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はざまのフォゲットミーノット  作者: 雪村灯里
第一幕 七不思議候補生

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#7 蟒贋ク九r遐エ螢翫☆繧九Θ繝九さ繝シ繝ウ【前編】

嗚呼ああ! 姫だ……姿は変わっても、俺には分かります!」


 白い疾風の小脇に抱えられてさらわれた私は、校庭を一周しました。

 そして今、校舎近くの木陰に入ると、疾風の正体が明らかになります。


 その正体は、半人半馬のケンタウロス……いえ、ユニコーンさんです。


 彼の額からは、15センチほどのクリーム色の角が生えていました。それは表面に螺旋らせんの溝が掘られて、まるで美しい彫刻の様です。


 彼の上半身は私と同じ、高校生の容姿をしています。センターで分けられ、毛先がカールした黒髪。意志の強さを感じる眉。くりっとした浅葱色(薄い青緑)の目が……熱と哀愁の帯びた視線を私に注ぎます。


「夢で逢えるなんて、思わなかった……」


 涙をこらえながら呟く彼。まるで感動の再会です。

 どうやら、私の事を知っているみたいです。


 彼は私をギュッと抱きしめると、首元に顔を埋めました。背筋がぞわりとします。


「あの……離していただけますか?」

「失礼しました! 夢とはいえ、大胆な真似を」


 彼は丁寧に謝罪すると、私を横抱きに抱え直します。できれば、もっと離して欲しいのですが……。私は困惑しながら彼を見上げて、問いました。


「あの……あなたは、私の事をご存知なのですか?」

「ええ! もちろん!! ああっ!! 姫、また服が濡れています! 大丈夫ですか? 風邪をひきま――」


 彼は、私を見てゴクリと唾をのみこむと一言……


「姫? その姿……俺には刺激的すぎます……紳士として、見てはいけない!!」

「え? ……きゃっ!!」


 ユニコーンさんの鼻から、赤いものが滴るのと同時に、私の体は落下しました。お尻から地面に落ちるのを覚悟しました。――が、想像した痛みは発生しませんでした。


「アルファっ……はぁはぁ……大丈夫!? 軽っ!?」


 今度はヒヅル君の腕の中に納まってしまいました。彼はユニコーンさんを追いかけるのに、グラウンドを走るはめになったのです。


「はい、無事です! ヒヅル君、ありがとうございます」


 ヒヅル君は私の無事を確かめると、小鼻を抑えしゃがみ込むユニコーンさんを睨みました。こめかみに青筋が浮いています。


 本当に青筋って浮かぶのですね? はじめて見ました。


「なに手放してるんだよ! 危ないだろ? それに、見たな!? この変態馬野郎!!」


 今までで一番、口の悪いヒヅル君を見てしまいました。


 ◆


「んん~♪ 姫の体育着姿も素敵です。なかなか見れないレアな姿ですね!」


 私達は、三階の生徒会室に戻ってきました。

 私は濡れた制服から、メイさんが着る予定だった体育着を拝借しています。


 ブルーのハーフパンツに白のTシャツ。そして、ヒヅル君がどこからか見つけてきた、白に紺ラインが入った長袖のジャージを羽織っています。着替えを終えた私に、ヒヅル君が腕章を付けてくれました。


