幕間
『それで、まだ対象は見つからないのか?』
イライラとした口調でスーツを着た壮年の男性、山道さんはいう。ただでさえ強面なのによけいに怖さを増長している。とはいっても今ではある程度なれたのでさして問題ではない。
「すいません。なにぶん部下が一人殺られたあとすぐに撤退したので……」
『そこだ。なぜ暗殺部隊である貴様たちがたった一人殺られただけで撤退したんだ? いくら対象が対象とはいえ、重傷を負ったアイツ程度なら余裕を持っていなせたろうに』
「そうはいきません。対象の能力は聞いていた以上、我々を周りごと一掃することも考えられました。そうすれば機密保持どころではありませんからね」
『しかしだな、アイツが生きている方がよほど怖い。いいか、次に見つけたら確実に始末しろ。いいな!』
そう言って山道さんは強引に通話を切る。
……やれやれ、そういうところが足下をすくわれたりする所以なんだけどな。きっと本人は自覚していないだろうが、そろそろあの人には見限りをつけていいかもしれない。あいにくと私は「たった一人」と人の命を軽く見る人間が嫌いなのだ。暗殺部隊に所属しているくせになにを、と自分でも思うが、だからこそ人の命に価値を見いだせるのだとも考える。
それにしても、と私は一つのモニターに目をやる。
対象である八神朗人のいる病院だ。先ほどはまだ見つからないと言ったが、そんなわけがない。ふぅ嘘をつくにも一苦労だ。現在八神朗人は記憶喪失であることがわかっている。
本来ならばこの時点にでも対象を殺すべきなのだが、記憶が戻らないならそれはそれにこしたことはないだろう。そうであればこちらとしても殺す必要がないというのが本音だった。
ただ、記憶が戻った時には殺すこともやぶさかではない。今度こそしとめてご覧にいられよう。
そこまで考えている時に誰かが入ってくる。振り向くとそこにいたのは石倉次郎という部下がいた。
「どうした?」
「いえ、班長も相変わらず面倒くさい生き方をしているなぁと思いまして」
「なんだ石倉。文句でもあるのか?」
「おおありですよ。対象が記憶を失っているならなおさら今のウチに殺すべきだと思いますよ。なにせいつ記憶が戻るかもわからないんですから」
「だが戻るとも限らないだろう。殺さなくていいならそれにこしたことはない」
「なにバカなことを……こっちも一人殺されてるんですよ? 今殺さないでいつ殺すんですか? 班長はそもそも矛盾してます。殺したくないならとっととよそへ行ってくださいよ……任務は俺たちが引き継ぎますから」
なにをバカな、と思ったところで石倉は銃を向ける。
それから間髪を入れずに引き金が引かれ、私の胸を貫通し背後にあるパソコンを撃ち貫いた。
ゴポっ、と口から鉄臭い血がこぼれる。
「な……」
「いつもイライラしてたんだよ、アンタの生温さには。他の隊員も同じだ。隊はいただいた」
オイ、という号令のもと扉から残りの六人が入ってくる。だが、私には目もくれようとはしない。どうやら私は本当に裏切られたらしい。自分の情けなさに悔しさが押し寄せる。
「アヴェンジ!」
『アヴェンジ!』
石倉の号令のもと、全員が装甲兵器を装備する。
薄れゆく意識のもと、全員が部屋から出て行く音が聞こえる。
(まずい……石倉なら病院でも強襲する可能性がある)
ふらふらと立ち上がりながら、私は自分の装甲兵器を持つために部屋の隅に向かった。