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(6) ジーパンとヴィアの狂気

・・・


 <<…どうです?『俺っ子』を見た感想は?>>


 ジウが再び仮想対実時間レートを一気に引き上げ、カミやミコトの知覚速度が追いつかない状態にしてから空間転移系のコマンドで「イーステスト・タウン」からシステム管理領域へと待避し…そして、アスタロトに問いかけた。


 『いや…何か、綺麗な目をした子だな…って…』

 <<んんん?…アナタは、またしても女性を毒牙にかけようと企んでいるんですか?>>

 『え!?…いや…そんな気は…これっぽっち………しか…』

 <<…あるんですね?…ふぅ…困った方だ。…しかし、我が社としては…そのぐらい肉食系でいてくださった方が…この先の計画上は好都合ですから…良しとしましょう>>

 『この先の計画?』

 <<いや。こっちの話です…それより…どうです?…彼女は犯人ではないと信じたいのですが…?>>

 『うん。そうだね。例のPCの気配とは全然違ったよ』

 <<ふぅ。良かった。私、これでもけっこう彼女の性格、気に入っているんですよ>>

 『ねぇ…それより、さっきの話。何で、俺が金持ちなの?』

 <<実は…かくかく…しかじか…>>


 ジウは、彼女たちが面積拡張事件の時の「ダンジョン・ボス部屋直前で距離延長」の被害にあったという、例の苦情ショートメッセージの主の一人であることを説明した。


・・・


 そして、比較的難易度の高いダンジョンの途中に閉じ込められた彼女たちの救済措置が必要だと判断し、彼女たちに賠償を行うコトにしたのだという。

 ただし、システム側がその賠償額を負担する理由がないので、原因者であるアスタロトの所有物からその賠償が捻出されることとなった…ということで…


 『ちょ………ちょっと待ってよ。え?…え?…じゃぁ。例のスリ捕獲クエストの報酬のあの…被害額の…キャリーオーバーCPの1割って…』

 <<はい。かなりの額だったようですねぇ…>>

 『って…ことも知らなかったけど………それよりも、何?…賠償?…俺、そんなの全く身に覚えがないんだけど…?』


 そう。話を聞けば、確かに気の毒なコトをした…とは思うが、自分の責任というより、アレはシステム側の方が悪いんじゃないのか?…という思いも強く…アスタロトが直接、例の件で謝罪や賠償をしようなどと考えたことはこれまで無かった。

 少しだけバツの悪そうに思念を揺るがせて、ジウが白状する。


 <<実は…あの面積拡張事件は…アスタロトさんも先日お会いになった…あのクリエイターが…アナタの考えを聞いて「面白そうだ」…と独断で実行してしまったもので…それが各PCにもたらした影響について、社内でも問題となっておりまして…>>

 『そりゃ…そうだろうね。で?…それと俺の賠償と、どう関係があるの?』

 <<面積拡張で直接的に不当な利益を上げたPCはいなかったので、当初は不利益を被ったPCへの救済措置だけを考える…ということで落着しかけたんです。…なのに、その直後、とんでもない行動で莫大な利益を上げてしまったPCがでてしまいました>>


・・・


 そこで思念での会話を一旦切って、ジウの思念がアスタロトに光を当てる。まるで、その「とんでもない行動」をした犯人がアスタロトだ…とでも言うように。


 『な…何?…お、俺?…み、み、身に覚えがないんだけど?』

 <<普通に考えてですね…内部時間で何ヶ月も経過した後に、昨日今日サインインしてきた初心者PCが…いきなり東京都並みの面積を持つ領土の領主になることって…考えられないでしょ?>>


 そう。アスタロトは面積拡張後のチュートリアル中に、「ここは俺の領土だ!」を3回大声で叫ぶという領土獲得宣言を行い、現在の「はじまりの町」とそれを含む「初試練の平原」エリアをその手にしてしまった。

