序章(前編)
『この街にはとある伝説がある』
そう切り出したのは、幼馴染の上星りこ。
何故そんなことを突然言い出したのか??
訳も分からず、返事をしてみる。
『…その伝説っていうのは??』
『真夏に雪が降ると、神様が地上に降りてくる』
『へ、へえ…』
そう答えるしか出来なかった。
もう高校3年生にもなって、何故そんな幼稚なことを言ってるのか理解できなかったからだ。
第一彼女はそんなことを言い出す人間ではない。
どちらかと言うと男勝りで勝気な性格だからだ。
この街、【神降町】に伝わる伝説を真顔で言うほど、ロマンチストでもない。
じゃあ何故下校途中でこんな突拍子も無い話を出したのか??
『それがどうかしたか??』
『いや、なんでもない…。とにかくそういうことだ!!』
そう言い残すと、駆け足で去ってしまった。
…意味が分からない。
何故今この話をしたのか。
それに彼女の言った言い伝えはこの町に住む者なら大半が知っているだろう。
そして何故彼女はそれだけを言い、駆け足で去ったのか…。
『…まあ、良いか…』
そう独り言を呟き、帰り道を歩き出す。
すると突然、頬に冷たい感覚が広がる。
『雪だ…』
そう、紛れもなく雪だ。
それも今は7月。
梅雨が終わり、本格的に夏になる季節。
そんな季節に雪なんて…。それに、さっきの彼女の言葉は…。
疑問に包まれた脳内が突然ブラックアウトした…。