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(9) ご乱心?

・・・


 ジウは、灼熱の溶岩による火傷から救ってくれたマックスとラップの二人に礼を言うと、挨拶もそこそこに、仮想対実時間レートを引き上げ、同時に空間転移コマンドを唱えた。


 『…大丈夫?…ジウさん?…【死】ななくて良かったね』


 精神的ダメージと肉体的ダメージの両方を心配して、アスタロトはジウの思念に呼びかける。実際…あの溶岩の温度はシャレにならない。

 マボの【七芒攻炎壁しちぼうこうえんへき】に焼かれた時は、初級の瞑想魔法といえども防御魔法である【円環サークル】と【一線ライン】を展開しており、さらにアスタロトの潜在的スキルである「褐色の代理腕」の自己防衛本能により奇跡的に持ちこたえることが出来た。…いや。出来なかったんだけど…自己暗示コマンド「anzi×anji」の効果が発動するまでの時間稼ぎが出来たため…奇跡的に生還できたのだ。

 先ほどの溶岩の泡が弾けた時、当然、ジウは防御魔法など展開していなかったし…ジウには褐色の腕も、自己暗示ツールも無い。

 マックスの迅速な回復措置があったとはいえ、よく【死】に至らなかったものだ…と、アスタロトは驚いている。


 <<ふっ…【死】ぬわけないでしょう?…あのぐらいで。私を何だと思っているんです?…システム側の担当者をナメてもらっては困ります………ふふふふふ…ふふっ…>>


 ジウの様子がおかしい?…アスタロトは急激な寒気を感じた…こ、恐い…


・・・


 『???……あの………ね?…ジウさん?………』


 <<…くくく…あの野郎。ナメた真似をしてくれたものです…。プレイヤーへの不当な干渉は禁止されていますが…システム側の担当者を騙すような不逞な輩にまで、大人しくしていられるほど…私は真面目な社員じゃありませんから………>>


 ま、ままま…ま…マジ?…何か…ジウさんが…「キレ」ていらっしゃる?


 『じ、ジウさん!…お、落ち着いて!!…お願いだから落ち着こうよ?…ね?』

 <<はぁ?…ナニヲ言っているんです。アスタロトさん。私は至って、極めて、至極、これ以上なく、自分でも驚くぐらいに冷静ですよ。えぇ。冷静デスとも。明鏡止水めいきょうしすいとは…今の私の為に古代のシャーマンにより予言された形容詞なのですよ…知っていましたか?>>

 『し、知らないし…そんなワケないじゃん!………ほら、深呼吸。深呼吸しよう!…ね、ね、ねね!!??』


 今、ジウがどんな表情をしているのか…アスタロト自身もジウの体の中に居候している状態なので目にすることが出来ない。それを幸いと表現すべきか、残念がるべきなのか…アスタロトは分からないが…「あぁ。ジウがNPCでないことだけは間違いない」…と、確信した。別に、今まで疑ったことがあるわけではないけれど…。


 アスタロトは、深呼吸の為に胸郭が膨らみ萎むのを感じた。ジウが、とりあえずアスタロトの指示に従ってくれたのだということを、その体感により知る。


・・・


 『えっと…あ、頭の悪いワタクシ=アスタロトのために、ジウさんが、今、何をどう…憤ってらっしゃるのか…一つ一つ、確認させて下さいませマセ!』

 <<…はぁ?…私は、憤ってなどいませんよ?…何度、言ったら…>>

 『わ、分かりました。ジウさんは平常心そのものですね。うん。間違いない。で、えっと、確認事項その1ですけど~「あの野郎」…とは、どなたのコトで?』


 再度、胸郭が膨らみ萎む。ジウなりに、冷静になろうとはしてくれているらしい。


 <<…決まっているでしょ?…メフィスさんのコトですよ…>>

 『はい。確認その2。そのメフィスさんが、ジウさんを…どう騙したと?』

 <<アナタも一緒に聴いていたでしょう?…私の偽者なんて、メフィスさんの所には現れてないんですよ…。騙された私も馬鹿でしたが…マックスさんの所へ戻っても絶対に、偽者が存在するかどうか判定できない…そういう巧妙な罠に…私を…>>