 面積拡張の影響は、基本的にその時点における「未定義」エリアにのみ現れた。既に他のPCの領土となっていたエリアは、その領主PCに対する年貢や税的な領主報酬を計算するために正確な面積データがシステム側とPC側の両方のデータストレージに記録されており、つまりは「定義済み」の状態であったため影響を受けない。

 一方、その時点で誰にも領有されていないエリアや、エリアとエリアの境目にあった僅かな境界線上の空白地域など、面積や長さが曖昧なままだった「未定義」領域は、面積拡張事件により一気に拡張した。

 だから既存の領主たちの領土は拡張することがなく、未だ領主の存在しないエリアだけが拡張したということである。例の「ほぼ惑星全域を領土とした」というPCの主張は嘘ではなかったようで、あの時点で領主が存在しなかったエリアは「初試練の平原」エリアだけだったのだ。


・・・


 全てのPCの冒険の出発点となっていた「はじまりの町」とそれを含む「初試練の平原」エリアは、誰もが無意識に領有の対象から外していたようで…いわば盲点となっていた。


 <<面積拡張前の…あの箱庭のような小さな「おつかいの村」周辺は…本当に可愛らしい練習用の広場…程度の印象で…誰も領有しようなんて考えなかったんでしょうねぇ>>

 『あぅぅ…お、俺だって…領有できるとは思ってなかったよぉ!…チュートリアル中にジウさんたちとはぐれて、途方にくれてたから…取りあえず適当に練習してたら…本当に領有できちゃったんだもん!』

 <<…で、面積拡張の原因者であるところのアスタロトさんが、その結果として広大な領土を直後に取得した…ということが明るみに出れば…公平性を欠くということで、大問題になってしまいます>>

 『うぅ…あの時点でそう言ってくれてれば、領主を辞退したのにぃ…』

 <<そんなつまらない解決法…クリエイターが許すと思いますか?…で、とにかくアスタロトさんには、その得た利益に対する対価を支払っていただけば…領土を買い取った…という名目が付きます。それで…あぶく銭ではありますが…例のウォレットを…>>


 何もかも無茶苦茶だらけだったチュートリアルだったが、あの「スリ少年捕獲クエスト」の報酬自体は、アスタロトが正当に手にしたものだった。「スリ少年イベント」の発生確率は1/250。先日のメジャーアップデートまでの内部時間6ヵ月間は、参加者数の上限が2千名に制限されていたため、チュートリアルを体験したプレイヤーの総数は、欠員の補充なども含めて総勢2500名程度。つまり「スリ少年イベント」の被害?にあったのはアスタロトを含む10名程度のはずだ。


・・・


 『うぅぅ…10人ぐらいしか被害者がいない計算だから…キャリーオーバーCPの1割なんて…普通はスズメの涙程度だって思うジャン!?…そ、そんな高額だったなんて…残高の表示を…み、見るだけでも…見てみたかった…』

 <<…見ない方がよかった…と思いますよ?…アナタは「鼻血が出そう」と表現されるような事象に遭うと、本当に鼻血を吹き出しかねませんからね>>

 『うぇぇ!?…そ、そんなにとんでもない金額だったの?』

 <<はい。ナイショですが…その被害額のうち9割以上は、TOP19に選ばれた数人のPCからの被害です>>

 『うはぁ…。そんな間抜けでもTOP19に選ばれるんだね?』

 <<まぁ…スリに遭うのはチュートリアル時点ですから…皆さん油断されてますよね。ただ、それだけ高額な被害にあっても、取り戻そうとしない…ほどのお金持ちプレイヤーさんは…平然と新たなウォレットをご購入されて…メインシナリオへと進まれました>>

 『な、なるほど…金持ちなら…いくらでも再チャージして、高価な武器やアイテムを揃え放題ってことなのか………ふ、不公平だ…』

 <<まぁ…庶民であるアスタロトさんにとっては不公平に感じられるかもしれませんが…その程度の不公平は、現実社会でも当然のように存在しますからね。システム的には許容される範囲なんです>>


