善人スキルで追放された俺、村を救ったら本当の魔王を見た
「お前のスキルは戦闘向きじゃない。追放だ」
勇者パーティーのリーダー、レオンはそう言って、俺を雪の降る山道に置き去りにした。
俺のスキルは《善意の可視化》。
人が誰かに向ける善意が、光として見えるだけの能力だった。
攻撃もできない。
回復もできない。
魔王討伐には役に立たない。
だから追放された。
だが、俺は死ななかった。
三日三晩、雪の中をさまよったあと、小さな村にたどり着いた。村人たちは俺を見つけると、すぐに毛布をかけ、温かいスープを飲ませてくれた。
「かわいそうに。ひどいめにあったんだろう」
「ここにいればいい。うちは人手が足りないんだ」
村人たちの身体からは、柔らかな金色の光がにじんでいた。
それは善意の光だった。
俺は泣いた。
世界はまだ、捨てたものじゃないと思った。
それから俺は村で暮らし始めた。畑を耕し、薪を割り、子どもたちに文字を教えた。俺のスキルは戦闘では役に立たなかったが、村では少しだけ役に立った。
たとえば、嘘の親切は暗く濁って見える。
本当の思いやりは、温かく明るく見える。
村人たちは皆、明るかった。
村長のオルガも、宿屋の女将も、鍛冶屋も、子どもたちも。
誰もが俺に優しかった。
だから、俺はこの村を守ろうと思った。
ある日、魔物の群れが村を襲った。
俺は戦えなかったが、村人たちの善意の光を頼りに、逃げ遅れた者を見つけ、怪我人を安全な場所へ運んだ。
そして偶然、古い祠に封印されていた聖剣を見つけた。
《条件達成。善意を信じる者に、聖剣の所有権を移譲します》
頭の中に声が響いた。
俺は聖剣を抜いた。
次の瞬間、身体中に力が満ちた。
魔物たちは一瞬で斬り伏せられた。
村は救われた。
その夜、村では宴が開かれた。
皆が俺を英雄と呼んだ。
「あなたこそ本物の勇者だ」
「もう、どこにも行かないでくれ」
「この村には、あなたが必要なんだ」
皆の善意の光は、いつもより強く輝いていた。
まぶしいほどだった。
俺は照れながら笑った。
けれど、その夜から、少しずつ違和感が生まれた。
村人たちは、俺を見張るようになった。
朝、井戸へ行けば誰かがいた。
畑へ行けば誰かがついてきた。
森へ薪を取りに行こうとすると、必ず誰かが止めた。
「危ないから」
「あなたに何かあったら困るから」
「この村のために、無理しないで」
言葉は優しかった。
光も善意だった。
けれど、息が詰まった。
ある日、俺は村を出て、魔王を倒す旅へ戻ろうと決めた。
正直に村長へ伝えると、彼女は寂しそうに微笑んだ。
「そうかい。でも、もう少しだけいておくれ。皆に別れを言う時間くらい、あるだろう?」
それも善意だった。
断れなかった。
その夜、俺の部屋の扉に鍵がかけられた。
最初は間違いだと思った。
だが、窓の外には鍛冶屋が立っていた。手には斧があった。
「すまんな、勇者様」
鍛冶屋は困ったように笑った。
その身体からは、眩しい金色の光があふれていた。
「村のためなんだ」
翌朝、村長がやって来た。
「あなたは自由に生きたいのだろうね。分かっているよ。でもね、あなたが出て行けば、また魔物が来たとき、私たちは死ぬ。子どもたちも死ぬ。それを見捨てられるかい?」
俺は何も言えなかった。
村長の光は、本物だった。
俺を憎んでいない。
騙そうとしていない。
心から、村のために俺を閉じ込めようとしていた。
それが一番怖かった。
悪意なら斬れた。
魔物なら倒せた。
だが、善意は斬れなかった。
俺はそれから、村の守護者として生きた。
村人たちは俺を大切にした。
食事は豪華になり、服は上等になり、部屋は広くなった。
ただ、窓には鉄格子がついた。
扉の外には、いつも誰かがいた。
「勇者様、今日も村を守ってください」
「あなたのおかげで、私たちは生きています」
「感謝しています。本当に」
光は、毎日、美しかった。
何年も経ったある日、かつて俺を追放した勇者レオンが村に現れた。
「探したぞ。魔王を倒すには、お前の聖剣が必要だ」
俺は鉄格子越しに彼を見た。
レオンの身体には、薄く濁った光があった。
自己保身。
打算。
焦り。
少しの罪悪感。
人間らしい、汚い光だった。
俺はなぜか、ひどく安心した。
その夜、村人たちはレオンを殺した。
毒入りの酒を飲ませ、眠ったところを縄で縛り、森の奥に埋めた。
誰も怒っていなかった。
誰も楽しんでいなかった。
皆、泣いていた。
「勇者様を連れて行かれたら困るから」
「村を守るためだから」
「仕方なかったんだ」
全員から、善意の光があふれていた。
俺はそのとき、ようやく理解した。
魔王とは、角の生えた怪物ではない。
黒い瘴気をまとった悪ではない。
人が自分の正しさを疑わなくなったとき、そこに生まれるものだ。
そして俺のスキルは、善意を見る力ではなかった。
人間がどれほど美しい理由で、どれほど残酷になれるかを見せる呪いだった。
今日も村の子どもたちは、俺の窓の下で手を振る。
「勇者様、大好き!」
その声は明るい。
その光は眩しい。
俺は鉄格子の内側から、笑って手を振り返す。
村人たちは安心したように笑う。
俺も笑う。
笑わなければ、彼らの世界が壊れてしまう気がしたから。