「腕章はこれで良し! アルファ、上着脱いじゃダメだよ? 脱ぐとあの変態馬が、鼻血を吹いて出血多量で死ぬから。まぁ、死んでもいいけど。僕は見せたくないんだ」


 まぁ……死。それは、いけません。


「少々暑いですが、仕方ありません。分かりました、気を付けます」


 ヒヅル君は「ありがとう」と天使の笑顔で頷きました。彼も干して乾いた制服に着替えなおし、左腕には赤い腕章が付いています。


 太陽はすっかり真上に居ました。開け放った窓からは、暑い昼下がりの風が吹き込みます。これなら制服もすぐに乾くでしょう。


 生徒会室の黒板からは、メイさんを表す『マーメイド』の記載が消えていました。新たに現れたのは……



 七不思議候補生(3)『廊下を破壊するユニコーン』



 彼の事でしょう。今では、濡れた私を抱えてビショビショになったシャツを脱いで、白いTシャツ姿になっている彼。よく見ると葦毛の馬の耳も生えています。確定です。


「僕はヒヅル。彼女はアルファ。それで、お前の名前は?」


 私達の自己紹介もそこそこに、ヒヅル君は唐突にアリングを開始しました。彼はあれからずっと不機嫌です。その態度に、私もユニコーンさんも驚きます。


「お前って……無礼な子供だな。自分の名前は……む? 名前が……思い出せない!」

「大丈夫ですよ? 安心してください。他に覚えている事は有りませんか?」


 ユニコーンさんは、私の両手を優しく包むと、満面の笑みを咲かせました。


「姫、貴女の事なら……」

「あのう……私は『姫』では無く『アルファ』といいまして……」


 包まれた手の温かさに戸惑っていると、ヒヅル君がユニコーンさんの腕をビッっとしっぺで叩きました。


「うちの会長にお触りはしてもらえます? その角へし折って薬にするよ? それに、ヒアリング進めたいんだけど?」

「む! それは失礼」


 ユニコーンさんはパッと手を離してくれました。


 副会長兼書記のヒヅル君は、大きなため息を吐くとパイプ椅子に座りました。メモ帳を開き、とんでもないことを口走ります。


「とりあえず仮の名前は……馬ね?」

「むむ? 近からず遠からず……」


 ユニコーンさん。流石にそれはまずいのでは……。ヒヅル君も失礼が過ぎるので、私は叱りました。


「ヒヅル君、失礼ですよ? 仮と言え、名前は大切です。真剣に考えましょう?」

「…………わかったよ、悪かった。ユニコーンだから『ユニ』でどう?」

「む? 『ユニ』ですね? 自分は問題ありません!」


 ヒヅル君もユニさんに謝りましたし、無事に仮名も決まったのでヒアリングを進めます。


「では、ユニさんは何か困っていることや、探している物は有りますか?」


 彼は腕を組み、白い耳をピコピコと動かしながら考えました。難しい顔をしていた彼がパッと明るい表情に変ります。


「そう言えば! 自分、傘を持っていた筈なのですが、見当たりません。いつの間にか失くしてしまいまして」

「なんだ、簡単じゃん。早速、傘を探しに行こう」


 ヒアリングは最速で終わりました。


 私達は、ユニさんの傘をさがして校舎を彷徨います。北棟の三階から、下りながら探していく算段です。

 この緑に浸食された校舎。元々白かった床は灰色に汚れ、割れた窓からは心地よい風がそよぎます。


 ユニさんも気持ちよさそうに耳をピコピコと動かしました。


「いや~。夢の中で、今は無き母校に来れるなんて!」

「ここを知っているのですか?」


 思わず驚いて、ユニさんを見上げました。


「はい! 合併で新しい名前になってしまいました。校舎も老朽化で取り壊されてしまいましたが……この木目の床とか懐かしいです」


「木目の床ですか……」


 私とヒヅル君は目をあわせました。そして軽く首を傾げます。


 この学校は見る人によって、見え方が異なる様です。ぐりちゃんはここを小学校と呼び、ユニさんは母校だと言いました。まるで、彼等が楽しかった時代の学校を反映しているようです。


 荷物をガサゴソと探しながら、ユニさんに尋ねました。


「ユニさん、その……『姫』とユニさんはお友達なのですか?」


「いえ、友達では有りません。毎朝、電車の中で姫を見かけるだけでした。姫はいつも本を読んでいて。どこか浮世離れした雰囲気に目が離せないのです」


「げ……ストーカーじゃないか」


「ストーカー? 失礼な。帰りの電車ではお会いしたことは有りませんし、家も存じません! でも、姫は自分より早く下車します。制服のデザインからどこの高校に行っているかは知っていましたが」