 ううぅ…この「デスシム」って、【死】のリアルさ…以外の部分には、かなり淡泊なんだよね。と、アスタロトは改めて思い知らされる。


 <<まぁ…そんな理由で、あのウォレットは、強制措置として没収し、不利益を被った方への賠償として使わせていただきましたので…諦めてください>>


・・・


 『うぅ。惜しいことをしたけど…まぁ…諦めるよ。…てことは、彼女たちの他にも何人かに賠償がされたってことだね?』

 <<いえ。基本的に、あの面積拡張時に運悪く戦闘中だったPCのみが救済措置の対象ですから…該当する不運なPCは…幸い2組だけでした>>

 『なるほど、じゃぁ…領土云々とか、キスできなかった…とかいうのは対象外ってことで…えっと、それじゃぁ…もう1組の被害は…あ。思い出した、お尻が割れた…』

 <<はい。エリアとエリアの境目を跨いで巨大モンスターを釣り上げようとしていた方が、頑張り過ぎてしまって怪我を負われました>>

 『うへぇ…気の毒にぃ。何か俺的には、その人に一番賠償をしてあげたいけど…彼女たちと同じ額ぐらいは渡してくれたのかな?』

 <<………いいえ。一銭も>>

 『えぇ!?…何もあげてないの?…何で?』

 <<彼らは…アナタに対して、直接的に恨みを晴らしてしまったからですよ。詳しいことは………直ぐに分かります。さぁ、それでは次の訪問先、TOP19ランキング第18位のジーパンさんの所へ飛びますよ!>>


 不自然に勿体ぶった間を空けて沈黙しかけたジウは、急に思い出したように次の対象者の元への移動を宣言した。


 <<アナタのコンソールに18位の方の情報を転送しておきました。目を通しておいてください>>


 次の瞬間、ジウは空間転移系のコマンドを実行する。


・・・


=============

攻略ガイド №18 【呼称】ジーパン

【所在エリア】不定

【身体的特徴】キャラクター・タイプ「人間型賢者」。性別:男性

 そこそこに長身で痩身。一見、病弱なガリ勉タイプ。がに股で歩く。

【人柄】神経質。逆恨み気質。根暗。根拠の無い自信家。

【行動を共にするPC】ヴィアと呼ばれる攻撃系魔法の使い手に保護されている。

【会話した印象】自意識過剰で、実力もないのによく吠える犬。

=============


 アスタロトは空間転移中に、ジウから転送されてきた「TOP19攻略ガイド」の該当部分をチェックする。

 ジウが直接に別PCの個人情報を漏らすのはマズイらしく、既に全PCの目にするところとなっている「不審なPC」が公開した例の書き込みをコピーしたものが転送されてきた情報だった。先ほどのカミの所でも言っていたが、多少の偏見はあるが、大きくは違っていないということである。

 だが、これが間違っていない…ということは、ジーパンというPCは、あまり友だちになりたくないタイプのプレイヤーであるようだ。


 『…所在エリア………不定?』


 サインインして間も無いアスタロトは、「デスシム」のマップの全体像については全く頭に入っていないものの…「不定」というのはさすがに地域名ではないだろう。


・・・


 <<はい。彼らは、いくつかの拠点とする隠れ家的な場所はあるようなんですが、基本的に各地のタウンを渡り歩いているのが常なんです>>


 一瞬で目的地へと到達するハズの空間転移にしては、なかなかジーパンたちの前へと姿を現さないのが不思議に思っていたら、ジウの思念がアスタロトの思考に返事を返してきた。どうやらジーパンたちの所在地情報を検索しているらしい。


 <<あ。見つけました。どうやら彼らも空間転移の魔法を発動している最中だったようです。基本的にはシステム管理者権限で、どのPCの所在地も把握可能なんですが…さすがに、転移魔法の発動中だと…座標が不確定ですの…>>


