第91話 沈黙の村と、あいつ
~音がなくてもバイブスは上げられる!~
七海は沈黙の村で静寂を堪能していた。
──その瞬間、空が爆裂した。
「ナナミちゃ~~~ん!!沈黙フェスだよぉぉぉ!!無言でバイブス!!」
空から降ってきたのは、虹色のスピーカーを背負ったあいつ。
サングラス、金髪、ハイテンションのパリピ女神。
彼女は着地と同時に、広場に巨大なDJブースを召喚。
だが、村には音がない。彼女の声も、ただ口パクでしかない。
それでも、彼女は踊る。
筆談で「フェスの神です♡」と自己紹介し、村人たちに紙とペンを配り始める。
「音がないなら、筆談で盛り上がろうってこと……?」七海はマグを持ったまま絶句。
村人たちは戸惑いながらも、紙に言葉を書き始める。
「こんにちは」「ありがとう」「今日はいい天気ですね」
言葉が紙の上を滑るたび、パリピ女神は指を鳴らして“無音のビート”を刻む。
七海は、道具箱から“言葉の種”を取り出して、村の石のそばにそっと置く。
パリピ女神はそれを見て、紙にこう書いた。
「それ、バイブスの芽じゃん!!最高~~~!!」
──風が吹く。
村の空気が揺れ、沈黙の中に“伝えようとする気持ち”が広がっていく。
夕方。霧が晴れ、村の屋根が淡く光る。
七海は、宿屋をポンと建てて、縁側で静かに座る。
パリピ女神は、屋根の上で無音のDJプレイを続けていた。
紙に「沈黙って、エモいよね」と書いて、空に投げる。
七海は、マグを傾けてぽつり。
「……沈黙って、何もないんじゃなくて、残ってるものなんだな」
空には、言葉の代わりに、風の模様と、紙のセリフがゆっくり流れていた。




