三章-1
「闇の弐あらため闇の壱より各自へ。準備はできているな?」
『闇の参、準備はオーケーです』
他の隊員からも了承のサインが出る。
ちっとばかしスマートではないが、物事を簡単に解決するには直接その場に出向く方がよい。なぜならその方が賢く簡単だからだ。
そして、相手に弱みがあるのならばそれにつけ込むのも一番だ。
幸いこの病院には対象が猫かわいがりしている女の子がいる。彼女を人質に取れば容易く殺せるはずだ。まぁまずはいかに彼女をうまくさらうか。
先日、あの男をこの病院で発見した頃、彼女、大鳥華音は悪魔憑きにさらわれるという不運に見舞われている。あの男にあったからこその不幸に感じてならないが、向こうの悪魔憑きはそんなことおかまいなしだっただろう。
まぁそんなことはどうでもいい。さほど重要ではないからだ。
今重要なのはいかに効率よく彼女をさらうかだ。あいにくと俺たちは管理局の中でも特殊な位置にいる部隊なので管理局員としての身分証明書はない。
だが逆に幸いなこともある。それは厄介な記憶喪失者、八神朗人がこの病院には今いないということだ。これには愛野心には感謝せねばならないだろう、偶然とはいえ八神朗人と大鳥華音を引き離してくれたのだから。
思わず口角がつり上がる。未だに自分のことを理解していない悪魔憑きとそれに想いを寄せている少女の悲劇、考えるだけでも面白みがある。悪魔憑きも、それに好意を寄せる者も異端者だ。そいつらの不幸と考えるだけで飯も進む。
『新班長。どうでもいいですけど、鼻息荒くなってますよ』
と、ここで闇の伍から指摘を受ける。おっと、いかん。まだ実行していないことで興奮するのは悪い癖だ。
「すまん。闇の四、対象は?」
『子どもたちと別れ現在図書室に一人きりになっております』
「上々だな。では、作戦を決行する。実行は俺と闇の六で行う」
了解、と返信がくる。
同時に俺たちの身につけている隠密特化用装甲兵器、『知られざる罪』の能力が起動する。
身体能力の底上げと超々光学迷彩機能。かつて存在したという多目的装甲兵器、器用貧乏なるものの汎用性を高めた型と聞いているが、それでも十分すぎる性能を誇っている。
なにせこの光学迷彩というもの、詳しい原理はわからないが光の屈折などを利用し人の視覚を容易に騙すことができるという代物だ。開発当初はそれこそ局地的にしか機能を発揮できなかったものの、今ではほとんどの場所でその機能を十全に発揮できるまでといたっている。
実際、これを見破るには相当の動体視力が必要だ。それでも見切れるのはごく一部だし、周囲の人間には夏場のかげろうくらいにしか見えないだろう。
図書室は二階なので、機能の一つで壁に張り付いていき、這い上がる。むろん、周囲の人間は誰一人として気がつかない。まぁ仮に気がついたとしたら危険人物として要注意である。
と、考えている間にすぐ目的の場所の窓ガラスまでつく。
(さぁて、ミッションスタートだ)
そう考え俺は強化された拳で窓ガラスを割った。