 言い訳のような説明をしながら、ジウが転移コマンドのディスティネーション・ポイントを確定する。

 どうやら空間転移コマンドは、まだ完全には実行されておらず目的座標の入力待ちの保留状態だったようだ。


 <<さあ。出ますよ。ちょっと危険な目にあうかもしれませんが…慌てないで下さいね>>


 「危険な目?」…とアスタロトが問い返す間もないまま、ジウは転移を終えてジーパンたち二人の所在地へと出現する。


・・・



   【どぐぅあぁぁぁああああああうううぉぉぉぅぅぅぉぉぉおおおんんん!】



 通常空間へと出現した途端。ジウの両耳を凄まじい轟音が叩く。

 アスタロトは、自分の体から切り離されているにも関わらず「耳が痛い!」と感じ、思念を振るわせた。痛いと感じたのは「左耳」…どうやら自分の体ではないものの、現在、ジウの体の主に左側半分の支配権はアスタロトにあるようで、その結果として、ジウの左耳に飛び込んできた猛烈な空気の振動波は、アスタロトの意識へとダメージを送る。


 『何!?…なに、なに何?』

 <<お、落ち着いてくださいと言ったじゃないですか。ば、バランスが狂うので、勝手に左半身を操って逃げようとしないでください。ジーパンさんたちに怪しまれます>>


 しかし、そのジーパンたちは、いったい何処にいるというのだ?

 アスタロトの意識へと届く主に左目からの視界には、荒れ狂う炎と舞い上がる粉塵しか見あたらない。しかし、左耳から届く聴覚情報に…それは届いた。


 「ひゃぁぁぁぁぁああああああっ、はぁっ!」


 若い男の興奮した雄叫び。続いて、こちらはやや気怠い感じの冷たい声…


 【………楽園を追われる者。暗き果実を囓りて滅べ…】


・・・


 初めて聞く呪文だが、それが大規模な破壊をもたらす攻撃魔法の呪文だとアスタロトは直感した。


 【フォービドゥーン・ナップル・エクスプロージョン!】


 英語…にしては抑揚の無さすぎる第2文目。それが逆に怒ったような印象に聞こえる。


 【失楽爆炎獄しつらくばくえんごく!】


 炎の向こう側。まだ無事だったハズのタウンの一画。その建物の一つの内側から、魔法の3文目の詠唱終了とともに球状のエネルギー塊が出現し、みるみるうちにその直径が拡大して辺り一面をエネルギーの坩堝へと飲み込んでいく。

 球形をしたエネルギー塊の内側には劫火が渦巻いており、飲み込まれた街並みは瞬く間に燃え上がり崩壊していく…。

 凄まじい魔法だが、マボの【堕星天使獄だせいてんしごく】や【七芒攻炎壁しちぼうこうえんへき】に比べれば威力や規模は小さい。

 しかし、突然の魔法攻撃に対し、満足な防御も発動できないタウンは、いとも簡単に蹂躙されていく。

 猛獣のあぎとかじりとられるかのように無秩序に破壊されていく家々。

 逃げ遅れたNPCたちが、悲鳴を上げる間もなく息絶えていく。

 思わずアスタロトは走りだそうとして…ジウの体を大きくよろけさせてしまう。


 <<き…気持ちは、分かりますが…落ち着いてください。アスタロトさん!>>


・・・


 ジウの制止の思念は、アスタロトの心に届かない。

 何の罪もないNPCたちが、無残に傷を負い…酷い場合は一瞬にして燃え尽きていく。


 「…と、止めないと!…ジ、ジウ…な、何、やってんの!?…早く止めないと!」


 アスタロトの悲痛な思念は、遂にジウの口半分を乗っ取り、肉声として叫びを上げさせる。左半身だけが前のめりになるような不自然な体制になっている。


 <<アスタロトさん。落ち着いてください。お願いですから…。こ、この行為が、直ちにシステム上の違反行為に該当しない限り、私には手が出せないんです!>>


 轟音と粉塵に紛れているため、ジーパンたちにはジウの不自然な行動や独り言を気づかれずに済んではいる。しかし、この状態が続けば、いずれジーパンたちに不審がられてしまう。


