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はざまのフォゲットミーノット  作者: 雪村灯里
第一幕 七不思議候補生

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#8 廊下を破壊するユニコーン【後編】

 私達は、北棟二階から捜索を再開しました。


 先ほどユニさんが空けた大穴を、三人で覗き込みます。

 これは……オーシャンビューって言うのでしょうか?


「ああ……自分は何て事を! これじゃ器物破損じゃないか!?」


 校舎を壊した罪に、頭を抱えたユニさんがしゃがみこみました。そんな彼の背中を、ヒヅル君がポンポンと叩きながら励まします。


「現実じゃなくて良かったな? それにしても、ユニが暴れただけで、ここまで壊れることある? この壊れ方は異常だよ。もろ過ぎじゃない? この校舎」


 確かに異常です。ぐりちゃんと校内を巡った時より、校舎の劣化が急速に進んでいます。壁の亀裂や欠けが目立つようになりました。それに、植物の浸食も。


「ユニ、もう暴れるなよ? 本気で校舎が崩壊するよ」

「崩壊!? な、何を言いますか!? ヒヅル殿!! 自分にそんな力は……いえ、十分に気を付けます」


 しゅんとして耳と尻尾をだらんと下げるユニさん。その隣でヒヅル君が楽しそうに笑っていました。ヒヅル君とユニさんが仲良くなって安心しました。


 二階の図書室と視聴覚室も探し終えたのですが、何も収穫は得られませんでした。次のフロアに向かいます。


  

 理科系の教室が並ぶ北館一階。物理室、化学室と順に捜索しますが、一向に傘は出てきません。


 次の生物室に三人で入ります。日が陰り始めた生物室は、不気味さが漂います。教室の片隅に置かれた人体模型が、何とも言えない恐怖を演出します。


「生物室……薄暗いと(おもむき)がありますね……」

「えっ!? アルファにも恐怖心が!? 何が怖いの? 教えてよ!」


 ヒヅル君が好奇心に満ちたキラキラ笑顔で聞いてきましたが……何か企んでそうで怖いです。


「ひ、ひみつですっ!」


 こんな時は黙秘に限ります。ヒヅル君は「な~んだ……」と残念そうに答えると、捜索を開始しました。


「アルファ殿、安心してください」


 ユニさんが穏やかな笑顔で励ましてくれました。そうです、今は一人ではないのですから……


「生物室なんて、僕達が付いていますから、怖くありません! これも、ただの人体模型です。安心してくださあ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!! 痛だぁぁぁぁ!」


「うるさいなぁ……げげっ」


「……………………」


 ユニさんが言い終えるよりも先に、人体模型が動いてユニさんに抱きつきました。私は絶句します。内臓や骨格サンプルが、どろりと溶けて黒くなりました。黒板の怪物が化けていたようです。

 驚いたユニさんが後足で立ち会がり、天井に頭をぶつけて大きな音を立て、ついでに角で穴もあけます。私、黒板の怪物なら怖くありません!!