 『う~ん…あの…ジウさん?』

 <<………何ですか?>>

 『偽者の件が嘘だったかどうかは…分からないんだから…騙された…って断定することもできないんじゃないの?』

 <<いや。あのラップさんの反応は、直前に来たというのは本物の私のコトで間違いありません。…でも、言葉のやり取りでは絶対にソレが確認できないように巧妙に罠が…>>

 『いや…あの…もしもし?…気を悪くするかもしれないけど…反論していい?』

 <<反論?>>


 アスタロトの申し出に、ジウの思念が意外そうに揺れる。


・・・


 『メフィスさんの話を聞いて、「偽者が逆順で巡っている」って推測をしたのは、ジウさん自身であって…メフィスさんは、確か誘導するようなコトは一切言っていないよ?…だから、俺たちとは全然、別の順序で回っている…って可能性も捨てきれないし…』

 <<………>>

 『そもそも…事前に何度もジウさんは…メフィスさんに「騙されてはならない」…って言ってたけど………警戒してた割に…どうして騙されちゃったんだろう?』

 <<…そ、それは…>>

 『ねぇ?…メフィスさんが「騙す」っていうのは…いつものコトなの?…ジウさんは、何度も何度も…騙されてるってコト?』

 <<ば、馬鹿を言わないでください。そんなに何度も同じ人に騙されるワケないでしょう…め、メフィスさんに実際に騙されたのは………今回が…初めて…?>>

 『………何か…ソレって?…変じゃないかな?』

 <<変………ですか…ね?>>


 ジウのモードが、普段のモードへと復帰した…と、アスタロトは思念の色で感じる。


 『そもそも、「メフィスさんに騙されてはならない」っていう情報は…ジウさんは、どこから仕入れた情報?…自分の体験じゃないんでしょ?…例の「攻略ガイド」から?』

 <<…そうですね。その情報に影響されたのは…間違いないでしょう。しかし、私も、さすがに「不審なPC」により投稿されたその記事の情報だけを根拠に…こんなふうに信じ込む…ということはあり得ません。………確か…誰かプレイヤーの方から………>>


 思い出せない…のが…信じられない………という愕然としたジウの感情の揺らぎ。


・・・


 『恐らくさ…それが「不審なPC」の「思う壺」…って奴なんだろうね…。多少、暗示にかけられてるっぽいのかな?』

 <<むぅ!…それでは…メフィスさんは………>>

 『いや。ジウさん。だから、断定を焦っちゃだめだよ。全部、メフィスさんが仕組んだ…っていう可能性だって…消去できないんだから。…結局、誰が「不審なPC」か分からない…という初期状態に戻っただけ…。それに、依然として、一番怪しいのは、やっぱりメフィスさんだしね…』

 <<…はい。そうですね。メフィスさんの言動が…もっとも怪しい。しかし…確かめようがない。ひょっとすると、メフィスさんの所にだけ、本当に偽者が現れたのかもしれない…のだから…>>

 『うん。そうだね。その場合、メフィスさんが…さも嘘をついている…ように印象づけることができるしね…』

 <<むぅ………あ。そ、その場合、私の偽者は…私が「TOP19の集会」を告知して回っている…ということを…いつ、どこで知ったのでしょう?>>

 『う~ん。それは…俺には分からないよ。ジウさんに心当たりは?』

 <<…この件は、アスタロトさんに調査を依頼して…ついでに告知していただこうと思っていたのですから…アナタと一緒に既に回ったプレイヤーさんの所でしか話してない…>>