 『な、何んでさ?…こ、これが不法な行為じゃないっていうの?』


 そうしている間にも、ひょろ長い細身の男が持つ長大な槍が、通りを逃げ惑うNPCを容赦なく突き刺し、切り裂き、店舗のガラスや壁に大きな穴や傷を穿っていく。

 その槍の先端は海蛇が巻き付いたような装飾が施され、その海蛇のあぎとが何かに食らいつかんとするように獰猛に開かれ…その上下の顎の間を貫くように槍先が鋭利な刃先を覗かせていた。

 魔法と槍。この二つによる被害の傷跡。アスタロトには忘れようもない光景だ。


・・・


 『こ、これって…「はじまりの町」にあった被害と同じじゃないか!?…ま、まさか…あれの犯人って…こ、コイツ等なのか!!??』


 そう。何処を目的とするでもない。純粋に破壊のためだけの破壊。通りがかりに気まぐれで振るわれる槍の凶刃と魔法の劫火。

 その破壊の跡は、アスタロトとイシュタ・ルーが共に吐き気にも似た不自然さとして感じた…「はじまりの町」のあの無秩序さと同じだった。

 そして、あの日と同じように…雨が降っている。

 いや。あの日以上の豪雨だ。何故なら、現在、システム的に、極力、PC同士が接触しないように移動制限がかけられているのだから。その移動障壁としての凄まじい豪雨の中、彼らの放つ攻撃による熱と風で、雨は一瞬にして蒸発していく。

 豪雨の音にNPCの叫び声や建物が倒壊する音はかき消されているのに…何故かジーパンたちの上げる雄叫びや魔法詠唱の声はハッキリと聞こえる。システム側の担当の耳を通しているためなのだろうか…。


 <<残念ながら…そのとおりです>>

 『だ、だったら…と、止めないと』

 <<いけません>>

 『な、何でだよ!!』

 <<アナタは今、私なんです。あくまでもシステム側の担当者として、行動していただかないと困ります>>

 『し、システム側からしたって、こ、こんなの認められる行為じゃないだろう!?…は、早く止めろよ!!』


・・・


 <<………まさか、この豪雨の中で…このような行為を行うとは…驚きですが…>>


 永遠に続くかと思われた破壊行為は、実際には非常に短い時間で継続が不可能となる。ジウは、そうなることを知っていたかのように二人の攻撃が終わるのを覚めた目つきで眺めている。


 <<ほらね。仮にもシステム側が移動制限のために降らせている豪雨の中で、こんなことを続けられるハズがないんです…>>


 アスタロトも身をもって経験したが、その豪雨の威力は空から無数のガトリング砲の一斉射撃を受けているかのようで、試しに町庁舎から出た途端に「痛っ!たたたたた…ぎゃぁ!」…と大げさな程の声を上げて屋内へと逃げ戻るハメになったほどだ。

 魔法が上げる炎のために、多少は雨の勢いは減じられているものの、それでもジーパンたち二人の体を叩くたびに雨は二人の各種ステータスにダメージを蓄積していく。

 そして、タウンの入り口周辺を数十メートルに渡って蹂躙したところで、遂に二人のステータスは攻撃を続けられない程度に低下したようだ。ステータス回復用のアイテムといったものも、この二人は余り持ち歩いてはいなかったようだ。

 攻撃の終了に、ほっ…としながらも、何も対処しようとしないジウに対して憤るアスタロト。再び文句を言おうとしたところで、ジウの視線がタウンの奥へと向かい、必然的にアスタロトにもそれが目に入った。


