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はざまのフォゲットミーノット  作者: 雪村灯里
第二幕 七不思議候補生

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13/19

#13 逵溷、應クュ縺ョ菴楢ご鬢ィ縺ョ繧エ繝悶Μ繝ウ【前編】

 この『はざまの学校』に現れる生徒には、共通点が有ります。

 

 ・自身の名前を覚えていない

 ・お伽噺に出てくる幻獣の特徴を持つ

 ・探し物が見つかると、本来の姿に戻って消える


 そして、今……。加えるべき項目が増えました。それは――



月白つきしろあすか』という少女に関連していた人々。



 ◆



「ヒヅル君、あなたは誰ですか?」


 宵闇の生徒会室はしんと静まり返り、窓の外から聞こえるザーッっという波の音が際立ちます。


 ヒヅル君は、現れた生徒4人のうち2人――蛇川へびかわ愛依めいさんと、千鳥ちどり律花りっかさんを知っていました。そして、月白あすかの死についても知る彼。


 彼は、私に何を隠しているのでしょう?    


 急にヒヅル君の姿を見失い、迷子になった気分です。

 目を伏せていたヒヅル君。口を一文字に結び思案した後……



「僕は……」



 彼の唇から、言葉が紡がれようとした時。チョークが、けたたましく黒板を叩きます。



 ――ガッ! カッカッカッカッカッカッカッカッ!!



 驚いた私達の視線は、黒板に釘付けになりました。


 跳ね踊るチョークは楽しそうに、次の生徒の名称を黒板に刻みます。時に、チョークが折れて破片が弾け飛んでも、それは止まりません。


 やっと静かさを取り戻した頃、現れた文字は――



 七不思議候補生(5)『真夜中の体育館のゴブリン』



 その文字は今までより大きく、とても乱暴に書かれます。

 黒板の怪物に邪魔されたヒヅル君は、悲しげな表情のまま答えました。


「……ごめん、言えない。でも、僕はアルファを傷つけたりはしない」


 ヒヅル君はテーブルの上に置いてあった懐中電灯を持ちました。扉の前に立ち私に向かって、華奢な手を差し出します。


「さぁ、体育館に行こう。新しい生徒が待ってる」


 冷静を装う彼の瞳の奥には、哀しみが隠れていました。

 この手を掴まなかったら、ヒヅル君はどこかに消えてまうのではないか……そんな不安すら感じました。


「わかりました……」


 そう答え、私は彼の手を取ります。冷たくしっとりとした、私より一回り小さい手。いつか、彼の事を知ることが出来るのでしょうか。



 ヒヅル君が生徒会室の戸を開けて、懐中電灯で廊下を照らすと……私達は驚愕します。


 廊下の壁には無数の黒い茨が張り付いていました。まるで黒いレースを張り付けたようで不気味です。急に世界が変わってしまった、そんな気さえしました。


「なんだ……これは……」

「旧生徒会長……――!? 一体何が起きているのですか!?」


 この黒い茨は、旧生徒会長の姿でもあります。廊下に向かって聞いても、彼女は何も答えません。

 

「アルファ、急ごう。いやな予感がする」

「はい!」


 私達は階段を駆け下り、北棟の西側に位置する体育館へと向かいました。体育館へ近づくにつれて、黒い茨が増えていきます。

 茨の所為せいで更に暗くなる廊下。まるで、あの子(旧生徒会長)が苦しんでいるようにも見えます。


 体育館の扉も、黒い茨で覆われていました。


 ――ターン……タッタッタタ……


 扉の向こうからは、ボールが床を跳ねる音が聞こえてきます。


「なんだこの茨……旧会長は僕達の味方じゃなかったのか?」

「ええ、彼女に何が起きたのか分かりません……仕方ありません、茨を剥がしましょう。ヒヅル君、危ないので下がってください」


 私は自身の茨を手のように使って、扉に纏わり付く茨を剥がします。プチプチと音を立てて剥がされる黒い茨は、涙の様に赤い樹液を垂らしました。


 体育館の扉に手を掛けて、思いっきり引いて開けます。砂を噛んだ音を立てて開いた扉の先、体育館の真ん中には黒い人影が一つ。

 

 私は持っていた懐中電灯で、その人物を照らします。


「眩しっ……」


 目の前で手をかざす青年。黒のスラックスに白い半袖のシャツ。その手は指先に行くほど緑色で、長く鋭い爪を持っていました。指の間から金色の瞳が私達を睨みます。


 彼がゴブリンさんのようです。お伽噺に出てくるゴブリンよりも、人間に近い容姿をしています。



「ねえ。眩しいから、顔に光当てるのやめてくんない?」

「失礼しました」



 私は光を彼の顔から外します。ライトの眩しさから逃れた彼は、手をおろしました。

 