「ユニさん! 今、追い払いますね!!」


 ユニさんに抱きつく黒板の怪物に、両手を押し当てます。触れた手から「ばちん!」と白い火花が起きて、怪物はユニさんから離れました。


 しかし、黒板の怪物はニヤリと不敵な笑みを遺し、どろりと床に溶けて消えたのです。解放されたユニさんは床にしゃがみ込むと、ガクンと項垂うなだれました。


「ユニさん、大丈夫ですか?」

「アルファ! ユニ! 大丈夫だったか!?」


 私達の声に、ユニさんは答えてくれません。ヒヅル君と顔を見合わせて、彼に異変が起こったことを感じ取ります。


 ユニさんの肩を揺さぶろうを手を伸ばしたその時、彼が私の手を強く掴みました。顔をあげるた彼は、悲しみの涙を零していました。その目はライトブルーの光を宿します。


「姫……そんな事が有ったのですね? そんなの辛すぎじゃないですか!! あんまりだ!!」

「え?……」

「おい、ユニ……どうした? しっかりしてくれ」


 ユニさんは私の手を離すと、静かに立ちあがりました。そこに朗らかな彼はいません。まるで空気がパキパキと凍り、彼の言葉には怒りが込められていきます。


「何だ? この学校? なにが思い出だ……何が懐かしいだ!……姫にとって学校は辛い事しかないじゃないか!!」


 彼は、近くに落ちていたモップの柄を握り締め、振り回し始めました。


「アルファ! 伏せて!!」


 ヒヅル君に引っ張られ、私は尻餅を突きます。

 鉄が歪み、ガラスが割れる音が教室内に響きました。


「アルファ! ユニの背中!!」


 ヒヅル君が何かに気付きました。私は彼の声に弾かれるように視線を向けると……

 ユニさんの背中の上に、ヒト型の黒板の怪物が乗っています。その手には傘が握られていました。


「ユニさん! 落ち着いてください!! 傘が有りまし――」

「こんな場所!! 壊してやる!!」


 ユニさんはそう吼えると、生物室から廊下に出て走り出しました。

 走りながら、モップの柄を振り回します。彼が腕を振るうたび、窓ガラスや、教室のプレートを破壊します。


 ユニさんの背に乗った黒板の怪物は、傘を指揮杖しきじょうのように振り回し、彼を誘導します。


「ユニさんから離れなさい!!」


 私は腕から白い茨を伸ばし、黒板の怪物を捕まえようとしました。しかし、ユニさんが走り出したため、虚空を掴むだけ。


「ユニ! 行くな!! アルファ、ユニを追おう!」

「はい!!」


 私達は轟音を響かせながら走るユニさんを追い駆けます。南館へ移動すると途中にある昇降口は、まるで嵐が来たかのようでした。下駄箱が倒れ、掲示板もボロボロです。


 昇降口を過ぎ職員室前の廊下に来ると、ユニさんは歩きながらモップの柄を振るっていました。彼が空を薙ぐ度に、ガラスと叩き斬られた蔦の葉が舞います。


 まだ日は落ちていないのに、廊下の奥が真っ黒でうごめいています。ユニさんが、あの奥に行ったら助けられないと直感しました。


 ユニさんは絶望した表情で、うわ言のように呟きながら歩いて行きます。私達はユニさんを止めようとしても、振り回されるモップの所為で近づけません。


「姫……安心してください。姫を一人になんてさせません……自分も一緒に逝きます……」


「ユニ! 目を覚ませ!!」

「ユニさん!! 落ち着いてください!!」


 負の感情に呑まれた彼に、私達の言葉は届きませんでした。


「私が茨でモップを掴みます! ヒヅル君はその隙に怪物を!!」

「ああ!」


 私は両手をユニさんに向けて伸ばします。2本の白い茨は、彼が持つモップの柄に巻きつきました。黒板の怪物が傘で茨を叩き斬ろうとしますが、必死にこらえます。


 この好機を逃すまいと、ヒヅル君は素早く駆け寄りました。ユニさんの背に乗る黒板の怪物に手を伸ばしますが……


 ユニさんはモップの柄を思いっきり振るったのです。釣られた魚のように、私の体がふわりと浮きました。そのまま投げ飛ばされ、廊下に叩きつけられます。


「あぁっっ! くぅぅぅ……」


 叩きつけらた痛みで声が漏れました。同時に茨も力を失い、だらりと廊下に落ちます。


「アルファ!! うっ!!」


 私の茨から解放されたモップの柄はヒヅル君を襲いました。ヒヅル君も私の後方に吹き飛ばされて壁に叩きつけられ、そのまま廊下に倒れます。

 ヒヅル君は、うめき声をあげるものの動けません。

 

「ヒヅル君!……ユニさん……やめて……お願い……止まって……」


 もう一度茨を伸ばして、ユニさんの後足を捉えます。白い後ろ脚に茨が絡むとユニさんが悲鳴を上げました。前脚を上げて立ち上がります。


「あ゛あ゛あ゛ー!!」


 私の茨の棘が、彼の脚に食い込みます。

 

「痛いですよね……ごめんなさい……でも、止まって欲しいのです」


 しかし、彼は歩みを止めません。私は彼に引きづられながらも、距離を詰める為に茨を体の中に戻していきます。

 ガラスが散らばる廊下。私が引きずられた跡には赤い花びらが落ちます。

 

 私は彼に問いました。


「ユニさん!……本当は……何に怒っているのですか?」


 それを聞いたユニさんは、動きを止めました。しかし、止まった彼に黒板の怪物が囁き、闇へといざないます。闇もユニさんを迎えるように長い腕を何本も伸ばしました。


「ダメ……ユニさんを返してください!!」


 きっと、収まることの無い怒りを抱えたまま、彼はこの学校に囚われてしまう。そんな予感がしました。


 ヒヅル君も倒れてしまった今、私の茨だけでは彼を完全に止める事が出来ません。今ほど自分の非力さを呪ったことは無いでしょう。


 もっと私に力が有れば……お願いします助けてください。私に力を貸してください!