 『えっと…。そうすると…メフィスさんのところへ行くより前に立ち寄ったところの誰か…ってことになるのかな?』

 <<………いや。そうとは限りません。そう思わせることが…偽者の…それこそ「思う壺」なのかもしれませんし………ちょっと、待っててください…>>


 その直後、ジウの思念がフッと体から遊離したような気配を感じた。


・・・


 そして、数瞬の後に、またジウの気配が色濃くなる。


 <<………やられました…私のミスです。…例の集会の件は、知ろうと思えば…既に誰でも知ることが可能な状態になっています>>

 『え?…どういうこと?…何か、調べてきたの?』

 <<えぇ…。今、システム側の担当者権限で「Face Blog ER」にアクセスしてきました。…最初に訪問した…カミさんのところですが…集会の開催日や場所について、後日、私が再度伝えに参ります…と申し上げていなかったため…>>

 『あ。そうだよね。うん。俺も、ジーパンって奴のトコで、ヴィアってやつがジウさんを呼び止めて確認しようとした時に…それ思った。カミさんトコでは説明しなかったような気がする…って………じゃぁ?』

 <<…はい。カミさんが…よりによってオープンな「おしえます/おしえて!掲示板」に、「おしえてカテゴリ」として質問を投稿してしまっていました…>>

 『あぅぅ…な、何て余計なコトを!………っていうか…ジウさんゴメンね。俺、ヴィアが確認したときに…ソレ、気づいていたのに…指摘してあげなくって…』

 <<いいえ。何もかも…未熟な…私のミスです…>>


 そして、続けざまに3度。胸郭が膨らみ萎み…を繰り返す。

 自分の体でもなければ、自分の脳でもないのに、その深呼吸で急激に気分がスッキリしだしたのを感じる。時間の経過とともに、この体に馴染んできている?…アスタロトは不思議だった。そうして、少し気持ちに余裕が出てくると、さらに不思議な感覚が訪れる。間借りしているジウの体の他に、そもそもの自分の体の感覚さえも並行して受け取ることが出来るような気がしてきた。まぁ…ただ、結界の中で寝ているだけなのだが…。


・・・


 <<はい。…もう、大丈夫です。今回の件は…とても良い勉強になりました。…が、恥ずかしいので…私が取り乱した件は…出来ればナイショにしておいていただけると…>>

 『うひひ。良いよいいよ!…ジウさんには、右腕取れちゃったときとか…色々助けてもらってるモンね…ナイショにするよ…お安いご用!』


 ジウの安堵する気持ちが思念越しにアスタロトに伝わる。


 『…と、ところでさ…も一つ…確認したいコト…あるんだけど。いい?』

 <<何ですか?…お詫びに何でも…お答えしますよ♪>>

 『…あのさ。さっき…超高熱の溶岩を浴びて…「あのぐらいで死ぬわけない」…って、ジウさん言ったよね?…俺…死ぬほど…熱い…って感じたんだけど…あれ…強がり?…でも…無さそうだよね?………システム担当者のPCって…不死…なの?…HPが無限なの?…それとも…やっぱり単なる強がり?』

 <<つ、強がりです…単なる!>>


 慌てて答えの思念を返すジウ。…でも、それが嘘だとアスタロトには分かってしまった。

 普段は無表情で、自分の考えを相手に読ませない…それにより優位を保っているジウ。

 しかし、今は、一つの体をアスタロトの思念と共有しているため、少しの心の動揺でも、簡単に伝わってしまう。…つまり…ジウは、「不死」か「無限HP」か…どちらかだということ?…になるのだろうか?