 通学電車で見かける関係だったのですね。「なるほど」と頷いていると、ヒヅル君が隣にやってきて、こっそり言いました。


「アルファ、さっきの蛇川のケースもあるんだ。話を鵜呑みにするな? あいつアルファに気があるみたいだし」


 メイさんは黒板の怪物にそそのかされて、ヒヅル君を捕まえようとしました。確かに一定の注意を持つことは大切です。


 次の教室で傘を探そうと三人で廊下に出た時、廊下の先に黒板の怪物が現れました。影を纏った人の形をしています。距離は離れているので近づかなければ問題なさそうです。


 しかし、ユニさんは黒板の怪物を見た途端、空気が変わりました。

 彼の朗らかな雰囲気は立消え、目を吊り上げて憤怒します。


「おまえ……よくも姫を!! 待て!!」


 彼はそう叫ぶと疾風の如く走って行きました。黒板の怪物はユニさんが追って来るのを確認すると二階へと逃げていきます。


「ユニさん行っちゃダメです!!」

「何やってる! あのバカ!! アルファ! 追おう!!」

「はい!!」


 ひづめの音が反響する廊下。ユニさんは二階の廊下を疾走しました。彼が走ると校舎が軋みます。


「待て! 逃げるなァァァ!!」


 我を忘れたユニさんは、黒板の怪物を追い駆けています。廊下の突き当たりで黒板の怪物は止まるとこちらを見ました。すると怪物の背後が真っ黒に染まります。


「お前が! お前がっ!!」


 ユニさんは黒板の怪物に突進しました。


 ――ドン!!


 大きな音と共に、校舎に衝撃が走りました。天井からは塵が落ち、この階の図書室で本棚が倒れる音がします。


 ユニさんは怪物の黒に塗れながら、何かを探しています。時折、角で怪物を突き刺しながら。しかし、彼は着実に黒板の怪物に飲まれていました。


 私達が追い付いた時には、黒い茨まで彼を捕まえようとしています。


「ユニさん落ち着いてください!!」

「暴れるな! この校舎ボロいんだから!!」


 私とヒヅル君は彼を止める為に、彼の腕にしがみ付きました。バチィッッと白い光がはじけます。

 腕章を付けた生徒会役員二人を飲み込めず、黒い茨と苦しむ黒板の怪物は消えました。


「む?……自分は何を?」


 正気を取り戻したユニさん。彼の目は元の穏やかな目つきに戻っています。


 しかし、目の前では校舎の壁が消え失せていました。窓が割れ、壁も崩れ、外の風景が良く見えました。


 ――パキッ


 あと一歩踏み出していたらここから落ちていたでしょう。三人とも思わず息を飲みます。


「一度、生徒会室に戻りましょう。もう一度ヒアリングさせてください」



 ◆



 生徒会室に置いてあった、救急箱でユニさんの手当てをしました。

 幸いにも彼は擦り傷で済みました。


「いきなり暴れて、何が有ったんだ?」


 ヒヅル君もユニさんの胴体に消毒液を吹きかけながら尋ねます。


「実は、急に許せない相手が現れたものでして。そいつに鉄槌を下したかったのです。でも、気が付いたら……アルファ殿とヒヅル殿に抱きしめられてました。いやぁ、助けてくださり、ありがとうございます」


 ユニさんは申し訳なさそうに笑い、頭をポリポリと掻きます。


「乙女に抱かれて落ち着くって、本物のユニコーンかよ……。でも、前の二人が生意気たっだから、素直に礼を言われるとムズムズする」


 ヒヅル君は自身の二の腕を擦りながら、ムズ痒そうなリアクションをします。

 私からは、ノーコメントでお願いします。


「……ユニさん、許せない相手って誰なんですか? 私達には黒い影にしか見えなかったのですが……」


 その問いに、ユニさんは顔をうつむきました。少しの間を置いて、静かに答えます。


「それは……姫の彼氏殿です」

「彼氏殿?」


 生徒会室の空気が変わりました。温厚なユニさんの空気も、夕立前の冷たさを感じます。彼は続けました。


「はい、いつも人を見下す目をして。いやらしく笑う……最悪な奴です」

「その彼氏殿が『姫』に何をしたのですか?」

「あいつは……彼氏の癖に、姫を曇らせるのです……あの日だって姫を!」


 そう語るユニさんが、再び怒りに飲み込まれていきました。目がつり上がり、目が淡く光ります。そして、彼はドンッと机を叩きました。


「ユニさん、落ち着いてください」


 机に振り下ろされた、ユニさんの右手を包み込む様に握りました。彼の手は怒りに震えています。

 私の手に気付き、彼はハッと顔を上げました。その顔に怒りはもうありません。


「不思議ですね? アルファ殿に触れられると、怒りが消えるんです。いけませんね、自分怒りっぽくて。それでいつも損をしているのに……あれ? あいつ、あの日何をしたんだっけ??」


 ――べちん!


 ヒヅル君は、ユニさんの背中を軽く叩きました。


「さぁ、消毒も終わった。傘が見つかれば、それも思い出せるよ。暗くなる前に傘を探しに行こう」


(第一幕 #7『 廊下を破壊するユニコーン【前編】』)

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