 <<…遅ればせながら…このタウンの自警組織が動き出したようです。…もっとも…召喚系魔法により呼び出されたゴーレムたちだけ…のようですが…>>


・・・


 物理的な攻撃への耐性が比較的高いゴーレムたちにより編成された防衛部隊は、凄まじい豪雨に叩かれても比較的長時間行動が可能なのだろう。

 ジーパンたちを確認すると、その巨体に似合わぬスピードで二人を目指して駆けつける。


 「おぃ!…ジーパン…さすがに…この雨じゃ…これ以上は無理だ!帰るぞ!」


 魔法を担当していた男が、槍を持った男に呼びかける。


 「くっ。だから…僕をジーパンと呼ぶな…」

 「そんなこと言ってる場合か!?…景気よく暴れてはみたものの…やっぱりこの雨はちょっとヤバイぞ…その上、ゴーレムなんかとすったもんだしてたら…最悪【死】ぬぜ?」

 「…くそう。…アスタロトめぇ…。これも全部、奴の仕業に違いない!」


 突然。自分の名前がジーパンから発せられ、アスタロトは驚いたように思念を揺らす。

 諦めてタウンの外へと駆けていく二人の後を、何の思念も浮かべずに淡々と追うジウ。

 タウンの外までくると、魔法使いの方の男が転移用の法具を取り出して転移魔法を発動する。逃げたのだ。


 <<さぁ。私たちも追いますよ………気持ちは分かりますが…タウンのことはタウンの責任者に任せましょう…>>


 無残にやられてしまったNPCたちを心配するアスタロトの気持ちを読み取ったジウは、アスタロトをやんわりと説得すると、即座に空間転移のコマンドを実行する。


・・・

・・・


 「クソっ…朝、現れた『不審なPC』とかいう奴の言っていたことは…嘘じゃなかったってことかよ…怠ぃな…」

 「オフィシャルの告知でアレは偽者だった…って書いてあったから…その話も全部嘘かと思ったんだけど…僕としたことが…甘かったか?」


 ズブ濡れになった衣服をドレスチェンジ・コマンドで一瞬にして乾いた衣服に替えながら、それぞれに愚痴をいう二人。

 衣服は乾いたものに変わっても、濡れた髪までは乾かない…という中途半端な仕様により、二人は濡れた頭をタオルでゴシゴシと拭く。…もしも、ドレスチェンジで髪の毛まで乾くようなら…そのPCは「ヅラ」…だということになる。まぁ、仮想の体を設定レイヤで自由に設定できるこの世界で、わざわざ「ヅラ」にするユーザーは少ないと思われるのだが…

 二人が戻ったのは、とある洞窟の中だった。何かのクエストのメインの洞窟の場所を分かり難くするためのダミーの洞窟なのだが、ヴィアが人払いの結界魔法を使って、こうして時々自分たちのアジトのようにしているのだった。

 光を発する法具に発光の魔法をかけて灯り代わりにしている。その決して暗くはないが、明るくもない微妙な光の中で、二人は悪態をついている。


 「…まぁ…あの戻ってきた2回目のジウは…本物だったんだろうな。最初に来たときと全く同じコトを説明するから妙だとは思ったんだが…。仕方ない。癪に障るが、この雨が止むまでは大人しくしているとするか?…なぁ、ジーパン」

 「…ジーパンじゃないって言ってるだろ!…しかし…アスタロトめ!くそっ!」


・・・


 「そのアスタロトさんに、直接、お会いになりたいとはお思いになりませんか?」


 二人が足を投げ出して座り、洞窟の壁に寄りかかっている…その目の前に、見下すような視線をしたジウが、忽然…と現れる。

 アスタロトは、ジウが決して先ほどの二人の行為を好ましく思っていなかったということを、その思念の揺らぎによって感じとっていた。二人が座り込み、自然と見下した視線となるようなこのタイミングまで、ジウは出現するタイミングを見計っていたのだ。