 <<…んぁああ。駄目ですね。誤魔化せませんね。…しまったな…。あの…正直に教えますから…こ、これも…あの…な、ナイショにするって…約束してくれませんか?>>


・・・


 アスタロトは当然、即座に「ナイショ」にすることを約束する。

 この世界の「神」に相当する例のクリエイター。その部下であるジウたちは…さしずめ「天使」であると…冗談めかして…以前、ジウたちが言っていたのを思い出す。


 <<…「不死」では…ありません…が…プレイヤーの皆さんよりは…【死】から遠い位置にいる…というコトは…間違いありません>>

 『…【死】から遠い…位置?………えらくまた抽象的な表現だね?』

 <<申し訳ありませんが…今はまだ…全てをお教えする段階にありませんので、そんな表現で勘弁してください…ただ…>>

 『ただ?』

 <<…以前、お話したことを覚えているでしょう?…私たちシステム側のPCも、アスタロトさんたちも…そして…NPCも…この「デスシム」の世界では、同じ描画エンジンによりオブジェクトが再生されている…と。…つまり…>>

 『…あぁ………そうか…それなら…「不死」は有り得ないし…攻撃されればダメージを負う…っていうコト…だね?』

 <<はい。そして…誰もが【死】を疑わないような状態から…描画エンジンの仕組みを理解した上で奇跡のように蘇生したアナタなら…分かりますよね?…この世界では、描画エンジンを上回る影響力を発揮できれば…奇跡を起こすことが可能だ…ということを>>

 『…なるほど。じゃぁジウさんは…瞑想魔法…の達人?ってこと…か?』

 <<まぁ…我々は、空間転移も…魔法ではなく…コマンドにより行っている…ということは、お気づきでしょう?…同様に、描画エンジンへの干渉も…魔法…ではなく…コマンドにより行える…というコトです>>

 『うわっ………ちょ、超チートだね』


・・・


 <<…そう言われると…肩身が狭いのですが…我々はプレイヤーではなく、システム側のPCですからね。色々とシステム運営の必要上から、そのような超越権限が付与されているのだと…そうご理解ください>>

 『まぁ…そうだよね。仕事でやってる人たちが…プレイヤー同士のバトルに巻き込まれて…その都度…やられちゃってたら…仕事になんないもんね』


 アスタロトは、ジウの説明に納得した。だから、以後、ジウたちの特性を「チート」と表現することは止めた。そこに、ジウは念を押して再度、依頼する。


 <<…くれぐれも…そう…お願いですから、くれぐれも…このコトは他のプレイヤーには内緒にして下さいね。…実は、TOP19ランキング上位の何人かには…バレてしまっているんですが………その為に…ちょっと、厄介なコトになりまして…>>

 『へぇ~。俺以外にも、既に…今のコト…知ってるプレイヤーが居るんだぁ…』

 <<…別に、我々はシステム担当であるコトを笠に着て、偉ぶったりしているつもりはないのですが………この世界における「最強」を競い合っている方たちからすると…我々の存在は…大変「目障り」で「気に入らない」…のだそうです>>


 なるほど。アスタロトは別に戦闘狂というワケでもないので「最強」を目指してなどいなかったから…なおさら、ジウたちシステム側PCと自分たちプレイヤーの強さの比較など…考えたコトすらなかったが…想像してみれば、その不快感は理解できた。

 どれだけ苦労して経験値を稼ぎ、難しい仕様を覚えて魔法を習得して、その積み重ねでやっとのことで強さを得ても…常に、それより上手を行く存在がいる…という事実は、知らぬが仏…知ってしまえば、これほど目障りなことは無いだろう。


・・・


 その為、今回のTOP19ランキングで上位であることには何の価値も感じず、プレイヤー同士の小競り合いなどには全く興味を示さない者もあるのだという。

 それどころか、自分が最強である証を…誰よりも先に手にするため、希にではあるが、ジウたちシステム側の担当PCにバトルをしかけてくる者もいるという。


 <<…いや。今のところ…まだまだ…全然負ける気はしませんけどね。でも…さっきアスタロトさんも経験されたとおり…痛いんですよ、攻撃を受ければね。ただ、それでロストしてしまうまでに至ることはなく…コマンドで復帰できる…というだけで…だから、これ以上、そういう挑戦者を増やしたくはないんです>>