 ブラウンの少し長い髪は、ツンツンと毛先が外を向いています。タレ目気味の目は相対した人物を計る様な視線を投げます。通った鼻筋に薄い唇。エルフの様な尖った耳は先端に行くほど緑色でした。


 彼を見て、なぜか背筋がざわつきました。私の記憶にない顔なのに……



「へぇ~。地獄もなかなかサービスしてくれるじゃん」



 その声に、なぜ動揺したのかも分かりません。


 ――ゴトン


 私は手から懐中電灯を落していました。そして、校舎の外も珍しく強い風が吹いています。


 一度、呼吸を整えて理由の分からない不安を払いました。ヒヅル君から落してしまった懐中電灯を受取り、生徒会の業務を始めます。


「初めまして。私は生徒会長の『アルファ』です。こっちは副会長の……」


 彼は話しの途中なのに、こちらに近づいてきました。素早く私との間合いを詰めると、私の腕を掴みます。さらに、白い髪をひと房手に取って、まじまじと見つめした。


 金色の目を細め、楽しそうに笑う彼。


 パッと髪から手を離すと、今度は私の顎に指を添えて軽く持ち上げました。強制的に金色の瞳に捕えられます。


「髪染めて、カラコン入れてる訳じゃないんだ? 俺の事、分らない? 思い出させてあげようか?」


 ゆっくりと近づいてくるゴブリンさんの顔。しかしそれは、眩しい光を受けて驚いき止まります。


 ヒヅル君が持っていた、懐中電灯を彼の首元に突きつけました。ヒヅル君は彼を睨みながら静かに言います。

 

「僕の前でやめてくれるかな? 彼女はあすかじゃないよ……ねぇ、君の名前は?」


 舌打ちをしてヒヅル君を一瞥したゴブリンさんは、私から手を離しました。ヒヅル君が私の手を掴み、彼から距離を取ります。


「俺は『狐塚きつねづか祐司ゆうじ』月白あすかの最後の彼氏だよ? なぁ?『三伏みふせ 陽弦ひづる』!!」


 狐塚さんの視線が、ヒヅル君へと刺さります。


 狐塚祐司・三伏陽弦……月白あすかの関係者です。


 ヒヅル君は、目を見開き驚いています。そして、直ぐに狐塚さんから目を逸らします。狐塚さんの興味は私からヒヅル君に移りました。


「その生意気な目、忘れないよ。にしても、ずいぶん小さくなったな? 陽弦。メイとはその後どうだよ?」

「……お前には関係ない。なんでここに居る?」

「さぁ? 誰かに刺されて、気付いたらこんな姿でこんな場所に居た。せいぜい地獄か、今流行りの異世界だろ? 死んだあすかも居るし。なんだ、お前も死んだの? 陽弦ゥ??」

