなかったはずだ。そしてどこか必ず、人をなめているところもなかったと言えばウソになる。影山の時もそうだった。アレも全力でやれば早々に片がついたかもしれない事件だったし、今回もバンダナが暴走するまではいくらか余裕を持っていたように思えるというのが真相だ。

 我ながらクズである。と同時に俺は自分が思っているよりも危険な存在ではないのかということを危惧する。であれば愛野さんが言ってたようにここから、あの病院から出て行くのが得策なのかもしれない。

 華音ちゃんと別れてしまうのは非常に残念な話ではあるのだが、何がおこるかわからない以上、一カ所に留まっていても危険である。

「まぁかといって管理局に戻る気もさらさらないんだけどなぁ」

「なんでですか!? こんなかわいい副官もついてるんですよ!」

「お前どっちかていうと可愛いよりも美人の部類だろうが」

「え……あ、ありがとうございます」

 ポッと顔を赤くする愛野さん。

 まぁそんなことはどうでもいい、さして重要じゃないからな。それを漏らすと愛野さんは「重要じゃないってひどくないですか!?」と抗議の声を上げていたが黙殺する。

 ……この娘これが地か。想いの他テンションが高い。さっきまでの方が作っていたというのが正しいような気がする。

「え? いや確かにこっちの方がデフォルトだと思いますけど……華音ちゃんにあったとき見たいに仕事ができるクールなお姉さんぶるのも好きなんですよ」

「見栄を張るタイプか。まぁいいんだけどさ」

 彼女のような性格の場合、ただの姉貴分で終わるような気がする。

 とはいえこのままここにいるのもあまり賢い選択ではない。バカみたいに暑いし、服も汗でぐっしょりだ。はやく病院のクーラーで冷えて風呂借りて最後にのんびりして病院を出て行こう。その方が、きっといい。

「正直しゃくだけど愛野さん、身元引き受け人役を頼む。病院に何か被害が出る前に退院しておきたい」

「わかりました。お任せください」

「よし、それじゃ早速病院の方に……ん?」

「どうしました?」

「いや、なんか今足音が聞こえたような……」

「足音?」

 うん、とうなずく。ただ足取りは遅く、非常に弱っていることが推察できる。これは危険な状態なのかもしれない。

 すぐに足音がした方向に向かい三本先の大木に手をかけて歩く人物が見える。

 顔はうつむいていてよく見えないが、ぱっと見は三十代の半ば頃の男性だろうか、彼が歩いてきたであろう道の方には赤黒い何かが見える。恐らく血だろう。

 まるで入院する前の自分を見ているようで不安になる。俺たちは急いで駆けつけその男性に声をかけた。

「大丈夫、ではないな……しっかりしてください!」

 男性は顔を上げて俺を見る。少しガッシリとした顔つきだが、どこか優しさを感じさせるような顔だった。

「う……誰……って、八神朗人……なぜ貴殿がここに?」

「あれ? 俺の本名かもしれない名前知ってるってことは知り合い?」

「なら私の知り合いの可能性も……すいません、知らない人でした」

「アナタは確かカニバリズム部隊の愛野心。どうして……ぐ」

 胸を押さえて男性は膝を折る。俺は「失礼」と言ってから胸を押さえていた手をどかした。その場所からは血が溢れ出ていた。見れば銃弾を受けたような跡が残っている。危険な状態だった。

「おいおい、どこから歩いてきたのかは知らないけどこんな重傷でよくここまで来たな」

「幸い、心臓は人と逆でな。生き残るだけの悪運は持ち合わせている」

「悪運ってどういう意味でしたっけ?」

「悪いことをした時の運、だったかな」

「あながち間違っては……いないな。だが、ちょうどいい……八神朗人、病院が危険にさらされている」

「……んだと?」

「急げ。貴殿なら……鎮圧は、容易だろう」

「……愛野さん、この人を頼む。俺は急いで病院に戻る」

「あ、隊長!?」

 戸惑う愛野さんに男性を任せ、俺は急いで病院に向かって戻った。


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