第1章3話
時間が……足りないです
「これで最後の質問だよ。あんた、なんで家の前で倒れてたんだい?」
【適当に以下略】
面倒だからって手を抜くな。
「宿屋に入ろうとしたら、足が滑って、後頭部を打って気を失った」
「ああ、だからあんた大きなたんこぶができてたんだね。あんた、ドジなんだねぇ」
本当は殴られたんだけどな、たぶん。
さてと、質問はもう無いようだし、そろそろ外に出てみるか。せっかくゲームの中にいるんだから、町見て回ったり、フィールドに出て魔物と戦ったりしたいからな。戦えるのかどうかはわからんが。
「じゃあ、世話になったな」
俺はドアを開け、外に出――
「ちょっと待ちな。出て行くなら10日分の宿代払ってからにしておくれ」
「……え?」
「だから、宿代。本当はあんたの看病にかかった金も請求したいところだけど、今回は10日間の宿代、1000円だけでいいよ。あんた旅人なんだからお金ぐらい持っているだろ?」
「……」
10日間で1000円、つまり1日で100円か。随分と安いな。
いや、この世界での1円と、俺の世界の1円では、価値が違うと考えたほうが正しいか。
それ以前に、この世界のお金の単位は円なのか。いや~、初めて知ったな~、わっはっはっはっは――
「……」
「……」
「……もしかしてあんた、お金持ってないのかい?」
「…………………………………………………(汗)」
~10日後~
【さて この世界にきて はや10日 どうです? 冒険のほうは】
「1回たりとも宿屋から出られなかったこと知ってんだろ畜生!!」
1000円払うのに、10日間無休で働かされた。つまり日給100円!1日3食食事付きだったが、バイト代安すぎじゃないか?
いや、この世界での1円と以下略。
とにかく、10日間の労働を終えた俺は、ついに宿屋を出ることができた。
外に出ると、やはり城下町なだけあって、あちこちで賑わいの声がする。窓から外を見たときと同じように多くの人が歩いて、さっき出した大きな声のせいで、周りの人の視線が痛い。
「さてと、これからどうすればい――」
【チュートリアルを開始します】
「最後まで言わせてはくれませんか!?」
【却下です】
またこのパターンですか、そうですか。
まあ、チュートリアルはかなり重要だし、後にでも聞けばいいか。
【ここはゲームの世界です あなたの居た世界とは違います そこは理解していますね?】
「ああ」
【なので あなたにとっては常識なことが この世界では通用しないことがあります 注意してください】
まあ、当り前か。10日間ほぼ休憩なしで働かされたんだ。本来なら(たぶん)アウトだろう。ゲームの世界にいるんだし、それくらいは何となく理解していた。
【また この世界にいるほぼ全て人たちは プログラムで構築されています 決められた1つのセリフしかしゃべれない などという事はありませんが プログラムの範囲内の行動しかできません】
「……どういうことだ?」
【例えば あなたがある人にお金のついて尋ねたとき もしその人にお金に関するプログラムが入ってなかった場合 知らないと答えます もしも入っている場合 自分のプログラムの範囲内で答えてくれます】
「何て話しかけても、『ようこそ!!』しか答えない、という事は起きないってことか」
【そんなところですね】
後で少し話しかけて確かめてみるか。
そう言えばさっき、『ほぼ全ての人たち』って言っていたよな?ほぼ?……まあいいか。そんなに意味はないだろう。