「……くどい、彼女はアルファだ。――アルファ。戻ろう。こいつは放っておこう……」


 ヒヅル君は私の手を掴むと出口へと向かい歩き出しました。いつもと様子の違う彼に尋ねます。


「ヒヅル君!? 待ってください。何でですか!?!?」

「コイツは助ける価値ないよ」

「あすかさんを傷つけた、最低な彼氏だからってことでしょうか?」


 背後からケタケタと笑い声が聞こえました。心から愉快に笑っている狐塚さんに恐怖を感じ、ゆっくりと振り返ります。


「最低? お前と一緒だな。ヒヅル。人の彼女取って、あすかまで泣かせて」


 そのセリフに、ヒヅル君の手を握る力が強くなります。彼の手は更に冷たく、冷や汗をかいています。床を見つめ、唇をかみしめるヒヅル君。


「ヒヅル君。旧生徒会長は『決して、七不思議を作らない様に』と。憎い相手でも元居た場所に帰さないと……」


「また、そいつを選ぶの? 勝手にすれば? 僕は戻るから」


 ヒヅル君は激昂して私の手を振り払い、体育館から出て行ってしまいました。

 また?……ヒヅル君も私を通して誰かを見ています。それはきっと……



「あすか。アイツより、俺を選んでくれて嬉しいよ」



 狐塚さんは後ろから私を抱きしめました。彼は愛おしむ様に、私の肩に顔を埋めます。私はヒヅル君の姿が見えなくなった出口を見つめたまま、訂正と警告をしました。


「離れてください。私はアルファです」

「――? 痛っ!!」


 髪の毛先を茨に変化させたので、刺さってしまったのでしょう。ゆっくりと振り返り狐塚さんを見ました。


「あはっ! 何それ? やっぱ、お前も人間じゃないんだな?」

「ええ、そうです。そして私は、この学校の生徒会長です」


 なにも覚えていなくても、与えられた役割が有ります。

 少し目を細め、睨む様に彼を見ました。


 いままで出会った人達からの評価は、地に落ちている彼。


 しかし、彼はヒヅル君と同様に名前と記憶を持っています。彼から話を聞かないと、私もヒヅル君も前に進めない気がしました。


「狐塚さん、あなたと月白あすかについて教えてください?」


「ユウジって呼んで? 教えてあげてもいいけど……タダでは教えられないな?」

「交換条件ですか?」


「そ、話が早いね。そうだな? 全部教えるから、君の全てを頂戴?」

「嫌です。それ以上は近づかないで下さい」


 軟派で不埒ふらちな人です。私は彼の顔にライトを当て、さらに茨を出して威嚇しました。

 彼は茨の棘を見ると、ひるんで後ずさります。先程のが、よほど痛かったのでしょう。


「はぁ……。流されやすいけど、最後の最後は強情で頑固なところも似てる。いいよ、わかった。陽弦から君を独占出来るだけ、良しとするよ」


 ユウジさんは足元に転がるバレーボールを手に取ると、天井に向かって打ち込み始めました。

 ボールは天井にぶつかると床に落ちて跳ねます。ボールを拾っては打ち込んでを続ける彼。

 

 一体何をしているでしょう? ボールを投げる先を見ました。


 そこには天井と鉄筋との間に、赤いバレーボールが挟まっています。どうやらあのボールを打ち落したい模様です。



 私はユウジさんを見つめながら、話が始まるのを待ちます。

 何投目でしょう? 彼はやっと口を開きました。



「あすかと俺は、幼馴染なんだ」

「幼馴染?」


「ああ。家が近くて、あと――何だっけアイツ? そう、ぐり! みくり! ぐりとあすかと俺の三人は、よく遊んだ。小学校から帰ってきたら、互いの家を行き来して、俺が宿題を教えたり。ぐりは勝気で俺の言う事なんか全然聞かないけど、あすかは大人しくてね。小さい時から人形みたいに可愛くて、俺もよくちょっかい出してた」


 ぐりちゃん……みくりさんも月白あすかの関係者でしたか。ユウジさんは話しを続けます。


「でも親父の転勤で、一度はあすから離れる事になっちまった。けど、あの高校に転校してきて、あすかと再会できるとは思わなかったよ」


 私を見ずに、ずっとボールを天井に打ち続けるユウジさん。目は獲物を狙う様に鋭いですが、口元はニヤリと笑っていました。


「俺、欲しいものはどんな手段を使っても手に入れたいんだよね?」

「…………手段とは?」


 彼は、天井から跳ね返ってきたボールをキャッチすると。にたりと笑って得意げに説明を始めました。


「簡単だよ。メイを陽弦とくっつけた。あすかは臆病で優しいからね。アイツらに気を遣って距離をとってくれたよ」

「メイとは蛇川へびかわ 愛依めいさんのこのでしょうか?」


 蛇川愛依――彼女は、プールに沈むマーメイドとして、この学校にやって来た少女です。

 ユウジさんはその名前を聞くと、嬉しそうにケタケタと笑います。


「そうそう! 知ってるじゃん!! 暇だったから少し遊んだんだよ、見た目もあの中じゃマシだったし。そしたら簡単に全部手に入っちゃった。めっちゃチョロいの!!」


 愛依さんをまるで物のように言う彼に嫌悪を感じました。


「俺、なんでも全部手に入ると飽きちゃうんだよね? だから愛依を陽弦に仕向けた」

「仕向けたとは?」


 ユウジさんは私の目を見ると、うっとりと笑いました。


「『俺、他の男のものは奪いたくなる』って愛依に言ったんだ。あっさりミフセを口説きにいったんだよ? アイツ。笑えるよね? あとは簡単。愛依に『キス写やイチャついてる動画を俺に送ってよって』言ったら、本当にやるんだもん。おもしれーよ。あの女」


 それはとても悪趣味だなと感じました。月白さんはさぞ傷ついたでしょう。愛依さんも駒として扱うなんて……そして、ヒヅル君をも弄んだ。


 お腹を押さえて笑うユウジさん。彼は私の反応を舐めるように見た後、再び天井のボールを落しにかかりました。


「それで……月白さんは、あなたと付き合い始めたのですか?」


「……俺の周りには『付き合ってる』って言いふらしたけど、あすかは俺に見向きもしなかった。どうやったらアイツは俺を見てくれるか? どうすればアスカの心の中は俺でいっぱいになるのか悩んだよ……」


 そう語るユウジさんの目が仄暗く光りました。そして、天井に向けて力いっぱいボールを投げます。


「……好意では無く他の感情で、アスカさんの心を支配しようとしたのですか?」


 それが、月白さんを曇らせた要因。


 ボールは天井で鈍い音を立てると、落ちてきませんでした。ユウジさんは満足そうに笑いながらつぶやきます。


「――ああ惜しい。また取れなかった」



(第二幕『#13 真夜中の体育館のゴブリン【前編】』)


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