 いつもの無表情。しかし、顔は下に向けず目線だけを二人に向けた…正に「見下す」という表現そのもの…の視線。それを向けられて不愉快でない者はいないだろう。


 「…何だ、テメエ。いつもいつも、突然に現れやがって。胸くそ悪ぃな。その目をやめやがれ…」


 ヴィアが下からねめ上げるようにジウを睨む。アスタロトは、その視線に負けないようにジウの左目に力を込める。

 座ったままのヴィアの横で、ジーパンが忌々しげに立ち上がり、その長身を生かし、逆にジウを見下すようにする。


 「僕を見下すな。たかがシステム側の担当者の分際で…。ところで、今、何と言ったんだ?…アスタロトと会うか…そう訊いたのか?」

 「はい。例の『不審なPC』の件で、若干の不公平が生じてしまったという意見があります。そこで、この『デスシム』世界を代表するTOP19の皆さんに、その件に関する救済措置が必要かどうか…を協議していただきたいと考えているのです」


・・・


 しかし、その説明を聞いたジーパンの反応は冷めていた。


 「く…。下らないな。そんな協議など不要だ。要するに、そんなことが不利益とならない程に強くなれば、何の問題もない。今は…まだ、アスタロトと直接、対決する時期ではないんだ。そんなつまらない協議をしている暇があったら…早くこの雨を止ませろ。僕は、一刻も早く、奴を超えるための経験値を稼がなければいけないんだ」


 アスタロトは驚いた。このジーパンと呼ばれるPCが、何故、こんなにも自分のことを憎んでいるのか知らないが…しかし、今の話からすると…先ほどのタウンやNPCに対する殺戮行為は…自分よりも強くなるための経験値稼ぎに過ぎないということになる。

 直接的では無いにしろ、あの酷い殺戮行為の原因に自分が関係しているとは。アスタロトの心は、鋭い槍で一突きにされたように痛んだ。


 「おいおい。ジーパン。折角の面白そうな話…そう無下に断るもんじゃねぇよ。悔しいが現時点ではアスタロトの方が、俺たちより圧倒的に強いのは間違いない。けどよ、ランキングが本当なら…奴も7位。それより強いのが他に6組もいるんだろ?…俺たちより強い奴って言い方するなら…17組か?」

 「…またお前は。何かというと『面白そうだ』とか…悪い癖なんじゃないか?それ?」

 「馬鹿野郎~。ジーパン。面白くなかったら、こんなクソみてぇな世界にしがみついてても仕方ねぇだろ?…お前ぇは暗すぎるんだよ。どうせヤルなら、面白おかしくぶちコロサなけりゃ…特にあのいけ好かねぇアスタロトの野郎はよぉ。アイツが、そういう強い奴らが集まる場所で、どんな間抜け面を晒すのか…見てやろうじゃねぇか?」

 「そんな間抜け面見て…何の益が有るって言うんだい?…無駄な時間だよ」


・・・


 「ジーパン…。お前は、ガリ勉そうなツラぁしてる割にゃぁ…頭が残念な感じだな。知らねぇのか、『敵を知るものは…』何とやら…っていう兵学の基本をよぉ?」


 奇しくもアスタロトが今回、ジウと行動共にする理由と、今、ヴィアが言ったことは同じだった。ランキング18位として名前の挙がるジーパンよりも、このヴィアという攻撃魔法使いの方が、強いのではないか?…そうアスタロトには思えてならない。


 <<アナタの感覚は間違っていないですよ…アスタロトさん。単純な戦闘力だけでなく、総合的な戦略上の能力でもヴィアさんの方が数段上です…>>

 『じゃぁ…なんで?』

 <<守秘義務がありますので…詳しいことは申し上げられないのですが…ヴィアさんがどれだけ強かったとしても…この『デスシム』の目的上、彼は絶対にTOP19に選ばれることはありません…彼には、TOP19として必要な『あるもの』が無いのです>>