 『………はぁ…色々と…大変なんだねぇ~』


 アスタロトは、そう言いながらも…頭の中でシミュレートしてしまっていた。

 何を?…って、それは当然、ジウたちを倒せるかどうか…だ。

 アスタロトは、くどいようだが戦闘狂ではない。だが、シムゲ廃人であることには間違いない。やはり、クリア困難なクエストの存在を知れば、どうしてもクリアしてみたいと思ってしまう。そして…アスタロトは…今までのジウの言葉から、ジウたちシステム側の担当者PCが、決して倒せない存在では無いコトに気づいてしまう。

 そう。今の自分の強さでは、絶対に無理だが…このデスシムのレベルアップ・システムの仕様が…その強さに上限を設けていないのであれば…システム担当PCたちを倒すことは不可能ではない…


 <<…あの。アスタロトさん?…も、もしかして…こ、恐いことを考えたり…してないでしょうね?>>


・・・


 ジウに呼びかけられて、自分が深い思考の淵に沈んでしまっていたことに気づくアスタロト。慌てて、物騒な脳内シミュレーションを終了する。


 『あははははは…いやいや。べ、別に…何も考えてないよ?…恐いことなんてさ』

 <<そ、そうですか?…あははは…ふ、深く追求しないほうが幸せな気がしますので、し、信じることにいたします…。そ、それでは、次のTOP19(トップナインティナー)のところへ行きましょうか>>


 今、アスタロトはジウの体の中におり、その思考は意図せずに互いに伝わってしまう状態にある。しかし、今、音声化していない映像化のみで行ったアスタロトの脳内シミュレーションは、ジウに伝わってはいないようだ。

 次へ行こう…というジウの呼びかけに、肯定の思念を返しながら…音声化した思考と、映像化のみの思考とで、どうして伝わり方に違いがでるのだろう?…そう、アスタロトは不思議に思った。そう思っている間、ジウの方も次に向かう先…ランキング13位が現在いる座標…を検索しているらしく、互いに思念は沈黙の状態になっている。

 実は、今回のこの巡回は、「思念」というものを操るにあたり、想像以上に有意義な経験を与えてくれているのではないか。アスタロトは肉体から離れた今の状態で、大きく自分の実経験値が上昇している手応えを感じていた。


 <<おや?…なかなか次のマコトさんの所在座標が見つからないと思ったら…ちょっと意外な場所に滞在しているようですね…。しかも………>>


 思念を音声化したジウから、アスタロトへ「攻略ガイド」の該当部分が送られてくる。


・・・

=============

攻略ガイド №13 【呼称】マコト

【所在エリア】西南大陸超長河下流大地「瞑想都市カイラーサ」

【身体的特徴】キャラクター・タイプ「ヴェーダ神族破壊者」。性別:男性

 青黒色の肌。額に目のようなタトゥーが刻まれている。イロンナ意味デ…デカイ!