 ――コツ……コツ……コツ……コツ……


 背後から足音が聞こえました。振り向いてその正体を確かめようとした時、それは「ヒュン」と空気を割きます。


「ぐあ゛あ゛あ゛ーーーっ!!」


 目を疑いたくなる事が起きました。黒い茨がユニさんと黒板の怪物を拘束したのです。そして……


「アルファ、大丈夫?」


 その声に振り向くと、ヒヅル君に似た青年が居ました。私と同じ年頃で、黒のスラックスに腕章が付いた半袖のシャツを着ています。彼は床に倒れた私を抱き起します。


「ヒヅル君?」


 見上げた彼の目に面影があります。優しく低い声で彼は答えました。


「ああ、行こう。ユニの動きが止まっているうちに、黒板の怪物を祓おう。僕は奥に居る怪物を祓うから、アルファはユニの背中に居る奴を。傘も取り戻して欲しい」


「は、はい!」


 私達は立ち上がり、痛みに歯を食いしばりながら、ユニさんと黒板の怪物に駆け寄ります。

 ユニさんの背に乗っていた怪物は、黒い茨に絡め取られ悔しそうにキーキーと鳴いていました。傘で私をバチバチと殴ります。私は怪物を睨みつけました。



「ユニさんと、傘を返してもらいますよ」



 左手で傘を、右手で怪物に触れると白い閃光が走ります。


「ぎえ!!」


 黒板の怪物は一声鳴くと、ドロリと溶けました。形を失いユニさんの体からビタビタと床に落ち、廊下の奥に居る本体の元へと逃げ帰ります。


 時を同じくして、ヒヅル君からも強い閃光が放たれます。怪物は悔しそうに鳴きながら腕を引っ込めると、学校の影へと溶けて消えて行きました。


 黒い茨もいつの間にか消えています。



 ――どすん!



 ユニさんがしゃがみ込みます。彼の目からはブルーの光が消えていました。


「ユニさん、大丈夫ですか? もう、怪物はいなくなりました」


 声をかけて、ボロボロに傷ついた彼の右手をそっと包みます。彼の冷たかった手に温かさが戻って来ると。頭上からぽつりとしずくが零れました。


「アルファ殿……自分は……自分が許せないのです! 今だって、感情に振り回されて破壊の限りを尽くしました。でも、一番許せないのは、あの日の姫を助けなかった自分です!」


 ユニさんは、大粒の涙を零しながら抱えてきた気持ちを吐露しました。


「夏祭りの日、夕立の中……人を待っていた姫に、もっと強く説得して家に帰していたら。いえ、自分には他にも出来る事が有ったかもしれない。……それをしなかった自分が悔しいのです」


「ユニさんは姫に、この傘を渡したのですね」


 私は傘をユニさんに差し出しました。傘には名前が書いてありました。



有馬ありま 真一しんいち



 そして、留めバンドに紙が挟まっていました。有馬さんはそれに気づき、するりと広げます。ネコ柄の可愛らしいメモです。


『有馬さん。傘ありがとうございました。とても嬉しかったです。これからもお体に気を付けて――月白つきしろ


「――姫!!」


 ユニさんは、本当の姿へ戻りました。背の高い20代後半の男性です。

 額の角は消え、足も人間のものに 白のTシャツに、黒のスラックス。有馬さんは傘を抱きしめ涙を零します。


 廊下の奥から、少年の姿のヒヅル君が戻ってきました。彼はポケットから紺色のタオルハンカチを取り出すと、ユニさんに差し出します。


「使えよ。……ユニは確実に彼女を救ってる。それ以上自分を責めるな。ユニは自分が出来る行動をとったんだ。……少しずつでいい、自分自身を許してやってほしい」


「ヒヅル殿……」


 ユニさんは、ヒヅル君からハンカチを受け取り、涙を拭いました。


「ずっと、心に刺さっていた棘が取れた気分です。夢でも姫からのメッセージを見れて良かった。アルファ殿、ヒヅル殿、ありがとう」


 ユニさんは、涙の残る笑顔でそう言い残すと、金色の光の粒となって消えて行きました。



 そして……




 ――ばさっ



「アルファ? ねぇ!? アルファ!?」


 平衡感覚を失い、糸の切れたマリオネットの様に廊下に崩れ落ちました。

 心配するヒヅル君を最後に、私の意識はここで途絶えます。

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