茨道の花火【詩の中の小さな物語3】
暗闇の中
私は歩く
茨の道に
傷つきながら
暗闇の中
私は歩く
光を探す
一筋でもいい
暗闇の中
私は歩く
茨の道に
花火が轟く
茨道の花火 (写真詩から詩を抜粋)
先の見えないこの暗い道を、また誰かが迷い込んできたようだ。ここに迷い込む奴は決まって、不安を抱えながら闇雲に歩いていく。ここは自分の指の形さえも見えない程に暗く、どちらが前かなんてわかりゃしないってのに。
しかもここでやたらめったらに動きゃあ、体のあちこちに鋭い痛みが走る。この道は硬く大きな茨の木が所狭しと茂っているからな。だから大体の奴は目を傷つけないように、少しでも痛み無く歩けるように、手で辺りを探りながら歩くから、そいつの手は傷だらけだ。でもそれすらそいつには見えてない。
「少しの光さえあれば。ほんの一筋でもいいのに。そうしたら正しい道が見えるかもしれないのに」
迷い込んだ奴は、大体は最初にそう思う。それから、なぜ歩かなくてはならないのか、なぜ何も見えないのか、本当に歩き続けて良いのか、次第にそういうことにも迷いだして、とうとう座り込んじまう。腹立たしい、虚しい、怖い、つらい、痛い、寂しい。そういう感情だけになった裸の心を膝ごと抱えて、動かなくなる。そんでそのまま、茨の木と一体化して、トゲを生やす。そしてまた道への光りは閉ざされるって訳だ。この茨の道は、そうやってできたんだ。
「でも。まだ、もう少し……」
でも中には茨に取り込まれずに、また立ち上がる奴もいる。そういう奴は茨を折ってでも前に進もうとする。だから俺ぁ豪快に一発、ぶちかます。
『ドーン!』
でっけぇ花火だろ。色鮮やかで眩しい花火が、一瞬だけ辺りを照らす。すると奴は気づくんだ。自分の立っている場所に一瞬、道が見えたってことにな。
あとはもう簡単よ。俺特製の豪華な花火で、今度はパチパチパチ、シュワシュワシュワと低い位置で光り続ける花火を点けてやるんだ。まぁ花火だからほんのりしか明るくはしてやれないけどな。でも、実は膝下くらいの高さに、四つん這いになれば通れるくらいの茨のアーチがあったってことに気づくんだ。今までにも、この先にも。
心に余裕が出てきたそいつは周りを見渡す。すると茨の上の方には美しい花も咲いていることに気がつく。自分の手足の傷も確認できる。まだ動かせそうだと、心を起き上がらせるわけだ。そいつは俺の花火の明かりを頼りに、さっきよりも怪我が少ない状態で前に進み出す。
俺はそいつが進みやすいように花火にジュワジュワと火を点け続ける。そいつはさっきよりも早く茨のアーチを進んでくる。たぶん、花火が終わらねぇうちになんとかここから抜けなけりゃって必死になるんだろうな。大抵が俺のいる所に転がり込んで来るんだよ。で、俺の顔を見て驚きやがる。まぁ仕方ねぇよな。俺の体は茨の木になっちまってんだから。
俺がいる所はちょっとした広場みたいになってるんで、冷静になった奴は大体腰を落ち着けてから聞いてくる。『なぜそんな姿に? ここはどこだ?』とな。
そんなこと俺だって知らねぇ。わかるのは、俺も元は人間で、ここで迷って動けなくなったら体が茨の木になっていっちまったこと。脳みそまで変わっちまう前になんとか自分を奮い立たせて動き出したら、そのまま茨人間になっちまったこと。この姿から戻れなくなっちまったから、出口を探すよりこうして同じように迷った奴の手助けをすることにしたこと。茨人間になったら暗くても周りがよくわかるんで、そこら辺にあるもんを活用してこうして花火もどきを作っていること。そういうことを話して聞かせてやる。
そうして話し終わると、奴らは礼を言って、先へ行こうとする。俺ぁな、あと一回だけだぞって言って、最後にでけぇ花火を上げてやるんだ。ずっと遠くまで、通れる道を照らしてやれるようにな。そんで、さよならよ。俺の役目は終わりってことだ。ここに戻って来た奴? んなもん1人もいねぇよ。きっとうまく、出口に辿り着いただろうよ。
終
詩に込められた小さな物語。写真詩として公開していた詩から物語を紡ぎました。
あなたが迷った時、ここから抜け出すちょっとした手伝いをしてくれる誰かが、何かがきっといるはず。視点を変えたり、休んだりも大事でしょう。でも一番大事なのは、自分を諦めない気持ちなのかもしれません。
あなたは誰かに助けられたことがありますか? 誰かをちょっと助けた、ということがありますか?
あなたの目は、どこを向いていますか?