【人柄】正義の意味をはき違えている臭いがプンプンする。

【行動を共にするPC】真珠と呼ばれる眠そうな女性を連れ歩く。

【会話した印象】中二病か?会話不能。

=============

攻略ガイド №10 【呼称】鬼丸おにまる

【所在エリア】東端龍孤島エリア「大江山岳シティ」

【身体的特徴】キャラクター・タイプ「大和鬼族童子」。性別:男性

 とっちゃん坊や。頭がでっかちの童顔。手足短く寸胴だが筋肉質。

【人柄】悪ガキ。格闘馬鹿?協調性ゼロ。

【行動を共にするPC】兄丸あにまると名付けたNPCを連れ歩く。

【会話した印象】挑発的な発言ばかりで。意味不明。会話不能。

=============

攻略ガイド №9 【呼称】ネフィリム

【所在エリア】中東大陸聖域高原「木樵集落」

【身体的特徴】キャラクター・タイプ「巨人族戦士」。性別:男性

 通常のPCのサイズを縦横2倍にしたような体。頭部だけは通常サイズ。

【人柄】温厚そうに見えるが、長身をからかうと乱暴に豹変する。

【行動を共にするPC】エルと名付けた巨人族タイプのNPCを連れている。

【会話した印象】怒らせなければ普通に会話可能。怒らせると会話不能。

=============

・・・


 ランキング第13位「マコト」の居場所を検索し終えたジウから送られてきたのは、何故か3人分の情報だった。


 『?…え?…ジウさん。コレ、3人分だけど…どういうこと?…また、ギルド?』

 <<いいえ。ギルドではありません。…というか、この3人がギルドを組むなどということは…今後も絶対にありえないでしょうね…>>

 『ん?…どういうこと?…ギルドって、目的や理念が一致すれば簡単に結成できるんでしょ?…今はともかく、今後も無いってのは言い過ぎじゃない?』

 <<…きっと、アスタロトさんも…彼らに会えば同じ結論に至るハズです>>

 『へぇ。じゃぁ…また「濃い」キャラの人たちなんだね。…それよりも…ねぇ…何コレ?…またしても「会話不能」のオンパレードだよ!?』


 ギルド「四神演義」の面々も、マックスやラップも、そしてこのマコトや鬼丸、それにネフィリムも…とにかく「会話した印象」の項目の末尾が「会話不能」となっている。

 「不審なPC」の投稿した記事の内容であるので、もし、この「攻略ガイド」だけを読んでいたら、絶対に嘘か誇張だと思って信じなかっただろう。しかし、実際に彼らに直接面会したアスタロトは…それが少なくとも嘘とは言えないことを確認している。


 <<あははははははは………はは……>>


 ジウは答えに困ったのか、乾いた笑いの思念を返すだけだった。


 『…なるほど。それも会ってみれば分かる…ってことだね。で?…意外な場所って?』


・・・


 アスタロトの質問に答えることなく、ジウは転移空間から目的地の状況のモニタリングを始めた。

 もうだいぶ、このジウとの思念の共存状態に慣れてきたアスタロトは、ジウのモニタリングしている映像や音声をインタラプトして、一緒に目的地の様子を覗いてみた。


 相変わらず、屋外は激し過ぎるほどの雨。

 ジウのように空間転移コマンドでも使えるのなら別だが、ほとんどのPCは移動が困難であり、その結果、他のPCとの接触が制限されている状態。それが、今も続いている。


 プレイヤーの中には、マボのように卓越した魔法の持ち主も少数だが存在するが、転移魔法には「転移先の情景を明確にイメージ出来なければならない」という制約があるため、一度も行ったことの無い場所や、行ったことがあってもハッキリと思い出せないような場所にはマボたち転移魔法の使い手であっても移動できない。

 つまり、例の「不審なPC」が、システム側の緊急制限措置を破って、さらに不可能なハズの転移魔法を使って多くのPCの所を巡回できた…という事実は、非常に異常な事態だったのだ。だから、ジウたちシステム側の担当は、アスタロトに協力を依頼するなどという通常なら考えられない手段に出てまで、必死に犯人捜しをしている。


 しかし、アスタロトが今、ジウと共に覗き見ている目的地にいる3人のPCは、当然、そんな高度な転移魔法などを使うことができない。同じギルドに属しているわけでも、相互にGOTSS契約やGOTOS契約を結んでいるようでもないこの3人が、どうして同じ場所にそろって滞在しているのか?

 彼らの会話からそれを探ろうと、アスタロトは聴覚に意識を傾ける。


・・・

・・・


 「唸れ!我が鉄拳!………ヘヴィ・アイアン・クラブ!!!」


 野太い叫び声とともに、これまた異様に太い棍棒のような武器が風を切って振り回される。振り回している男は、デフォルメされたいわゆるSD系アニメのキャラクターのような5頭身程度にみえる体型で、手足に異様なほどの筋肉の鎧を装備した小柄なプレイヤーだった。


 「こ…棍棒を振り回しながら『鉄拳』とはこれ如何に!?…目を醒ませ!この悪党め」


 なるほどもっともなツッコミを入れつつ、ジャージのようなゆるい服装をして青黒い?という珍しい肌の色をした男が、その振り回された鉄棒の下をかいくぐり5頭身SDキャラにタックルする。青黒ジャージ男は、顔は優男だが体格は大柄なので、5頭身SDキャラが少々大きめのヌイグルミのような印象で、それを抱きかかえているようにも見える。