 これ以上は言えない…というジウの拒絶の意志を読み取って、それ以上アスタロトはなにも訊けなくなる。

 そして、実質的な力…としては上位のヴィアの言葉に、ジーパンも少し迷いながらも、考えを改めたようだ。


 「ば、馬鹿にするなよ。ぼ、僕は、し、知っているぞ。あぁ。知っているとも。しかも君より正しく知っているぞ。正確には『彼を知るものは…』と言うんだ」

 「へっへっへへへへ。おヤァ?…そうかい。そりゃ失礼したな。知っているのなら、当然、その『彼』のことを知りに、その協議に参加するんだろ?」


・・・


 興奮して普段「お前」という二人称を使うジーパンが、自分のことを「君」と呼んだのに気づいたヴィアは、挑発が成功したことに気づいて、意地悪くニヤニヤと笑う。


 「あぁ。するさ。するに決まっているだろう。僕は、奴を倒すためにはどんな手間も惜しまないのだ。き、君に言われるまでもなく…ちょっと勿体ぶっただけで、さ、最初っから参加するつもりだったさ!」


 見事に感情を操られて、意見を180度反転させるジーパン。

 あぁ。コイツと戦ったら、簡単に手玉にとれそうだな…とアスタロトはジーパンの精神的な弱点に苦笑する。特に、アスタロトは対PC戦においては「暗示」を操る戦いを得意としている。だから、むしろ自分と同じようにジーパンの思考を操ったヴィアのことを、アスタロトはやはり油断ならないと思う。


 「それでは、ご参加いただけるということで、よろしいんですね?………それでは、私からの要件は以上ですので、失礼いたします」


 ジウがその場をさろうとすると、ヴィアが気怠げに呼び止める。


 「おぃ…待てよ。その会合がいつ…だとか…何処でっていうのは?」


 そう言えば、カミの所でもジウは、詳しいことは何も説明していないことをアスタロトは思いだした。やはりヴィアは、しゃべり方の柄の悪さに比して実は繊細な神経をしているようだ。


・・・


 「………いつものとおり、詳細は後日。再び、私がお知らせに上がりますよ」


 普段のように忽然と消える…のではなく、ジウはジーパンよりも顔の位置が少しだけ高くなる位置まで浮遊して、敢えて見下すような目線の無表情でヴィアとジーパンに告げ、そして、一瞬の間の後に…忽然と消えた。


 俺を見下すな…と叫ぼうにも、既にその相手であるジウの姿は無い。

 ジーパンは、悔しそうに洞窟の壁面をつま先で蹴り…そして、その思いの外の硬さにつま先を痛めて悶絶している。

 その間抜けな姿を、ヴィアは愛おしそうに見上げながら、心の中で誓う。

 (ジーパンは弱い。今はまだ…笑ってしまうほどにな。TOP19に選ばれたことは奇跡に近いが…何、見ているがいい。この俺が、この俺の命が尽きるまで…ジーパンを最強の悪魔に育て上げてやるさ………コイツは俺の分身だ。俺の死後も…コイツがいる限り…俺の魂は不滅だ………。だから、俺がコイツを強くする。必ず)

 心の中で、そう思った後、実際に声にだして言う。


 「…そのつま先で、洞窟の壁ぐらい…崩壊させるぐらいに強くなってくれなきゃ困るぜぇ…俺の相棒ならよぉ。くくくくく…」

 「う、う、五月蠅いな。わ、笑うな」

 「ま、その為にも、一遍、見ておかねぇとな。俺たちよりも強いと評価された連中が、どの程度のもんなのかよぉ…」


 ヴィアのその言葉に、武者震いをしながらジーパンも頷くのだった。


・・・


次回、「四神演義(仮題)」へ続く…

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