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はざまのフォゲットミーノット  作者: 雪村灯里
間幕

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9/19

#9 陬・逕溷セ剃シ壼ョ、『譌ァ逕溷セ剃シ夐聞』

 ここに来た生徒達は、心に傷を抱えていました。


 人間関係、理想との乖離かいり、強い後悔。みんな、それを抱えながら大人になって行く。きっとヒヅル君も。

 

 私にも、過去や傷や未来は在るのでしょうか? 

 



 ゆっくりと瞼を開けると。そこは幽暗ゆうあんの中でした。

 夜でしょうか? それにしては、月明かりが無くて暗すぎます。


 肩に視線を動かすと、セーラー服の袖に着いた腕章が見えました。いつの間に着替えたのでしょう?



 私は確か……ユニさんを見送ったあと、気を失いました。……ヒヅル君はどこ?



 彼の姿を探そうとしても、体が鉛のように重くて動かすことができません。倒れているのか、立っているのか、重力の行方も分からない。そんな状況です。


「ここは、どこ?……」


 唯一動く口が、不安を吐きだしました。じわじわと膨らむ不安に、答えを与えたのは、落ち着いた少女の声でした。


『あら? α(アルファ)。戻って来てしまったのね。ここは……そう言えば、この空間に名前を付けていなかったわ』


 聞き覚えのある、落ち着いた声とゆったりした口調。

 それは私の正面から聞こえました。目を凝らすと黒いシルエットが見えます。


 身長は私と同じくらい。長い髪に、膝丈のプリーツスカート……セーラー服を着た少女のシルエットです。もちろん暗くて、彼女の表情は見えません。


 彼女は考える仕草をしました。右手の人差し指を顎に添えて、ポンポンと叩きます。三十秒ほど考えた後、いい案が浮かんだのでしょう。人差し指を魔法のステッキのように振りました。


『【裏・生徒会室】と名付けましょうか?』


 裏・生徒会室……そんな部屋があの学校には在ったのでしょうか? いえ、夢で会った少女が居るという事は、ここは夢の世界でしょう。


 そう思うと、不安は急速にしぼんでいきました。私は彼女に質問を続けます。 


「あなたは誰ですか?」


『私は、()生徒会長です。()生徒会長、生徒会活動お疲れさま』


 私は言葉を失いました。彼女が、旧生徒会長!? 同時に様々な疑問が、頭の中に溢れます。どれから聞きましょう?


 悩んでいる間にも、彼女の話は続きます。

 

『――でも、見ていて危なっかしいわ? もう少しで、有馬さんは七不思議になりそうだった。私が手を貸さなかったら、どうなっていた事か……』


「……手を貸すとはどういう事ですか?」


 あの現場に居て()()を持っていたのは、私とヒヅル君とユニさん。そして黒板の怪物と……


「まさか、あなた……」


『そう、黒い茨(あれ)が私』


 意志を持つ黒い茨。彼女は夢の世界の住人とばかり思っていましたが、私達と同じ場所に居たとは……。


「その節は、ありがとうございました。あなたは……一体何者ですか? 人間なのですか?」


 結構真剣な質問です。しかし、彼女は楽しそうにクスクスと笑ったのです。

 笑い止むと、彼女はやっと答えてくれました。


『そんなの、この学校では些細な事だわ? あなただって、自分が何者か覚えているの?』


 そう問われると、私はとても弱いです。小さく「いいえ」と答えるしかありません。


『ここは【はざまの学校】。黒板の怪物が人間の思い出を食べて作り出した場所。夢と現実・未来と過去・いろんな【はざま】が揺蕩たゆたう世界。ここでは人間か否かなんて、簡単に揺らいでしまうから意味を持たないわ』


 確かに彼女の言う通りです。生徒たちはお伽噺とぎばなしの住人のような容姿をしていましたが、最後は大人の姿になって消えて行きます。みんな存在があやふやです。


『私、ホワイトボードに書かなかったかしら?』

「そこまで詳細には書かれていませんでした」

『まぁ! それはごめんなさい』


 ごめんなさいと言いながらも、彼女は微笑んでいたのでしょう。それすらもこの世界では些細なのかもしれません。


 それでは現場が困るのですけどね。


『七不思議候補生も、あと4人。誰がどのように来るのかは分からないわ。でも最後まで気を引き締めて臨んで? 怪物達も多少は知恵が回るみたいだし』


 そうです。あの手この手で怪物達も必死に狙ってきます。


「あの……些細な事を聞いてもいいですか?」

『どうぞ?』


「既に3人は助かっています。その時点で七不思議は成立しませんよね?」


『ええ、そうね。でも、不思議が7つ()()から七不思議になる。数なんて後から揃えれば、どうとでもなってしまう。今は一つでも七不思議を作ったら、ゲームセットなの』


「ゲームセット?」


『そう。この【はざまの学校】が延命しちゃうの。廃校できずに、みんなこの世界に閉じ込められて帰れない。寿命が伸びた学校は、七不思議を揃えるまで魂を呼び続けるでしょうね』


「この学校が、生徒《魂》を呼ばない様に廃校させるのが、あなたと私の目標なのですね?」


『そう、さすがα(アルファ)。理解が早くて助かるわ』


 両掌をポンと合せて喜ぶ彼女。


「本当に廃校に出来るのでしょうか? たとえ七人守ったとしても、その後も生徒を呼ばれ続けたらずっと終わりません」


『その点は大丈夫。始まりが有れば終りも必ずあるもの。この学校は見ての通りボロボロで寿命間近。今回の七不思議候補生を一人でも食べられなかったら消滅するわ。――間違えた、廃校ね』


 思わぬ存在と会って、この学校の目的は分かりました。後四人黒板の怪物から守りきれば、この世界は終わる。――?


「この世界が消えた後、ヒヅル君や私、それにあなたはどうなるのですか?」


 その質問をした直後、キィンと耳鳴りがしまいた。まるで空間が切り裂かれるような大きな音。ビックリしましたが、再び意識を旧生徒会長に向けます。


『邪魔が入ったようね? この後も二人には生徒を助けてほしいの。私も手伝いたいけど、幾分弱ってきているの。力はセーブしておきたいし。あまり期待しないで?』


 おかしいです。話がちぐはぐです。彼女は真剣な声色で若干早口に話し出しました。そして彼女のシルエットが煙のように揺らぎ始めます。


『この学校に長く居過ぎると、本来の姿を忘れてしまうわ。手早くお願いね。それではα(アルファ)、生徒会の仕事とヒヅル君をよろしく。楽しい生徒会活動を』


「あの! まだ聞きたいことが!! 私は何者なのですか? それに、あなたが言ってた『願いは大抵叶わない』っていう理由は……!」



 輪郭しか分らない闇の中で、彼女が笑った気がしました。でも、それは昏い笑顔。



 強い風が吹くと、彼女のシルエットは黒い花びらに変り、吹き飛ばされて消えました。この時、やっと私の体が動きます。右手を伸ばし、叫びました。


「待って! 消えないでください!!」


 黒い花びらを掴み取ったと思った時、手に温かみを感じました。


「大丈夫? アルファ!?」

「――!!」


 探していた人物の声で、夢から()()()に引き戻されました。


 青く暗い、夜の生徒会室。私の伸ばした右手を、ヒヅル君の小さな手がキュッと握ります。心配そうに見つめるヘーゼルの瞳。


 さまざまな間で、存在が揺蕩う『はざまの学校』。それでも、彼の存在だけは揺らいでほしくない。そう、切に願うのでした。


(間幕 裏・生徒会室『旧生徒会長』)

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