 その状態でも5頭身SDキャラは、鉄拳…ではなく棍棒を振り回し続けているため、その直ぐ傍にいたもう一人のプレイヤーの後頭部に強烈な一撃を食らわせてしまう。


 「うごがぁああぁ???!!!………な、な、な?…急に何をするのだぁ!?」


 後頭部を押さえながら被害者の男が振り返り、二人に向かって抗議する。

 で………デカイ。振り返った3人目の男は、平均的なサイズのプレイヤーを基準とすると、縦にも横にも2倍はあろうかという大男であり、座った状態であるにも関わらず青黒ジャージ男と同じぐらいの目線の高さを有していた。


・・・


 そもそも、5頭身SDキャラは小柄とはいえ、大柄な青黒ジャージ男に抱きかかえられた状態で宙に持ち上げられ両足をジタバタしている状態であり…その5頭身SDキャラが振り回す棍棒はかなり高い位置で振り回されていたのであるが…それが座った状態の後頭部にヒットするというのは…やはり相当に3人目の男が長身なことを物語っていた。


 「へん!…貴様が、そんな所にボケッと突っ立っているのが悪いのだ!…このウドの大木野郎が!!…我が鉄拳を喰らいたくなければ、床にでも這いつくばっていろ!」


 いや…。だから座ってたでしょ?…的な訂正を入れる役目の者は、その場にはいない。

 この3人が暴れ出して平然と傍に居続けられるような度胸が据わったものがいるとしたら、それは間違い無くTOP19ランキングの上位にランクインするだろう。

 そして、とばっちりを後頭部に受けたうえに、「ウドの大木」呼ばわりされた縦横2倍男は、その罵声を浴びた途端に顔つきを豹変させる。


 「………お前…今…何と言った?…ウド?…大木?………」


 怒りの形相で立ち上がろうとして…しかし、当然、天井に頭をぶつけて諦める。四つん這いの状態で、5頭身SDキャラを睨みつける。


 「俺様を無能呼ばわりするなぁぁぁあああ!!!俺様は貴様等の何倍も優秀なのだ!!!…長さで2倍、表面積で4倍、体積では8倍も優秀なのだぁ!!!」


 意味不明の自己主張をしながら、その2倍太く長い腕を横に薙ぎ払う。


・・・


 「うぉおあおあ!???…な、何故、お、私を狙うのだ?…さては貴様も悪党か!?」


 縦横2倍男の腕をスウェーバックして辛うじて避けたのは、青黒ジャージ男。反撃として、両手で抱えていた5頭身SDキャラを、縦横2倍男に思いっきり投げつける。


 「ぬぉおぉぉおおああ!!…き、貴様も俺様に害を為す気か!!…良かろう!!!…有能な俺様の力を受けてみろ!!!!」


 投げつけられた5頭身SDキャラを、その縦横2倍の腕で叩き落とし、今度は青黒ジャージ男を睨みつけて吠える縦横2倍男。

 アスタロトは、この僅かな時間のやり取りを覗き見ただけで、激しい頭痛に見舞われた。


 『………な、なんなの?コイツ等…っていうか、この部屋…もう、ボロボロじゃん…』


 状況を整理すると、5頭身SDキャラが青黒ジャージ男に棍棒で襲いかかったのを、青黒ジャージ男がタックルで躱して持ち上げたところ、縦横2倍男がそのとばっちりを食って後頭部に痛打を受け抗議。それに対して、謝るどころか侮蔑の言葉を吐いた5頭身SDキャラに縦横2倍男が反撃したところ、狙いがそれて青黒ジャージ男に当たりそうになり…それを避けた青黒ジャージ男が、5頭身SDキャラを投げて反撃した。…ということになる。………整理してみたところで、意味不明な争いであることに変わりはない。


