二章-9 決着
「やった!」
「……まだだ。ありゃそう簡単には終わらない。強さは上の上、あの程度でくたばるわけねえ」
そんなバカな、と愛野さんは言うが案の定すぐにバンダナは立ち上がる。
「ほれ見ろ。立ち上がったぜ?」
「隊長のパンチやラリアットを受けて立ち上がるなんて……なんてタフさなの」
汗を拭いながら愛野さんは心底驚いたように呟く。
そんな俺たちのことは関係なくバンダナは腰についているベルトにある青いスイッチを押した。
「イェーガー!」
バンダナはの言葉と同時に装甲兵器は姿を変え始める。複数の可変式の装甲兵器とは、こりゃまた珍しいものだ、と思う。本来装甲兵器には戦闘形態は一種類しかない。故に能力が特化されている。
「ウソ!? 装甲兵器がさらに形態変化を始めた!?」
愛野さんが驚いた声を出す。
だが当然だろう。複数形態に変形する装甲兵器など聞いたことがない。それは管理局に勤めているものならなおさらだ。
ゆえにこのまま速攻で倒すのが最善手ととるべきだろう。変形が終わる前に踏み込み、拳を振りかぶる。そして最速の一撃を出した。
だがその拳が当たることはなかった。
俺の拳が当たる一歩手前で向こうの装甲の変化が先に終わった。
背中には青を基調とした可変式ブースター、足にはスタピライザーが装備されていた。
それに戸惑い、俺の拳の速度が一瞬遅くなった。バンダナは乱暴に俺の一撃を弾くと、ベルト横のスイッチを押した。
点火。
防御する間もなく俺は圧倒的スピードを誇るバンダナに俺はひき飛ばされた。
(ま、ズイ! この加速力、瞬間的速度だけならさっきの金髪を超えてる!)
対処しようにも空中に浮かされているため受け身も困難だ。しかもあの速さなら、俺を確実にとらえてくる。結論から言えば、まずいの一言に限る。そう、例えるなら全盛期の○ッファローマンのハリケーンミ○サーをくらっているくらいまずい。
そう考えている間に身体は二回、三回と着地した瞬間に打ち上げられていく。その過程で速度はさらにあがっていき相対的に威力も上がっていっている。
どうする。
どうすればあのスピードに対抗できる?
そうしている間に三回ほど追加で俺は吹き飛ばされる。
「隊長!」
愛野さんの声が聞こえる。
どうやら俺を心配してくれているようだが、正直なところさっさと逃げてもらいたいところだ。あいつの狙いは俺だ。彼女に牙が向くことはないだろう。
そして七回目のバンダナの突貫、バンダナが突然苦しそうな表情に変わり動きがほんのわずかだが鈍った。
好機到来。
わずかに鈍った時点で俺は地面に着地、鈍った間にできたわずかな時間。そこで思い切り足払いをかけてバンダナの体勢を崩させることに成功した。そしてとっさにバンダナはスイッチを切ってブースターを止めるがもう遅い。加速したバンダナの身体は地面を転がっていき木々にぶつかりながら身体を傷つけていく。
これで決着はついただろう。
痛む身体を押さえながら立ち上がり、バンダナが転がっていた方を見る。
細い木々はなぎ倒されており、さながら特撮のような現場だ。違いは細いとはいえ木々をなぎ倒しているということくらいか。
だけどさすがにこれで決着はついただろう。
「さて、あとはアイツと会話を成立できるかどうかだけど……!」
……驚きだ。今みたいなことを言ってる場合ではなかった。
なんとバンダナはまた立ち上がってきた。身体には枝がいくつも刺さっており、消滅していないのが驚きなくらいだ。
それだけの執念が、この男にはあるということだろう。
「殺す……! お前だけは絶対……に……」
だが、そこまでだった。
バンダナの身体はどんどん薄くなっていき、消滅を始めていた。
「もう終わりみたいだな。だけどお前は一体なんで俺を……」
「殺す……養父さんを殺したお前を……!」
「!?」
「必……ず……˚コロ……ス……!」
そう言って消滅が近づいているのにも関わらずバンダナは俺に向かってくる。
だが、俺に後一歩まで近づいた瞬間、奴の身体は消滅した。
しかし俺に向かって言った最後の言葉。
「俺があのバンダナの親父を、殺した……?」
バンダナが消えてしまってはもう聞くことのできない疑問。
俺の頭にはそのことが繰り返し呟かれた。