 部屋の破壊状況からすると、少なくとも5頭身SDキャラと青黒ジャージ男の争いは、今、始まったばかりではないと思われる。


・・・


 『…こ、こりゃ…今度こそ、本当に「会話不能」な連中に間違いないな…こりゃ』

 <<はい。私も、できれば…この方々はスルーしてしまいたいのですが…>>

 『スルーしても、良いんじゃない?…だって、この人たち集会に呼んだって…きっと、まともな協議なんか出来やしないよ?』

 <<私も…そう思います。スルーしちゃいましょうか?>>

 『しちゃおう!しちゃおう!…お願いだから…スルーして!』

 <<…でも、私はスルーしても良いんですが…アスタロトさんは、本当にスルーしても良いんですか?>>

 『へ?…どういう意味?…俺は、ジウさん以上に困ることなんか無いけど?』

 <<本当に?…よく周りを見回してから判断したほうが良いんじゃありませんか?>>


 周り?………アスタロトは、あまりの衝撃的な光景の連続に、個性溢れ過ぎる3人にばかり目線が奪われてしまっていた。ジウに言われて、改めて部屋の様子にぐるっと意識を向けてみる。


 言われてみれば、何となく見覚えのある作りの部屋だった。一言で表現すれば会議室。

 3人が暴れたため壁や天井、床のあちこちが大きく傷ついているが、無事な部分を見れば、つい最近作られたばかりのような真新しさだった。

 この部屋は、大会議室…と呼ぶべき広い部屋だが、部屋の出入り口とは別の側面にあるいくつかの扉の先には、小さな会議室が繋がっているハズだ。

 そう。その小さな会議室は忘れようもない、アスタロトが慈雨と初めて会った場所。右腕を失った瀕死のアスタロトが慈雨から治癒魔法を受けた場所のハズだ。

 つまりは、この部屋は…【天の邪鬼】と遭遇した町庁舎の大会議室ということだ。


・・・


 『え?…え、え?え~~~?…何で?…ここ、「はじまりの町」の庁舎じゃん!』


 アスタロトは驚いた。この庁舎内には、イシュタ・ルーや慈雨、マボがいるはずだ。そして、抜け殻となっているハズの自分の体も。

 何故、こんな場所に…ライバルとも言うべきTOP19が3人も?

 ひょっとして…自分は…自分の体は…今………超ピ~~~~~ンチ!?

 そこで、やっとアスタロトは思いだした。

 今、「はじまりの町」は、アスタロトとマボの領土争奪戦の観戦者の残留組で、ちょっとした賑わいを見せていた。凄まじい戦いを制してみせたアスタロトにより、ある程度の治安が保証された町。平和で感じの良いNPCたちにより良質のサービスが提供される商店街。そして宿。宿には、観光目的のプレイヤーだけでなく、アスタロトが開校に向けて着々と準備を進めている「魔法大学」への入学希望者もたくさん滞在している。

 それは、町の復興を企図したアスタロトの望みどおりの展開なのだが…マボの凄まじい魔法を目にし、それを学べると知った入学希望者は思いの外に多くて、NPCが運営する宿やホテルだけでは部屋が足りなかったのだ。

 折角の入学希望者を逃してはならない。そう思ったアスタロトは、復興計画を一部修正して、急ピッチで居住区の整備を指示したのだが、それが完成するまでの間、いくつかの公共的施設の空き会議室を無料で宿として解放したのだ。NPC運営の宿と違って、行き届いたサービスは一切ないかわりに無料としたのだが…どうやら、この3人は、どういうわけか3人そろって同じ大会議室を仮の宿に選んでしまったらしい。


 身内とも呼ぶべき3人の女性を守るためにも、スルーするワケにはいかなくなってしまったアスタロトは、思念をフル回転させてどうしたら良いかを必死に考えた。


・・・


次回、「欲望こそは力なり(仮題)」へ続く…

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